24歳の女性。統合失調症。1年前に職場の対人関係のストレスから発症した。現在は休職し、外来通院をしている。嫌がらせをされているという被害妄想は薬物療法により消失したが、ちょっとした周りの表情やしぐさを見て「周りの人が私のことを言っているような気がする」という猜疑的な言動はみられている。そこで主治医の判断により、認知機能の改善を目的に週1回、外来作業療法を利用したプログラムに参加することになった。この患者の治療目的に合ったプログラムとして適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者さんは、周囲の表情やしぐさから他者の意図を誤解し、猜疑的な言動が見られます。これは、他者の感情や社会的状況を正確に読み取る「社会的認知」の機能に課題があることを示唆しています。SCIT(Social Cognition and Interaction Training)は、この社会的認知機能の改善と、それに基づいた社会的な相互作用スキルの向上を目的としたプログラムであり、設問で求められている「認知機能の改善」という治療目標に最も合致します。特に、統合失調症における陽性症状が薬物療法で安定した後に残存しやすい陰性症状や認知機能障害、社会機能障害に対して有効性が期待されます。
選択肢ごとの解説
- 1. ACT(Assertive Community Treatment)は、重度の精神疾患を持つ方が地域で安定した生活を送れるよう、多職種チームが包括的な支援を提供するプログラムです。この患者さんの主訴は認知機能(特に社会的認知)の課題であり、ACTは直接的な認知機能改善プログラムではありません。正しくは:この患者さんの主訴は、認知機能の改善、特に他者の表情や仕草から誤解してしまう社会的認知の歪みです。ACTは地域生活支援に重点を置くため、直接的な認知機能改善には別のプログラムが適しています。選びやすい理由:統合失調症患者の地域生活支援として一般的に知られているため、選択肢として魅力的ですが、この問題の核心である「認知機能の改善」に直接焦点を当てたプログラムではありません。混同注意:患者の社会復帰を支援するプログラム全般と混同しやすいですが、ACTはより重度で複雑なニーズを持つ患者への包括的支援を指し、個別の認知機能訓練とは異なります。
- 2. エンパワメントアプローチは、患者さん自身が自分の力で問題解決できるよう支援し、自己決定能力を高めることを目的とします。これは治療全体において重要な視点ですが、この患者さんの「認知機能の改善」という具体的な治療目標に直接対応する特定のプログラムではありません。正しくは:エンパワメントは支援の重要な原則ですが、具体的な認知機能の改善を目的とした介入プログラムとは異なります。患者の主体性を引き出すためのアプローチであり、治療プログラムそのものではありません。選びやすい理由:精神科リハビリテーション全体で重視される考え方であるため、正しいアプローチのように感じられますが、具体的なプログラム名として問われている文脈では、直接的な認知機能改善プログラムではありません。混同注意:個別プログラムと治療理念・アプローチの違いと混同しやすいです。エンパワメントは支援の哲学であり、SCITのような具体的な認知機能訓練プログラムとは別の概念です。
- 3. IPS(Individual Placement and Support)は、精神疾患を持つ方が競争的な雇用市場で就職し、その仕事を継続できるよう支援する就労支援プログラムです。この患者さんは休職中であり、最終的には就労支援も必要になる可能性はありますが、現在の直接的な治療目標は「認知機能の改善」であり、IPSはそのためのプログラムではありません。正しくは:IPSは就労支援に特化したプログラムであり、患者の現在の主訴である「認知機能の改善」に直接寄与するものではありません。選びやすい理由:統合失調症患者の社会復帰において就労は重要な側面であるため、選択肢として魅力的に見えますが、設問で示されている「認知機能の改善」という目標には直接対応していません。混同注意:職業リハビリテーションと混同しやすいですが、IPSは就労そのものに焦点を当て、認知機能訓練を直接的に提供するものではありません。
- 4. 正解。SCIT(Social Cognition and Interaction Training)は、社会的認知(他者の感情や意図を理解する能力)と社会的な相互作用スキルを向上させることを目的としたプログラムです。この患者さんが「周りの人が私のことを言っているような気がする」という猜疑的な言動を示しているのは、他者の表情やしぐさから意図を誤解している可能性が高く、これは社会的認知機能の課題と密接に関連します。したがって、「認知機能の改善」という治療目標に最も直接的に合致するプログラムです。
- 5. WRAP(Wellness Recovery Action Plan)は、精神疾患を持つ方が自分自身の回復計画を立て、健康的な生活を送るためのセルフマネジメントツールです。症状の悪化を防ぎ、危機的な状況に対応するための具体的な行動計画を作成しますが、これは「認知機能の改善」を直接の目的とするプログラムではありません。正しくは:WRAPは自己管理とリカバリーを支援する計画作成ツールであり、患者の認知機能そのものを改善するプログラムではありません。選びやすい理由:精神疾患患者の回復支援として広く用いられるため、選択肢として魅力的に見えますが、具体的な認知機能の改善を目的とした介入とは異なります。混同注意:リカバリー(回復)支援全体と混同しやすいですが、WRAPは自己管理計画の策定に焦点を当て、SCITのような特定の認知機能訓練とは異なります。
国試ポイント
統合失調症患者の具体的な症状(猜疑的な言動、他者の表情や仕草からの誤解)から、関連する認知機能の障害(社会的認知)を特定し、その改善に特化したプログラムを選択できるかが問われています。各プログラムの目的と対象を正確に理解している必要があります。特に、社会認知機能障害に対する介入プログラムの知識が重要です。
混同注意
ACT(地域生活支援)、IPS(就労支援)、WRAP(セルフマネジメント)など、統合失調症患者の一般的な支援プログラムは多数存在しますが、それぞれ目的が異なります。本問では「認知機能の改善」という具体的な目的が提示されており、その目的に最も合致するプログラムを選び出す必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、患者の具体的な主訴や治療目標(例:就労、地域生活、自己管理、対人関係、認知機能)を正確に把握し、その目標に最も特化したプログラム知識を問われる可能性が高いです。各プログラムの略称と正式名称、およびその目的と対象疾患・症状を整理しておく必要があります。
関連知識
SCITの他に、認知機能の改善を目的としたプログラムとしては、Neuropsychological Educational Approach to Remediation(NEAR)、Cognitive Remediation Training(CRT)などがあります。また、社会的スキル訓練(SST)も社会的相互作用の改善を目指しますが、SCITはより認知的な側面に特化しています。精神科作業療法では、これらのプログラムの理論に基づき、症状や認知機能に合わせた介入を行います。