57歳の女性。夫と寝たきりの母親との3人暮らし。編み物を趣味としていた。患者は手の抜けない真面目な性格で、介護が2年続いたころから「体が動かない。死んでしまいたい」と寝込むようになった。夫に連れられ精神科病院を受診し入院。1か月後に作業療法が導入となった。しかし、作業療法士に「母のことが気になるんです。ここにいる自分が情けない」と訴えた。この患者への対応として適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者様は、長期間にわたる介護と自身の真面目な性格から、心身が極度に疲弊し、抑うつ状態に陥っています。「母のことが気になる」「ここにいる自分が情けない」という訴えは、介護に対する責任感や自己犠牲の感情から、休むことへの罪悪感を抱いていることを示唆しています。このような状況では、まず患者様が安心して休息を取ることの重要性を理解し、医療者としてそれを認める姿勢を示すことが最も大切です。これにより、患者様は休息への罪悪感から解放され、治療に向けて一歩踏み出すきっかけとなります。早期退院の提案、他者への役割提供、趣味の強制、無理な交流促進は、いずれも患者様の現状の負担を増やすか、状態にそぐわない対応であり、適切ではありません。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者様は長期間の介護による心身の疲弊から抑うつ状態にあり、十分な休養と治療が必要です。この段階での早期退院は、患者様の状態を悪化させるリスクが高く、回復を妨げる可能性があります。正しくは:患者様の状態を十分に評価し、心身の回復と症状の安定を最優先に治療計画を進めるべきです。退院は患者様が安心して自宅での生活に戻れる状態になってから検討します。選びやすい理由:「母のことが気になる」という患者様の訴えに対し、退院すればその問題が解決すると思ってしまうかもしれませんが、現時点では医療的なケアが不可欠です。混同注意:患者様の訴えの表面的な内容と、その背景にある医療的な必要性の区別。
- 2. 患者様は介護疲れによる抑うつ状態であり、自己肯定感が低下しています。この状況で他者の世話を任せることは、新たな負担となり、責任感の強い患者様には過度なプレッシャーを与え、症状を悪化させる可能性があります。正しくは:まずは患者様自身の心身の回復を促し、自己肯定感を育むための介入が必要です。他者への貢献は回復の過程で徐々に検討されるべきです。選びやすい理由:「自分を情けない」と感じている患者様に対し、他者の役に立つことで自己肯定感を高められると考えるかもしれませんが、現状では負担が大きすぎます。混同注意:自己肯定感を高める方法として、負担の大きい役割提供と、段階的で無理のない活動提供の区別。
- 3. 患者様は抑うつ状態にあり、活動意欲が低下しています。この段階で、かつて好きだった活動であっても、強制的に促すことは患者様にとって負担となり、活動への抵抗感や自己無力感を強める可能性があります。また、介護から離れたくても離れられない状況での趣味であったため、編み物自体が介護を想起させ、かえって苦痛になる可能性もあります。正しくは:患者様の意欲や興味を慎重に探り、負担の少ない活動から段階的に提供することが重要です。まずは安全で心地よい環境で休息を取り、感情を表現できる機会を提供します。選びやすい理由:以前の趣味であれば興味を持つだろうと考えがちですが、抑うつ状態では意欲が低下しており、過去の活動がそのまま今の喜びにつながるとは限りません。混同注意:患者様の状態を考慮せず、単純に過去の趣味を再開させることが治療になると考えること。
- 4. 正解。患者様は長期間の介護により心身ともに疲弊し、「体が動かない」「死んでしまいたい」といった抑うつ症状を呈しています。真面目な性格のため、休むことに罪悪感を感じている可能性が高く、まずは医師からの指示や作業療法士からの言葉として「休むことの重要性」を伝え、安心して休める環境を提供することが最優先となります。正しくは:(正答のため修正不要)選びやすい理由:(正答のため記載不要)混同注意:(正答のため記載不要)
- 5. 患者様は抑うつ状態にあり、他者との交流自体が負担となる可能性があります。また、「母のことが気になる」「自分が情けない」という感情に対し、単なる気晴らしでは根本的な解決にはならず、むしろ自身の内面と向き合う機会を奪ってしまうことになりかねません。無理な交流は孤立感を深める可能性もあります。正しくは:患者様が安心して自身の感情を表現できるような個別的な関わりをまず優先し、他者との交流は患者様の状態や意欲を慎重に観察しながら、段階的に導入します。選びやすい理由:気分転換は重要ですが、患者様の精神状態が不安定な段階での無理な交流は逆効果になることがあります。グループ活動は回復期により適しています。混同注意:気分転換と治療的介入の区別。患者様の状態に応じた集団活動と個別活動の選択。
国試ポイント
抑うつ状態の患者、特に介護疲れや責任感が強い患者に対する初期の作業療法士の対応が問われています。患者の言葉の背景にある感情を理解し、現在の状態に最も寄り添う、基本的な支援(安心、休息の保証)を選択できるかがポイントです。
混同注意
表面的な患者の訴え(母親が気になる、趣味の話題)に対して、安易にそれに応える選択肢(早期退院、趣味の提案)を選びがちですが、本質的な問題(疲弊、罪悪感)にアプローチする視点が重要です。
次に同じ論点が出たら
患者が休息を受け入れ、ある程度の安心感が得られた後、次は患者の意欲や興味を慎重に探り、負担の少ない個別活動から導入していくことを検討します。自己肯定感を高めるための活動や、感情表出の機会を提供することも重要になります。
関連知識
精神科における作業療法のプロセス、抑うつ状態の患者へのアプローチ(休息の保証、活動性への働きかけの段階性)、心理教育(休むことの重要性)、介護者支援。