20歳の男性。1年浪人した後に大学に入学し親元を離れた。夏休みに帰省した時に独語や空笑が目立ち始め、バイクに乗って信号無視したところを警察に捕まった。事情聴取の中で「逃げないと殺される」といった支離滅裂な言動がみられたため、連絡を受けた両親に付き添われ精神科を受診し入院となった。入院から1か月後、幻聴と妄想が減弱したところで作業療法が開始となった。この時点での作業療法の役割で正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
統合失調症の急性期から回復期移行期(入院1ヶ月後、幻聴・妄想が減弱した時点)では、まだ精神的に不安定さが残っており、過度の刺激や負担は症状の再燃を招く可能性があります。この時期の作業療法では、活動に参加することへの慣れを促しつつ、患者の集中力や疲労度を考慮しながら、活動量や内容を細かく調整し、安全で心地よい環境を提供することが最も重要な役割となります。これにより、患者は無理なく活動に参加し、回復への第一歩を踏み出すことができます。他の選択肢は、より症状が安定した回復期以降の目標となるものが多く、この時点では時期尚早または情報が不足しています。
選択肢ごとの解説
- 1. 入院1ヶ月後の段階では、まだ精神症状が完全に安定していないため、達成感を得るような負荷の高い活動は時期尚早であり、自己肯定感の再構築を主目標とするのは適切ではありません。まずは症状の安定と活動への慣れが優先されます。正しくは:症状がさらに安定し、活動に積極的に参加できるようになった段階で、達成感を通じて自己肯定感を高める目標が適切になります。選びやすい理由:長期的な目標としては重要であるため、誤って選びやすいかもしれませんが、設問の「この時点」という条件に合致しません。混同注意:活動を通じた達成感の獲得と混同しやすいですが、この段階では『活動そのものへの参加』がより重要です。
- 2. 正解。幻聴や妄想が減弱してきたとはいえ、まだ精神的に不安定な時期であり、活動への集中力や持続力が低下している可能性があります。そのため、作業療法では個々の患者の状態に合わせて、活動の強度や時間、休息のバランスを細かく調整し、過度な負担を避けながら活動に慣れていくことが重要な役割となります。
- 3. 症状が減弱したばかりの段階では、成功体験を積み重ねるような目標設定はまだ早い可能性があります。活動への参加自体が困難であったり、集中力が続かないことも考えられるため、失敗体験を避けるためにも、まずは活動への参加を促し、安全で心地よい環境を提供することが優先されます。正しくは:症状が安定し、患者が活動に自信を持って取り組めるようになった段階で、成功体験を通じて自己効力感を高める目標が適切になります。選びやすい理由:作業療法の重要な側面ではあるため、選びやすいですが、時期尚早です。混同注意:自信の回復や達成感の獲得と混同しやすいですが、この段階では活動への導入と疲労管理が中心です。
- 4. 幻聴や妄想が減弱してきたとはいえ、まだ精神的な不安定さが残っている可能性があり、対人関係への不安や負担が大きい場合があります。無理な対人交流はストレスとなり、症状の悪化を招くリスクがあるため、この段階で対人交流の拡大を主目標とするのは適切ではありません。正しくは:症状がさらに安定し、患者自身が他者との交流を望むようになった段階で、段階的に交流機会を増やしていくことが適切です。選びやすい理由:精神科作業療法における重要な側面の一つではあるため、選びやすいですが、この段階では時期尚早です。混同注意:社会生活技能訓練などと混同しやすいですが、これはより安定期の目標です。
- 5. 設問文からは、患者の身辺処理能力(基本的なADL)に著しい問題があるという情報はありません。大学生活を送っていたことからも、ADLは保たれていると推測されます。そのため、この段階での作業療法の主たる役割として身辺処理能力の回復を挙げるのは適切ではありません。正しくは:ADLに問題がある場合はもちろん重要ですが、このケースでは精神症状の安定が最優先であり、ADL回復は直接的な課題ではありません。選びやすい理由:重度の精神疾患患者の場合、ADLが低下することがあるため、誤って選びやすいですが、このケースの情報には該当しません。混同注意:身体疾患や重度の認知症などによるADL低下と混同しやすいですが、精神疾患では必ずしもADLが低下するわけではありません。
国試ポイント
統合失調症の病期に応じた作業療法の目標設定と役割が問われています。特に、急性期から回復期への移行期における作業療法の導入期に何を優先すべきか、という点が重要です。病態生理と作業療法の基本原則を理解しているかが試されます。
混同注意
統合失調症の回復期における作業療法の目標(例:社会生活技能訓練、就労準備)や、ADLに問題がある場合の作業療法の目標と混同しやすいです。本設問は『幻聴・妄想が減弱したばかりの段階』という病期に特化した役割を求めています。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の論点が出題された場合、患者の『具体的な病期』と『その時点での主要な症状』、そして『作業療法開始までの期間』に注目し、その病期に最も適した作業療法の介入目標や内容を選択することが求められます。特に「〜が減弱したところ」や「〜ヶ月後」といった時間的情報が重要です。
関連知識
統合失調症の病期分類(急性期、消耗期/亜急性期、回復期)、各病期における精神症状の特徴、薬物療法との併用、作業療法の原則(段階性、個別性、治療的自己利用)、活動分析と評価の重要性、疲労マネジメント。