72歳の女性。転倒し、左手をついた。左手関節部に疼痛と腫脹が生じ、近くの病院を受診し徒手整復後ギプス固定を受けた。骨癒合後の画像(別冊No. 2)を別に示す。手関節尺屈により尺骨頭部の疼痛とクリック音がする。手指の機能障害はない。生じている合併症で考えられるのはどれか。

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出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
コーレス骨折などの遠位橈骨骨折後の合併症として、橈骨短縮に伴い尺骨が相対的に長くなり、手関節の尺側部負荷が増大することで尺骨突き上げ症候群が発症します。画像所見で橈骨の短縮が確認され、尺屈時の尺骨頭部の痛みとクリック音は、この病態に特徴的な症状です。
選択肢ごとの解説
- 1. 反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)は、手関節の激しい痛み、腫脹、皮膚温の変化、発汗異常、関節拘縮などの症状を呈する疾患です。本症例では尺骨頭部の痛みとクリック音に限定されており、RSDに特徴的な広範な症状が見られないため誤りです。正しくは:手関節の激しい痛み、腫脹、皮膚温の変化、発汗異常、関節拘縮などの広範な症状がある場合に疑う。選びやすい理由:遠位橈骨骨折後の合併症として知られているため、選択肢として考えやすい。混同注意:尺骨突き上げ症候群(機械的な刺激による痛み)と、RSD(神経機能異常による痛みや自律神経症状)
- 2. 正解。72歳女性が転倒し左手関節を負傷、徒手整復とギプス固定を受けた遠位橈骨骨折後の経過である。添付画像から橈骨の短縮が認められ、尺骨が相対的に長くなっている(尺骨プラスバリアンス)。手関節を尺屈させると尺骨頭部に痛みとクリック音があることから、尺骨頭が手根骨(特に月状骨や三角骨)と衝突し、三角線維軟骨複合体(TFCC)に負荷がかかっている尺骨突き上げ症候群の典型的な症状と画像所見を示すため、正しい。選びやすい理由:症状とレントゲン所見が尺骨突き上げ症候群の診断基準に合致しているため。混同注意:遠位橈骨骨折の他の合併症。特にTFCC損傷と症状が類似するが、本症例では橈骨短縮という構造的な問題が根底にある。
- 3. 長母指伸筋腱断裂は、コーレス骨折などの遠位橈骨骨折の合併症として発生することがありますが、その場合、母指の伸展障害が主症状となります。本症例では「手指の機能には問題ありません」と明記されているため、長母指伸筋腱断裂は考えられません。正しくは:母指の伸展機能が障害されている場合に疑う。選びやすい理由:遠位橈骨骨折の合併症として発生しうるため。混同注意:尺骨突き上げ症候群(尺側部の痛みとクリック音)と、長母指伸筋腱断裂(母指の伸展障害)
- 4. 正中神経損傷は、コーレス骨折に伴う手根管内の圧迫により生じることがあります。その場合、母指、示指、中指、環指の橈側半分の感覚障害や、母指球筋の筋力低下(特に母指対立運動)などの症状を呈します。本症例ではそのような神経症状の記載がなく、「手指の機能には問題ありません」とあるため、正中神経損傷は考えられません。正しくは:正中神経支配領域の感覚障害や母指球筋の筋力低下がある場合に疑う。選びやすい理由:遠位橈骨骨折の合併症として比較的有名であるため。混同注意:尺骨突き上げ症候群(機械的な痛みとクリック音)と、正中神経損傷(神経症状)
- 5. 月状骨脱臼は、強い外力によって月状骨が手根骨から脱臼する重篤な外傷であり、手関節の強い痛みと変形、機能障害を伴います。画像上、月状骨が他の手根骨と関節を形成していない状態で観察されます。本症例のレントゲン画像では骨癒合後の状態であり、月状骨の脱臼を示唆する所見は見られず、また脱臼であれば「骨癒合後のレントゲン」という記述も不適切であるため誤りです。正しくは:レントゲン画像で月状骨が他の手根骨から逸脱している場合に診断される。骨折整復後の状態では、脱臼が残存することは稀であり、あったとしても強い痛みと機能障害が続く。選びやすい理由:手根骨の損傷と関連する可能性から、安易に選択されうる。混同注意:遠位橈骨骨折の合併症(慢性的な痛み)と、月状骨脱臼(急性期の重篤な外傷、または残存する脱臼による重度の機能障害)
国試ポイント
遠位橈骨骨折の合併症と、それぞれの特徴的な症状を理解しているか。
混同注意
遠位橈骨骨折の他の合併症(反射性交感神経性ジストロフィー、長母指伸筋腱断裂、正中神経損傷、月状骨脱臼など)と混同しやすい。症状と画像所見から鑑別する必要がある。
次に同じ論点が出たら
今後同論点が出た場合は、遠位橈骨骨折後の「手関節の尺側部痛」と「レントゲンでの橈骨短縮」の有無、特に尺骨頭の突出や尺骨プラスバリアンスの所見に注目して判断する。
関連知識
遠位橈骨骨折は、高齢者の転倒で好発する。一般的な骨折であり、その合併症は多岐にわたるため、それぞれを理解しておく必要がある。尺骨突き上げ症候群の治療には、尺骨短縮術やTFCC部分切除術などがある。