67歳の男性。右利き。灯油による引火で右前腕以遠にⅢ度の熱傷を受傷した。救命救急センターに搬送され、壊死組織のデブリドマンを施行され、植皮術が行われた。術後3日目にベッドサイドで作業療法を開始した。この時点での受傷手への対応で正しいのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
熱傷後の植皮術では、移植された皮膚の生着を促進し、同時に浮腫を最小限に抑えることが極めて重要です。術後早期に患肢を挙上することで、重力による体液貯留を防ぎ、浮腫の発生や悪化を抑制します。これにより、移植皮膚への血流が確保され、生着率を高める効果が期待できます。また、浮腫は関節拘縮の大きな原因となるため、早期からの適切な挙上は、その後の機能回復にも大きく影響します。
選択肢ごとの解説
- 1. 植皮術後の超急性期では、植皮部位に過度な負荷をかけることで、植皮のズレや剥離を招き、生着を阻害するリスクがあります。この時期は、植皮の安定と生着が最優先されるため、抵抗運動は避けるべきです。正しくは:植皮術後の超急性期は、創部の安静と保護が最優先されます。抵抗運動は、植皮の生着が確認され、皮膚の安定が得られてから、徐々に開始されるべきです。選びやすい理由:リハビリテーションとして運動が必要であるという一般的な認識から選んでしまうかもしれませんが、時期尚早です。混同注意:健常者や他の疾患での早期からの運動療法と混同しやすいです。熱傷植皮術後の特殊な病態を理解する必要があります。
- 2. 正解。熱傷急性期、特に植皮術後早期は、重力によって体液が貯留しやすく、患部に著しい浮腫が生じやすい状態です。患肢を心臓よりも高い位置に挙上することで、浮腫の発生を予防し、または軽減することができます。浮腫は植皮の生着を阻害し、関節拘縮の原因にもなるため、早期からの挙上管理は極めて重要です。
- 3. 動的スプリントは、関節可動域の改善や筋力低下への対応を目的として、特定の方向に動きを誘導する装具です。植皮術後早期は、植皮部位の安静と固定が最も重要であり、動きを伴う動的スプリントは植皮の定着を妨げる可能性があります。この時期にスプリントを適用するとしても、患部を安静に保つための静的スプリントが検討されます。正しくは:植皮術後早期には、植皮部位の安定と安静を保つために、関節の固定や、伸展位保持を目的とした『静的スプリント』が考慮されることがあります。動的スプリントは、植皮が十分に生着し、可動域改善が必要となる時期に検討されます。選びやすい理由:スプリントがリハビリテーションの一環として有効であるという知識から、時期を問わず適切だと誤解する可能性があります。混同注意:静的スプリントと動的スプリントの目的と適用時期、また植皮術後の安静・固定の重要性と混同しやすいです。
- 4. 植皮術後早期の他動的な関節可動域訓練は、植皮部位に剪断力や牽引力が加わり、植皮の剥離や生着障害を引き起こす危険性があります。植皮の安定が確認されるまでは、原則として積極的な関節運動は控えられます。医師の指示で慎重に、非常に限定的に開始されることはありますが、一般的な初期対応としては適切ではありません。正しくは:植皮術後早期は、植皮の生着を優先し、創部への負荷を避けることが重要です。関節可動域訓練は、植皮が十分に生着し、安定したことを確認した上で、医師の指示に基づき、まずは自動運動から慎重に開始されるのが一般的です。選びやすい理由:関節拘縮予防の観点から早期からの可動域訓練が必要であるという知識から、時期を考慮せず選択してしまう可能性があります。混同注意:通常の整形外科的疾患における術後リハビリテーションや、非植皮部位の他動運動と混同しやすいです。植皮部位の安静の重要性を理解する必要があります。
- 5. 弾性包帯による圧迫療法は、主に熱傷瘢痕の肥厚性瘢痕形成を予防・軽減する目的で実施されます。しかし、植皮術後早期(術後3日目)は、植皮の生着がまだ不安定な時期であり、過度な圧迫は血流を阻害し、植皮の壊死や生着不良を引き起こすリスクがあります。圧迫療法は、植皮が十分に生着し、創部が閉鎖した後に、皮膚の安定をみて開始されます(通常は術後数週間以降)。正しくは:弾性包帯による圧迫療法は、植皮が完全に生着し、創部が安定してから(一般的には術後1〜2週間後以降、または肥厚性瘢痕の発生が懸念される時期から)開始されるべきです。植皮術後早期は、過度な圧迫を避け、植皮の生着を優先します。選びやすい理由:熱傷後の瘢痕管理には圧迫療法が重要であるという知識があるため、時期を誤って選択してしまう可能性があります。混同注意:浮腫管理のための挙上と、瘢痕予防のための圧迫療法、それぞれの目的と開始時期を混同しやすいです。
国試ポイント
熱傷患者の植皮術後急性期における、作業療法士として優先すべき初期対応が問われています。特に、植皮の生着を阻害しないよう、浮腫管理、創部保護、過度な負荷の回避といった基本原則の理解が重要です。
混同注意
植皮術後の時期によって、リハビリテーションの目的と介入内容が大きく変化するため、その病態生理と段階的な対応を混同しやすいです。特に、浮腫管理と瘢痕管理の介入時期、安静と運動のバランスの取り方が混乱しやすい点です。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出題される場合、熱傷回復期におけるスプリント療法の選択(例:肥厚性瘢痕に対する圧迫スプリント)、早期からのADL指導の内容、または植皮部位の運動制限の具体的な期間などが問われる可能性があります。また、小児熱傷患者への対応や、熱傷部位による(顔面、頸部など)特殊な対応も出題され得るでしょう。
関連知識
熱傷の深度と広さの評価(重症度分類)、植皮術の種類(分層植皮、全層植皮など)とそれぞれの特性、植皮後の創部管理、浮腫のメカニズムと治療、関節拘縮の予防と治療、スプリント療法の種類と目的、肥厚性瘢痕・ケロイドの病態と管理。