26歳の女性。結婚後に転居したアパートが古く汚れが目立っていた。食事の後片付け、掃除および手洗いをいくらやっても汚れが落ちていないのではないかと不安を感じるようになった。これらに長時間を要するようになり、生活に支障が出始めたため、夫に勧められて精神科を受診した。作業療法での対応として適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
強迫性障害の患者に対しては、反復的な強迫行為への対処として、自由度が高く、結果の曖昧さを許容しやすい作業を提供することで、強迫観念や強迫行為へのとらわれを軽減し、柔軟な思考や行動を促すことが重要です。この症例では、汚れへの不安が強く、清掃や手洗いを繰り返しているため、結果の曖昧さを受け入れやすい作業が適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。本症例は、汚れが十分に落ちていないのではないかという不安から、食事の片付け、清掃、手洗いをいくら繰り返しても満足できず、日常生活に支障をきたしています。このような強迫性障害の患者に対しては、完璧主義や反復行為にとらわれにくいよう、結果の良し悪しが明確でなく、自由度の高い作業(例:抽象的な絵画、粘土細工、庭仕事など)を提供することが有効です。これにより、不完全さや曖昧さを受け入れる練習を促し、強迫観念からの解放を目指します。選びやすい理由:強迫性障害の患者が完璧主義に陥りやすい特性があるため、その反対のアプローチとして適切であると直感的に理解できるため。混同注意:「患者が興味を持つ作業」と「患者にとって有益な作業」。興味を持つことは重要だが、強迫性障害の治療には、その特性を考慮した作業選定が不可欠である。
- 2. 正確さを必要とする作業は、本症例の患者が持つ「汚れが落ちていないのではないか」という不安や完璧主義をさらに助長する可能性があります。これにより、強迫行為(清掃、手洗い)がさらに強化され、治療目標に逆行するため不適切です。正しくは:自由度が高く、結果の曖昧さを許容しやすい作業を提供する。選びやすい理由:強迫性障害の患者は、物事を正確に行うことにこだわる傾向があるため、本人が達成感を感じやすいのではないかと誤解する可能性がある。混同注意:強迫性障害以外の、正確さや集中力を高めることが治療目標となる他の精神疾患(例:注意欠陥多動性障害など)に対する作業療法。
- 3. 手洗い行為が始まった際に作業を中止させることは、患者の不安を強め、治療者への不信感につながる可能性があります。強迫行為そのものを直接的に制止するのではなく、行為の背景にある不安への対処を支援し、徐々に強迫行為を減少させていくアプローチが望ましいです。特に初期段階では、強迫行為をすぐに止めることは困難です。正しくは:強迫行為が出現した際に、患者の感情を受け止め、強迫行為への対処法を共に検討する。曝露反応妨害法の一部として、計画的に手洗い行為を遅延させるなど、徐々に強迫行為を減らす介入を段階的に行う。選びやすい理由:強迫行為を止めることが治療であるという考えから、直接的に行為を中止させようとする発想につながりやすい。混同注意:急性期の興奮状態や自傷他害の危険がある場合の身体拘束や行動制限といった緊急対応。
- 4. 強迫性障害の治療において、強迫行為の原因についての自己洞察を促すことは、患者にとって大きな負担となり、症状を悪化させる可能性があります。強迫性障害は、自身の思考や行動が不合理だと認識しつつも止められないという特性(病識があることが多い)を持つため、原因の追求よりも、強迫行為を減少させ、日常生活への適応を促す行動療法的なアプローチが有効です。正しくは:強迫観念や強迫行為の認識を促しつつ、強迫行為をコントロールするための具体的な対処法(例:不安階層表を用いた曝露反応妨害法など)を共に検討し、実践を支援する。選びやすい理由:精神科領域では自己洞察が治療に重要であると一般的に考えられているため、強迫性障害にも適用できると誤解しやすい。混同注意:精神分析的アプローチや精神力動的精神療法で重視される、症状の原因を探るための自己洞察。
- 5. 作業工程の確認を作業療法士が本人に代わって行うことは、患者が自身の不安や不確実性に対処する機会を奪い、依存を助長する可能性があります。作業療法では、患者自身が主体的に作業に取り組み、自身の感覚や判断を信頼できるよう支援することが重要です。この症例では、汚れの確認を本人に代わって行うと、患者の不安のサイクルを断ち切る機会を失ってしまいます。正しくは:作業工程の確認方法を患者自身が学び、過度な確認行為を減らすための支援を行う。具体的には、特定の回数で確認を終える、確認時間を制限するといった方法を導入する。選びやすい理由:患者の不安や負担を軽減したいという治療者の配慮から、代わりに確認してあげることが一時的な安心につながるのではないかと考えてしまう。混同注意:認知機能障害のある患者に対する環境調整や代償手段の提供。
国試ポイント
強迫性障害に対する作業療法の原則と、具体的なアプローチを理解しているか。
混同注意
強迫性障害の作業療法における「自由度が高い作業」と「達成感を求めない作業」の区別。自由度が高い作業は、結果の曖昧さや不完全さを許容しやすい作業を指し、達成感を求めない作業は、必ずしも治療目標に合致しない場合があります。
次に同じ論点が出たら
強迫性障害の症例に対し、患者の特性(強迫観念の内容、強迫行為の種類)と治療目標(強迫行為の軽減、日常生活への適応)を考慮し、最も適切な作業内容(自由度、正確性、結果の明確さなど)を選択できるか。
関連知識
強迫性障害の治療には、薬物療法(SSRIなど)と精神療法(認知行動療法、特に曝露反応妨害法)が有効である。作業療法は、これらの治療を補完し、日常生活への適応を支援する。曝露反応妨害法では、不安を引き起こす状況に意図的に身を置き、強迫行為を行わないことで、不安が自然に軽減することを学習する。