39歳の男性。アルコール依存症。前回退院後に連続飲酒状態となり、妻からの依頼で2回目の入院となった。入院の際、妻からお酒をやめないと離婚すると告げられた。離脱症状が治まるのを待って作業療法が開始された。用意されたプログラムには自ら欠かさず参加し、特に運動プログラムでは休むことなく身体を動かしていた。妻には「飲酒による問題はもう起こさないので大丈夫」と話している。この患者に対する作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
アルコール依存症の患者は、飲酒によって生じた様々な問題や、それによって引き起こされる自己嫌悪、将来への不安などを抱えています。この患者は配偶者からの離婚の可能性という大きなストレスを抱えており、「もう飲酒で問題を起こさないので大丈夫」という発言は、自身の不安を打ち消そうとする防衛機制や、本心を隠そうとしている表れである可能性が高いです。作業療法士は、患者がこのような不安や葛藤を抱えていることを理解し、支持的な態度で接することで信頼関係を構築します。患者が自身の内面にある不安や感情を安心して表出できる環境を提供し、それを受け止めることで、患者は自己理解を深め、自身の問題に主体的に向き合うための土台を築くことができます。これは、アルコール依存症の回復プロセスにおいて非常に重要な初期対応となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 運動プログラムを増やすこと自体は、アルコール依存症の根本的な問題解決には繋がりません。過度な運動は、患者の依存的な行動パターンを強化したり、現実逃避の手段として利用される可能性があります。正しくは:運動プログラムを増やすのではなく、依存症の回復に向けた他の側面にも目を向け、バランスの取れた介入を検討します。選びやすい理由:患者が運動に意欲的であるため、そのモチベーションを活かそうと考えるかもしれませんが、それが本質的な課題解決に繋がるとは限りません。混同注意:患者の意欲的な行動をそのまま肯定的に捉え、運動量を増やすことが良いと誤解する可能性があります。
- 2. 患者は既にプログラムに熱心に参加していますが、「さらに努力を続ける」という漠然とした指示は、患者にプレッシャーを与えたり、依存症の本質的な課題(内省や問題認識)から目を逸らさせる可能性があります。また、過度な努力は疲弊や反動を招く恐れもあります。正しくは:努力を促すだけでなく、その努力の背景にある感情や、依存症に対する認識を深める機会を提供します。選びやすい理由:患者の積極的な姿勢を評価し、その行動を強化したいと考えるかもしれませんが、それが必ずしも回復に繋がるわけではありません。混同注意:患者の頑張りを評価する声かけとして適切だと誤解する可能性がありますが、依存症治療では内省が重要です。
- 3. 正解。アルコール依存症の患者は、飲酒に対する渇望だけでなく、過去の失敗、人間関係の問題、将来への不安など、多くの精神的な負担を抱えています。特にこの患者は、配偶者との関係において「離婚」という大きなプレッシャーを抱えており、「もう飲酒で問題を起こさないので大丈夫」という発言は、不安の裏返しである可能性があります。作業療法士が支持的な態度で接し、患者の不安や葛藤を受け止めることで、患者は安心して自分の感情や問題に向き合い、内省を深めることができるようになります。これは、依存症治療における信頼関係構築と、自己認識の促進に不可欠です。正しくは:この選択肢は適切であるため修正は不要です。選びやすい理由:患者の現状維持を目的とした選択肢ではないため、回復段階の初期介入としては適切です。混同注意:他の選択肢が行動面に焦点を当てているため、心理的支援の重要性を見落とす可能性があります。
- 4. 「離婚されないため」という外的動機付けは、長期的な回復には繋がりにくいです。依存症の回復には、患者自身が飲酒問題の深刻さを認識し、内発的な動機に基づき変化を望むことが不可欠です。外的要因による動機付けは、一時的な行動変容にはなるかもしれませんが、ストレスがかかった際に再飲酒のリスクを高める可能性があります。正しくは:外的動機付けに頼るのではなく、患者の内発的な動機付けを促すような働きかけを行います。例えば、飲酒によって失われたものや、回復によって得られるものについて患者自身に考えてもらう機会を提供します。選びやすい理由:患者が配偶者との関係を重視していると見受けられるため、その動機付けを利用しようと考えるかもしれませんが、依存症の本質的な治療には適していません。混同注意:患者の行動変容を促すために、強い外的要因を前面に出すことが有効だと誤解する可能性があります。
- 5. 過去の飲酒問題に触れないでいると、患者が自身の飲酒行動とそれに伴う影響を客観的に認識する機会を失ってしまいます。アルコール依存症の治療において、過去の飲酒行動やそれが引き起こした問題(人間関係、仕事、健康など)を振り返り、内省することは非常に重要です。これにより、患者は自身の問題行動パターンを理解し、再発防止策を立てるための準備ができます。ただし、適切なタイミングと方法で、患者の感情に配慮しながら行う必要があります。正しくは:過去の飲酒問題については、適切な時期を見計らい、患者が自身の行動と結果を結びつけられるように、共感的かつ非批判的な態度で振り返りを促します。選びやすい理由:患者が過去の飲酒について語ることに抵抗があるかもしれないと考え、配慮から触れないでおこうと考えるかもしれません。しかし、それは長期的な回復には繋がりません。混同注意:患者の心理的負担を軽減するためには、触れない方が良いと誤解する可能性があります。心理的負担への配慮は必要ですが、問題の直視も重要です。
国試ポイント
アルコール依存症患者に対する作業療法士の基本的な姿勢と、心理的支援の重要性を問う問題です。患者の表面的な言動だけでなく、その背景にある心理状態を理解し、支持的に接することの重要性がポイントとなります。特に、依存症の治療においては、患者の内省を促し、自己理解を深めるための安全な環境を提供することが求められます。
混同注意
行動的な側面(運動プログラムの増加、努力の継続)を促すことが良いと誤解しやすいですが、本質的な回復には心理的側面へのアプローチが不可欠です。また、離婚という外的要因を動機付けに利用することの短期的な効果と、長期的な回復への影響を混同しないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
患者の不安を受け止めた後、次にどのような介入を行うべきか。例えば、飲酒の引き金となる状況や感情の特定、代替行動の検討、社会資源の活用、家族との関係調整など、より具体的な問題解決に向けた作業療法プログラムの検討が考えられます。
関連知識
アルコール依存症の回復過程(否認、受容、行動変容など)、依存症患者の心理的特徴(防衛機制、自己肯定感の低さ、不安、抑うつ)、治療における信頼関係の重要性、動機付け面接の原則、CRAFT(地域強化および家族訓練)などの家族支援プログラム。