20歳の男性。頸髄完全損傷。受傷3週後のDanielsらの徒手筋力テストにおける上肢の評価結果を示す。この患者が獲得する可能性の最も高いADLはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
頸髄完全損傷の患者さんで、上肢の筋力評価から残存機能を判断します。上腕二頭筋と三角筋がMMT5であることから、肘の屈曲と肩の外転・屈曲が可能であり、これらを活用して寝返り動作が達成可能と考えられます。特にベッドの柵を使わない寝返りは、これらの筋力と体幹の回旋を組み合わせることで実現できます。
選択肢ごとの解説
- 1. 床から車椅子への乗り移りには、プッシュアップによって臀部を持ち上げる十分な上肢筋力(特に上腕三頭筋、広背筋など)と体幹の安定性が必要です。本症例では上腕三頭筋が0-1、広背筋が0であり、これらの動作に必要な筋力が不足しているため困難です。正しくは:この動作には、一般的にC7レベル以上の機能、特に上腕三頭筋の機能が必須です。C7レベルの損傷であれば可能性は高まります。選びやすい理由:上腕二頭筋と三角筋の筋力が良好であるため、上肢の残存機能から一部の移乗動作が可能と思われがちですが、床からの移乗にはより多くの筋力が必要です。混同注意:ベッド上の簡単な移乗や車椅子内でのポジショニング変更と、床からの移乗を混同することがあります。
- 2. 10cmの段差をキャスター上げして登るには、車椅子の操作技術に加え、車輪を持ち上げるための強力な上肢筋力(特に広背筋や上腕三頭筋など)と体幹の安定性が必要です。本症例では広背筋が0、上腕三頭筋が0-1と極めて弱いため、この動作は困難です。正しくは:この動作には、C7-T1レベルの機能、特に上腕三頭筋や広背筋の機能が不可欠です。選びやすい理由:車椅子の操作が可能であれば、段差乗り越えも可能と考えるかもしれませんが、キャスター上げは高度な操作技術と筋力が必要です。混同注意:平地での車椅子駆動と段差乗り越えの難易度を混同することがあります。
- 3. 正解。ベッドで仰向けの状態からベッドの柵を使わずに寝返りを打つ動作は、上腕二頭筋(MMT5)、三角筋(MMT5)の筋力を利用して肘を屈曲させ、腕を振り上げる遠心力と肩の動きによって、体幹を回旋させることで達成可能です。円回内筋のMMTも0-1と低いですが、寝返りの主要な動力源にはなりません。選びやすい理由:(正答なので特になし)混同注意:(正答なので特になし)
- 4. ベッドの端に座った状態でプッシュアップを行い、臀部を20cm持ち上げるには、強力な上腕三頭筋、大胸筋、広背筋などの筋力が必要です。本症例では上腕三頭筋が0-1、広背筋が0と筋力が著しく低いため、プッシュアップによって臀部を持ち上げることは困難です。正しくは:この動作には、C7レベル以上の機能、特に上腕三頭筋の機能が必須です。選びやすい理由:大胸筋の筋力がMMT4と比較的良好なため、プッシュアップの初期段階は可能と思われがちですが、臀部を20cm持ち上げるにはより広範な筋力が必要です。混同注意:部分的なプッシュアップと、臀部を完全に持ち上げるプッシュアップの難易度を混同することがあります。
- 5. 車椅子に座った状態で、体を前に傾け、アームサポートに手をついて上半身を起こす動作は、主に三角筋や上腕二頭筋、大胸筋といった残存筋力を利用して可能です。しかし、これはすでに車椅子に座っている状態からの体位調整であり、プッシュアップのように臀部を持ち上げる動作とは異なります。本症例の場合、三角筋と上腕二頭筋はMMT5ですが、上半身を"起こす"動作は主に肩と肘の屈曲・外転によって行われます。体の傾きを修正する程度の動作は可能ですが、問題文の「上半身を起こす」という表現が、より積極的なプッシュアップを想起させるため、他の選択肢との比較で最も高い達成可能性とは言えません。正しくは:体を前に傾けた状態から元に戻すことは可能と考えられますが、プッシュアップのように体を"起こす"ことではありません。寝返りの方が自力での達成可能性が高いです。選びやすい理由:三角筋と上腕二頭筋がMMT5であるため、上肢の力を使って上半身を動かすことは可能と判断しやすいです。混同注意:軽度の姿勢調整と、自力での完全な体幹挙上動作を混同することがあります。
国試ポイント
頸髄損傷のレベルと残存機能、およびそれによって達成可能なADLを理解することが重要です。特に各筋のMMTと損傷レベルの関連を把握し、具体的なADLに結びつける知識が問われます。
混同注意
頸髄損傷のレベルと、そのレベルで保存される主要な筋群および機能との関連性を混同しやすいです。特に、残存筋力でどこまでのADLが可能かを過大評価あるいは過小評価してしまうことがあります。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、まず患者のMMT評価から残存している主要な筋群と、それによってコントロール可能な関節運動を特定し、その機能を用いて実現可能なADLかどうかを判断します。
関連知識
C5損傷では肘屈曲(上腕二頭筋、腕橈骨筋)、C6損傷では手関節背屈(長・短橈側手根伸筋)、C7損傷では肘伸展(上腕三頭筋)が主な機能として残存します。今回の症例は上腕三頭筋が0-1であり、C7以下の機能は大きく損なわれていると考えられます。