55歳の男性。倒れてきた本棚により右肘上部を圧迫され正中神経麻痺を生じた。約3か月経過したが、右上肢の運動障害と感覚障害を認めていることから装具療法を行うことになった。使用する装具で正しいのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
正中神経麻痺では、母指対立筋の麻痺により母指の対立運動が障害され、「猿手(えんしゅ)」と呼ばれる変形を呈します。この状態では、母指を他の指と向かい合わせる動作(対立運動)ができず、つまむ、握るといった手指の巧緻動作が著しく困難になります。長対立装具は、母指を機能的な対立位に保持することで、母指対立機能の補助、拘縮予防、そして手指の機能的な使用を可能にする目的で使用されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。正中神経麻痺では、母指対立運動や母指球筋の機能が障害され、猿手変形を呈します。長対立装具は、母指を掌側外転位かつ対立位に保持することで、母指対立機能の補助や拘縮予防に寄与し、手指の巧緻動作や把握能力を改善させます。
- 2. IP伸展補助装具は、主に尺骨神経麻痺や橈骨神経麻痺による鉤爪指変形や下垂手に対して、指節間関節 (IP関節) の屈曲拘縮予防や伸展補助を目的として用いられます。正しくは:正中神経麻痺の主な症状である母指対立機能障害に対しては、長対立装具がより適切です。選びやすい理由:手指の運動障害全般に対応する装具の一つとして選択肢に挙がるかもしれませんが、正中神経麻痺に特異的な主要な適応ではありません。混同注意:尺骨神経麻痺による鉤爪指変形などと混同される可能性があります。
- 3. ナックルベンダーは、主に指のMCP関節が過伸展し、IP関節が屈曲する尺骨神経麻痺による鉤爪指変形に対し、MCP関節の屈曲位保持とIP関節の伸展補助を目的として使用されます。正しくは:正中神経麻痺による母指対立機能障害には、長対立装具が適しています。選びやすい理由:これも手指の変形や機能障害に対応する装具の一つですが、正中神経麻痺に典型的な症状への直接的な対応ではありません。混同注意:尺骨神経麻痺による鉤爪指変形に用いられる装具と混同されやすいです。
- 4. Thomas型懸垂装具は、上肢の麻痺や筋力低下が重度で、重力に抗して上肢を挙上・保持することが困難な場合に、上肢を支持・懸垂して運動を補助するために使用されます。主に腕神経叢麻痺や上肢全体の広範な麻痺が対象となります。正中神経麻痺の主要な目的とは異なります。正しくは:この患者は正中神経麻痺による運動・感覚障害が主であり、長対立装具がより直接的な解決策となります。選びやすい理由:上肢の運動障害という大枠では関連があるものの、特定の神経麻痺に特化した装具というよりは、上肢全体の重度麻痺に対する一般的な支持装具です。混同注意:腕神経叢麻痺や重度の上肢麻痺全般に対する装具と混同される可能性があります。
- 5. コックアップ・スプリント(手関節背屈位固定装具)は、手関節を背屈位に保持し、伸筋群の筋力低下や麻痺(特に橈骨神経麻痺による下垂手)がある場合に、手関節の機能的肢位を保ち、把握機能を補助する目的で使用されます。正しくは:正中神経麻痺の主要な症状である母指対立機能障害に対しては、長対立装具が適切です。選びやすい理由:これも手部の機能改善に使われる装具ですが、主な適応は橈骨神経麻痺による下垂手であり、正中神経麻痺の母指機能障害とは直接的な関連が薄いです。混同注意:橈骨神経麻痺による下垂手と混同されやすいです。
国試ポイント
神経麻痺とそれに伴う特徴的な変形および機能障害、そして各装具の適応を正確に理解しているかが問われる問題です。特に、正中神経麻痺、尺骨神経麻痺、橈骨神経麻痺によって生じる手指・手関節の障害と、それに対応する代表的な装具の種類(長対立装具、ナックルベンダー、コックアップ・スプリントなど)を区別して覚えている必要があります。
混同注意
正中神経麻痺、尺骨神経麻痺、橈骨神経麻痺それぞれの特徴的な症状(猿手、鉤爪手、下垂手)と、それに対応する装具の適応が混同されやすいです。特に、手の内部筋の麻痺による変形と、外部筋の麻痺による変形は明確に区別して理解することが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後、この分野の問題が出題された場合、まずどの神経の麻痺か、それによってどの筋が麻痺し、どのような機能障害や変形が生じるのかを特定し、その機能障害を補償または改善するための装具がどれかを判断します。特に複数の神経麻痺が同時に提示される場合や、損傷部位によって症状が変化する場合も想定されます。
関連知識
末梢神経損傷による運動麻痺と感覚障害の評価(MMT、SFMA、触覚・痛覚など)、神経支配領域、筋肉の作用、拘縮予防と機能維持の原則、各装具の名称と目的(例:スタックスプリント、ダイナミックスプリントなど)。