33歳の男性。ミュージシャンを志していたが、21歳時に統合失調症を発症し、2回の入院歴がある。3か月前から就労移行支援事業所への通所を開始し、支援によってコンサートホールの照明係のアルバイトに就いた。就労移行支援事業所のスタッフは、定期的に職場訪問を実施して本人と雇用主の関係調整を行っており、主治医やケースワーカーとも連携して支援活動をしている。この患者に行われているプログラムはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第57回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
IPS (Individual Placement and Support) は、精神障害を持つ人々のためのエビデンスに基づいた就労支援プログラムです。その主要な原則には、競争的雇用への直接的かつ早期の配置、継続的な職場サポート、本人の希望に基づく個別化された支援、心理教育や服薬管理などの治療との連携(多職種連携)、障害の有無にかかわらず誰にでも開かれたサービスなどが含まれます。この設問のケースでは、就労移行支援事業所のサポートでアルバイトに就き、定期的な職場訪問による本人と雇用主の関係調整、主治医やケースワーカーとの連携が行われており、これらの特徴はIPSの原則と完全に一致しています。
選択肢ごとの解説
- 1. CBT-Nは、統合失調症の陰性症状(意欲低下、感情鈍麻など)に対する認知行動療法の一種です。この事例は就労支援と職場への介入に焦点が当てられており、陰性症状に特化した治療法ではありません。正しくは:この事例で行われているプログラムは、具体的な就労支援、職場への介入、多職種連携を特徴としています。選びやすい理由:統合失調症の治療法の一つであるため、知識がある受験生は選択肢として考えやすいかもしれません。混同注意:統合失調症の治療法全般と混同しやすいです。CBT-Nは特定の症状(陰性症状)に特化している点が異なります。
- 2. 正解。IPSは、精神疾患を持つ人の就労支援に特化したプログラムで、競争的な雇用への直接的かつ早期の配置、継続的な職場サポート、個別の支援、就労と治療の連携(多職種連携)、本人中心のアプローチなどが特徴です。この事例は、就労移行支援事業所を介してアルバイトに就き、職場訪問によるサポート、主治医やケースワーカーとの連携が行われているため、IPSの特徴と完全に合致しています。
- 3. NEARは、認知機能リハビリテーションの一種で、統合失調症の患者の認知機能障害を改善することを目的としています。この事例では、就労への直接的な介入と職場でのサポートが主眼であり、認知機能改善プログラムではありません。正しくは:この事例で行われているプログラムは、認知機能の改善ではなく、現実の職場での就労を直接的にサポートするものです。選びやすい理由:統合失調症患者に対するリハビリテーションの一つであるため、関連性があると感じるかもしれませんが、その目的とアプローチが異なります。混同注意:認知機能リハビリテーションと就労支援プログラムを混同しやすいです。NEARは認知機能に焦点を当てますが、IPSは競争的な雇用への配置と維持に焦点を当てます。
- 4. SSTは、社会生活に必要な対人スキルや自己表現スキルを訓練するプログラムです。この事例は、既に就労しており、職場や多職種との具体的な調整が行われている段階であり、基本的な社会スキルの訓練が主要な目的ではありません。正しくは:この事例で行われているプログラムは、社会スキル訓練ではなく、実際の職場での就労維持と調整を目的としています。選びやすい理由:統合失調症患者の多くが対人関係に困難を抱えるため、SSTが有効な場合が多いという知識から選んでしまう可能性があります。混同注意:基本的な社会スキルの習得と、就労環境での具体的な調整・サポートを混同しやすいです。SSTは前者、IPSは後者の一部を担いますが、焦点が異なります。
- 5. WRAPは、本人が主体となって自分のウェルネスを維持し、危機を乗り越えるための自己管理計画を立てるプログラムです。この事例の支援は、就労への直接的な介入、職場サポート、多職種連携といった外部からの具体的な働きかけが中心であり、WRAPのような自己管理計画の策定が主要な内容ではありません。正しくは:この事例で行われているプログラムは、自己管理計画の策定に留まらず、外部の支援者が積極的に就労環境に介入し、調整を行うものです。選びやすい理由:統合失調症のリカバリーにおいて重要な要素であるため、知識がある受験生は選択肢として考えやすいかもしれません。混同注意:リカバリー支援全体と、特定の就労支援プログラムを混同しやすいです。WRAPは自己管理に焦点を当てますが、IPSは競争的雇用への直接的支援に焦点を当てます。
国試ポイント
この問題は、精神科リハビリテーションにおける主要な就労支援プログラムであるIPS (Individual Placement and Support) の特徴を理解しているかを問うものです。事例からIPSの具体的な実践内容(早期の就労、職場への継続的サポート、多職種連携など)を読み取ることが求められます。他の選択肢のプログラムも精神科リハビリテーションで用いられますが、その目的やアプローチが事例と合致しない点を見極める必要があります。
混同注意
精神科リハビリテーションには様々なプログラムがあり、それぞれ目的や対象が異なります。CBT-N(陰性症状への認知行動療法)、NEAR(認知機能リハビリテーション)、SST(社会技能訓練)、WRAP(自己管理計画)といったプログラムは、それぞれ統合失調症の特定の側面やニーズに対応するものですが、就労支援全体、特に競争的雇用への直接的介入と継続的サポート、多職種連携という点でIPSとは明確に区別されます。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、事例中の「早期の就労開始」「職場での継続的な支援・調整」「多職種連携によるサポート」といったキーワードに注目し、これらの要素を包括的に満たす就労支援プログラム(特にIPS)を選ぶようにします。また、他の選択肢のプログラムがどのような目的で、どのようなアプローチを取るのかを再確認し、明確な区別ができるようにします。
関連知識
精神科リハビリテーションの主要なプログラム(就労支援、認知機能リハビリテーション、社会技能訓練、心理教育、リカバリー指向アプローチなど)とその特徴、適用対象。特に就労支援においては、IPSの他、クラブハウスモデル、作業所など様々な形態があることを理解しておくことが重要です。