70歳の男性。右中大脳動脈領域のアテローム血栓性脳梗塞後に重度の左片麻痺と感覚障害が残存し、4週後、回復期リハビリテーション病院に転院した。転院時のバイタルサインに異常なく自発痛の訴えは無かった。左上下肢は随意性が乏しく、浮腫を認めた。血液検査ではDダイマーが高値以外は正常範囲であった。最も考えられる疾患はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
脳梗塞による片麻痺は、患肢の運動制限や血流停滞を引き起こし、深部静脈血栓症(DVT)の主要なリスク因子となります。設問では、左片麻痺側の上下肢に浮腫が認められ、血液検査でDダイマーが高値であるという明確な所見が示されています。Dダイマー高値は、体内で血栓が形成され溶解していることを示すマーカーであり、片麻痺側の浮腫と合わせてDVTを強く示唆します。他の選択肢の疾患は、浮腫の症状は共通するものの、片麻痺との関連性、浮腫の左右差、またはDダイマー高値という血液検査所見と合致しません。
選択肢ごとの解説
- 1. 心不全でも浮腫は生じますが、通常は両下肢に左右差なく出現することが多く、片麻痺側に限定されることは稀です。また、Dダイマー高値は直接的な心不全の診断マーカーではありません。正しくは:片麻痺側の浮腫というよりも、全身性の浮腫や、両下肢の対称性浮腫が特徴的です。呼吸困難感や心拡大などの所見が加われば疑われます。選びやすい理由:浮腫があるため、漠然と心不全を想起する可能性があります。混同注意:腎不全や肝不全など、全身性浮腫を起こす他の疾患と混同しやすいです。
- 2. 蜂窩織炎は局所的な浮腫、発赤、熱感、疼痛を伴う細菌感染症ですが、本症例では自発痛の訴えがなく、発赤や熱感の記載もありません。Dダイマーは炎症反応で上昇することもありますが、この症例では他の所見が合致しません。正しくは:発赤、熱感、強い圧痛、発熱などの炎症症状があれば疑われます。選びやすい理由:浮腫が局所的である場合、感染症を想起する可能性があります。混同注意:静脈炎やリンパ浮腫など、皮膚の炎症や浮腫を伴う他の病態と混同しやすいです。
- 3. 肩手症候群(CRPS Type 1)では浮腫、疼痛、皮膚温の変化、関節拘縮などがみられますが、本症例では「自発痛の訴えは無かった」と明記されており、浮腫以外の特徴的な症状が欠けています。また、Dダイマー高値との直接的な関連性は薄いです。正しくは:強い自発痛やアロディニア、皮膚温の変化、発汗異常などが伴えばより疑われます。選びやすい理由:片麻痺患者に発症し、浮腫を伴うため、知識が曖昧だと選びやすいかもしれません。混同注意:片麻痺後の浮腫や疼痛を伴う他の合併症(例:異所性骨化)と混同しやすいです。
- 4. 正解。脳梗塞後の片麻痺患者は運動制限により血流が停滞しやすく、深部静脈血栓症のリスクが高いです。特に「左上下肢の随意性が乏しく、浮腫を認めた」という片麻痺側の浮腫と、「Dダイマーが高値」という所見は、深部静脈血栓症を強く示唆する重要な根拠となります。Dダイマーは体内で血栓が形成され、その後分解される際に生じる物質であり、血栓の存在を示すマーカーです。
- 5. ネフローゼ症候群は、腎臓の障害により全身性浮腫や低タンパク血症、高脂血症などを呈する疾患です。本症例では片麻痺側の浮腫に限定されており、全身性の浮腫を示す記載はありません。また、血液検査ではDダイマー以外の異常は報告されていません(低タンパク血症や高脂血症の記載なし)。正しくは:全身性の浮腫(特に眼瞼や下肢)、尿検査での蛋白尿、血液検査での低アルブミン血症などがあれば疑われます。選びやすい理由:浮腫があるため、全身性浮腫を想起する病態として選択肢に入っている可能性があります。混同注意:肝硬変や心不全など、全身性浮腫を呈する他の疾患と混同しやすいです。
国試ポイント
脳卒中後の合併症に関する知識、特に深部静脈血栓症のリスク因子、主要な症状(片麻痺側の浮腫)、および検査所見(Dダイマー高値)を正確に理解しているかを問う問題です。浮腫を呈する多様な疾患の中から、鑑別診断のポイントを適切に判断できる能力が求められます。
混同注意
脳卒中後の片麻痺側浮腫は、DVTの他に、複合性局所疼痛症候群(CRPS)I型、リンパ浮腫、蜂窩織炎、心不全による浮腫などと鑑別が必要です。それぞれの疾患に特有の症状や検査所見を理解しておくことが重要です。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出題された場合、脳卒中後の患者で『片麻痺側の浮腫』と『Dダイマー高値』の組み合わせ、あるいは『安静臥床に伴う浮腫とDダイマー高値』に注目します。また、疼痛や発熱、発赤の有無、浮腫の左右差、全身症状の有無など、鑑別のポイントとなる具体的な所見を詳細に確認することが重要になります。
関連知識
深部静脈血栓症(DVT)は、脳卒中患者の約10〜60%に発症すると言われる重篤な合併症です。主なリスク因子は不動、脱水、肥満、高齢、悪性腫瘍、経口避妊薬の使用などです。症状としては患肢の浮腫、疼痛、発赤、熱感などが挙げられますが、無症状の場合もあります。最も危険な合併症は肺血栓塞栓症であり、予防として弾性ストッキング、間欠的空気圧迫装置、抗凝固薬の使用などがあります。診断にはDダイマー検査に加え、超音波検査が重要です。