65歳の女性。右利き。突然の意識障害で急性期病院に搬送され、脳出血と診断された。左上下肢の運動麻痺、感覚障害は中等度。端座位では体幹が麻痺側に傾くが、理学療法士の修正に抵抗することなく正中位に戻ることが可能である。常に非麻痺側を向いているが、麻痺側からの刺激にも反応する。食事や歯磨きは非麻痺側上肢で行うが、麻痺側の食べ残しや、磨き残しが多い。この患者に用いる検査で最も優先順位が高いのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
患者は常に非麻痺側を向いており、麻痺側の食事の食べ残しや歯の磨き残しがあるという記載から、左半側空間無視の症状が強く示唆されます。線分抹消試験は半側空間無視の有無や程度を客観的に評価するための標準的な検査であり、患者の日常生活上の問題に直結しているため、この状況で最も優先して実施すべき検査です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の症状に失語症を示唆する所見はありません。主な問題は知覚・認知に関するものです。正しくは:この検査は、言語理解、復唱、呼称などの言語機能に障害がある場合に優先されます。選びやすい理由:脳出血後に高次脳機能障害として失語症も起こりうるため、一見選択肢になりえますが、提示された症状とは直接関連が低いです。混同注意:Broca失語、Wernicke失語などの特定の失語症型と混同しやすいです。
- 2. この検査は、注意の切り替えや概念形成といった前頭葉機能(遂行機能)を評価します。患者にはその可能性も否定できませんが、記述された症状から見て最も優先すべき検査ではありません。正しくは:前頭葉機能障害が強く疑われる場合や、より広範な高次脳機能評価の一環として行われます。選びやすい理由:脳出血後に高次脳機能障害として遂行機能障害も起こりうるため、選択肢として考慮される可能性があります。混同注意:認知機能の全般的な低下を示すMMSEやHDS-Rなどのスクリーニング検査と混同しやすいですが、WCSTはより特異的な前頭葉機能を評価します。
- 3. 正解。患者は「常に非麻痺側を向いている」「麻痺側の食べ残しや磨き残しが多い」といった症状を示しており、これらは典型的な半側空間無視(特に左側)の兆候です。線分抹消試験は半側空間無視の有無や程度を評価する標準的な検査であり、日常生活上の問題を直接反映しているため、最も優先度が高いと考えられます。
- 4. この検査は観念失行や運動失行などの失行症を評価するためのものです。患者の記述に失行症を示唆する具体的な症状はなく、最も優先すべきではありません。正しくは:動作の順序が間違っている、意図した動作ができない、道具の使い方がわからないといった症状がある場合に優先されます。選びやすい理由:脳出血後に高次脳機能障害として失行症も起こりうるため、選択肢として考慮される可能性があります。混同注意:特定の動作を模倣できない模倣失行や、発語に関する失行(発語失行)など、様々な失行の種類と混同しやすいです。
- 5. SCPはプッシャー症候群(対側への押し込み行動)を評価する検査です。患者は「体幹が麻痺側に傾く」とありますが、「理学療法士の修正に抵抗することなく正中位に戻ることが可能」であるため、典型的なプッシャー症候群とは異なります。半側空間無視の兆候がより強く、日常生活に直接影響しているため、SCPの優先順位は相対的に低くなります。正しくは:麻痺側へ強く押しつけるような姿勢の偏りがあり、修正しようとすると抵抗する場合に優先されます。選びやすい理由:体幹の傾きという症状からプッシャー症候群を連想し、この検査を選びたくなる可能性があります。混同注意:重心動揺や姿勢制御の問題全般と混同しやすいですが、プッシャー症候群は特に麻痺側への強い押し込みと修正への抵抗が特徴です。
国試ポイント
本問題は、脳損傷後の患者に見られる高次脳機能障害、特に半側空間無視の典型的な症状を臨床記述から読み取り、その評価に最適な検査を選択できるかという臨床推論能力を問うています。他の高次脳機能障害(失語症、遂行機能障害、失行症、プッシャー症候群)との鑑別も重要です。
混同注意
半側空間無視とプッシャー症候群、または視覚野病変による半盲などの視覚障害との鑑別。また、失語症、失行症、遂行機能障害といった他の高次脳機能障害と症状を混同する可能性があります。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が問われた場合、提示された症状記述の中から「特定の空間に対する注意の欠如」「特定の方向への姿勢の偏り」「特定の動作の困難」といった具体的な行動様式に着目し、それがどの高次脳機能障害に最も典型的であるかを判断する。特に「〜の領域を無視する」「〜を残す」「〜に気付かない」といった記述があれば半側空間無視を疑うべきである。
関連知識
半側空間無視の定義、原因(右半球損傷が多い)、症状(着衣失行、食事の食べ残し、身だしなみの偏りなど)、他の評価法(BIT、行動性無視検査、模写、描画試験)。プッシャー症候群の定義、原因、症状、評価法(SCP)。失語症の定義、分類、評価法(WAB、SLTA)。失行症の定義、分類、評価法(道具使用パントマイム、着衣テスト)。遂行機能障害の定義、症状、評価法(WCST、FAB)。脳出血の一般的な症状と合併症。