80歳の男性。食道癌に対する開胸手術翌日で、経口挿管人工呼吸管理中。鼠径部から高用量の昇圧剤を投与して血圧の安定に努めている。理学療法で最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第61回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
術後早期で高用量の昇圧剤を使用している不安定な病態では、全身状態への影響が少ない受動的な介入が優先される。神経筋電気刺激(NMES)は、非侵襲的であり、患者の自律的な運動が困難な状況や、全身状態が不安定な状況でも実施可能であるため、この症例において最も適切な理学療法介入である。
選択肢ごとの解説
- 1. 開胸手術翌日で高用量の昇圧剤を投与している状況では、体位変換による血圧変動リスクが高く、能動的な座位練習は循環動態に大きな負担をかける可能性があるため不適切である。特に昇圧剤投与中は、わずかな体位変換でも血圧の急激な変動を招きやすい。正しくは:循環動態が安定し、昇圧剤からの離脱が見られた段階で、医師の指示のもと慎重に開始すべきである。選びやすい理由:早期離床は重要であるという認識から選びやすいが、本症例では全身状態が不安定すぎる。混同注意:早期離床の原則と、重症患者の早期離床における禁忌やリスク管理。
- 2. 呼吸筋トレーニング自体は術後呼吸機能改善に重要であるが、術後翌日で全身状態が不安定な高用量昇圧剤使用中の患者に能動的な呼吸筋トレーニング(例:深呼吸練習、呼吸抵抗運動)を指導することは、患者の負担となり、循環動態に悪影響を及ぼす可能性がある。特に開胸手術後であるため、術創部の疼痛も考慮する必要がある。正しくは:まずは鎮痛や体位ドレナージなどによる受動的な呼吸介助、あるいは低負荷の呼吸練習から開始し、全身状態の安定を見て段階的に導入すべきである。選びやすい理由:開胸手術後であり、呼吸器合併症予防の観点から重要と誤解しやすい。混同注意:術後呼吸理学療法の一般的な介入と、重症患者における介入のタイミング・強度。
- 3. 非上肢支持持久性運動(例:エルゴメーターなど)は、全身運動負荷が高く、高用量の昇圧剤を使用している循環動態が不安定な状況では、心臓への負担が大きすぎるため不適切である。活動性が急激に上昇することで、血圧変動や心筋酸素需要の増加を招き、危険な状態になる可能性がある。正しくは:循環動態が安定し、昇圧剤からの離脱、さらに病棟での歩行練習などが安全に実施できる段階になってから考慮すべきである。選びやすい理由:持久性運動は全身状態の改善に繋がるという一般的な認識から選びやすい。混同注意:安定した状態でのリハビリテーションと、不安定な状態でのリハビリテーションの適応の違い。
- 4. 股関節伸展の関節可動域運動自体は、関節拘縮予防として重要であるが、本症例において最も優先される治療ではない。また、高用量昇圧剤使用中の不安定な状態では、能動的な運動指導は負担となる可能性があり、他動的な関節可動域運動を行う場合でも、体位変換などによる影響を考慮し慎重に行う必要がある。全身状態の安定が最優先である。正しくは:全身状態が安定していることを確認し、ベッド上での安静による関節拘縮予防策として、他動的または軽度な自動介助運動として実施する。しかし、全身の廃用症候群予防という観点からは、より広範な効果のある介入が優先される。選びやすい理由:拘縮予防は重要であるという認識から選びやすい。混同注意:関節可動域運動の重要性と、全身状態が不安定な場合の優先順位。
- 5. 正解。神経筋電気刺激(NMES)は、患者の能動的な運動を必要とせず、全身状態への負担が少ない受動的な介入である。臥床安静が長期化する可能性のある術後早期の患者において、筋萎縮予防や静脈血栓塞栓症予防に効果が期待できる。高用量昇圧剤を使用し循環動態が不安定な状況でも比較的安全に実施可能であり、この症例に最も適切な理学療法介入である。正しくは:選択肢5が正しい。選びやすい理由:特になし。正答である。混同注意:特になし。正答である。
国試ポイント
侵襲度の高い手術後早期で重症度が高い患者に対する理学療法介入の優先順位と、各介入の適応・禁忌を問う問題。特に循環動態が不安定な患者への理学療法の安全性に関する判断が重要となる。
混同注意
早期離床の重要性は認識しつつも、患者の全身状態(特に循環動態)が不安定な場合の理学療法介入の優先順位を誤解すること。能動的な運動と受動的な介入の適応の違い。
次に同じ論点が出たら
同様の症例が出題された場合、まず患者の全身状態(バイタルサイン、使用薬剤、意識レベルなど)の安定性を確認し、それに合わせて介入の侵襲度や活動強度を選択する。能動的運動が困難またはリスクが高い場合は、受動的介入や補助的介入(例: NMES)を優先的に検討する。
関連知識
ICUにおける理学療法の原則、術後早期リハビリテーションの適応と禁忌、昇圧剤使用中の患者管理、神経筋電気刺激(NMES)の適応と効果。