手背に生じた慢性期の熱傷後瘢痕拘縮に対する理学療法として正しいのはどれか。2つ選べ。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1・5番
解説
熱傷後の瘢痕拘縮は、コラーゲン線維の過剰な産生と不適切な配列により生じます。慢性期においては、瘢痕の成熟を促進し、伸張性を改善することが重要です。選択肢1の圧迫療法は、瘢痕の肥厚を抑制し、コラーゲンの成熟を促す効果があります。選択肢5の関節可動域練習は、瘢痕組織の伸張性を高め、関節の可動域を維持・拡大するために不可欠です。一方、選択肢2の寒冷療法は急性期の炎症には用いられますが、慢性期の瘢痕拘縮には不適切です。選択肢3の神経筋電気刺激療法は瘢痕拘縮の直接的な治療ではありません。選択肢4のコックアップ・スプリントは手関節の伸展位固定装具であり、手背の瘢痕拘縮は手指の伸展制限を来すことが多いため、適切な選択ではありません。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。熱傷後の瘢痕拘縮は、コラーゲンの過剰な産生と成熟によって引き起こされます。圧迫療法は、瘢痕組織への血流を制限し、コラーゲン線維の配列を整えることで、瘢痕の肥厚を抑制し、成熟を促進し、拘縮の改善に寄与します。特に慢性期では、瘢痕の軟化や平坦化に効果が期待されます。
- 2. 寒冷療法は、急性期の炎症や浮腫、疼痛の軽減には用いられますが、慢性期の熱傷瘢痕拘縮の改善には直接的な効果はありません。むしろ、血管収縮により血流をさらに悪化させ、組織の柔軟性を低下させる可能性があります。正しくは:急性期の炎症や疼痛が強い場合に適用を検討する。選びやすい理由:炎症があるように見える瘢痕組織に対し、漠然と炎症抑制効果を期待してしまう可能性がある。混同注意:急性期の熱傷に対する処置や、運動器疾患の急性期炎症に対する寒冷療法と混同しやすい。
- 3. 神経筋電気刺激療法は、筋力強化、筋萎縮の予防、痙縮の軽減、疼痛緩和などに用いられますが、瘢痕組織の拘縮そのものを改善する直接的な効果は限定的です。瘢痕によって運動が制限されている場合、その原因が筋力低下にあるわけではないため、優先度は低いと言えます。正しくは:瘢痕による直接的な拘縮ではなく、長期臥床や不動による筋力低下、麻痺などがある場合に検討する。選びやすい理由:広範な理学療法の手技の一つであり、何らかの効果があるのではないかと考えてしまう可能性がある。混同注意:筋力低下や麻痺など、熱傷の合併症として生じうる他の問題に対する治療法と混同しやすい。
- 4. コックアップ・スプリント(手関節背屈位固定装具)は、正中神経麻痺による下垂手や橈骨神経麻痺、手関節の不安定性、屈筋群の痙性など、手関節が屈曲位に拘縮するのを予防したり、機能的な肢位を保持したりするために用いられます。しかし、問題文では「手背に生じた熱傷後瘢痕拘縮」であり、瘢痕拘縮が手関節の屈曲拘縮を引き起こしているとは明記されていません。むしろ手背の瘢痕は指や手関節の伸展を制限することが多いため、手関節伸展位を強制するコックアップスプリントは、手背の瘢痕拘縮を悪化させるか、少なくとも直接的な治療にはなりません。一般的に、手背の熱傷では手関節・手指の過伸展位を避けるために屈曲位固定が推奨されることもあります。正しくは:手関節の屈曲拘縮を予防・改善する目的や、機能的肢位を保持する目的で、適切なスプリントを選択する。手背の瘢痕拘縮では、指や手関節の伸展を制限することが多いため、その制限を改善するようなスプリント(例:伸展位保持スプリントなど)を検討する。選びやすい理由:手関節の機能的肢位の保持や拘縮予防にスプリントが有効であるという知識から、安易に選択肢として考えてしまう。また、具体的なスプリントの名前が出てくるため、専門的な知識と結びつけてしまいやすい。混同注意:様々な手関節スプリントの適応と混同しやすい。特に、正中神経麻痺などによる屈曲拘縮予防のためのスプリントと、熱傷後の瘢痕拘縮に対するスプリントの目的の違いを混同しやすい。
- 5. 正解。手背に生じた熱傷後瘢痕拘縮は、手指の伸展を特に制限し、結果として手指の屈曲運動も間接的に制限されやすくなります。また、手背の皮膚の柔軟性が低下することで、手指の自動的・他動的な屈曲運動が難しくなります。関節可動域練習は、瘢痕組織の伸張性を高め、関節の可動域を維持・拡大するために不可欠な治療です。特に慢性期においては、組織の器質的変化に対して持続的なストレッチングが重要になります。
国試ポイント
熱傷後の瘢痕拘縮に対する理学療法の知識が問われています。特に慢性期における治療原則(瘢痕の成熟促進、拘縮の予防・改善)と、具体的な治療手技の適切な適用がポイントです。個々の治療法がどのような目的で、どの病期に用いられるかを正確に理解しているかを確認しています。
混同注意
熱傷の急性期・亜急性期・慢性期それぞれの治療目的や方法の違い、また、様々なスプリントの具体的な適応や、他の疾患(神経麻痺など)に対する治療法と混同しやすい点があります。特に熱傷部位とそれに伴う拘縮のタイプを正確に把握し、適切な治療法を選択できるかが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後同じ論点が出た場合は、熱傷部位(関節、手掌、手背など)と拘縮の種類(屈曲拘縮、伸展拘縮など)を正確に読み取り、それに合わせたスプリントやROM運動の方向性を判断できるか。また、熱傷の時期(急性期、慢性期)に応じた適切な治療法を選択できるか。
関連知識
熱傷の病態生理(創傷治癒過程、瘢痕形成メカニズム)、熱傷深度と治癒期間、急性期・亜急性期・慢性期の治療目標、スプリント療法の種類と適応、ROM運動の種類と目的、皮膚の伸張性改善手技(マッサージ、徒手療法)。