70歳の男性。右利き。右脳出血による左片麻痺。発症後2週。運動麻痺は左上下肢ともBrunnstrom法ステージⅢ、感覚障害は中等度。座位では、右上下肢で座面や床面を押し、図のような姿勢となる。転倒の危険があり、理学療法士が正中位に修正を試みるが抵抗する。平行棒内立位でも同様に右上下肢で押すため身体は左に傾斜し、立位保持要介助である。 理学療法を行う上で最も優先する検査はどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第61回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
症例は、非麻痺側(右)の上下肢で座面や床面を押して身体を麻痺側(左)へ傾け、理学療法士が正中位に戻そうとすると抵抗しています。この所見は座位・立位の両方でみられ、転倒の危険もあります。これは脳卒中後のpusher現象(押す現象)の典型的な所見です。pusher現象は座位・立位の保持や移乗・歩行の練習に直接影響するため、理学療法を始めるにあたって、まずその有無と重症度を評価する必要があります。SCP(Scale for Contraversive Pushing)はpusher現象を評価する尺度で、①自然な姿勢での身体の傾き、②非麻痺側上下肢の外転・伸展による押し、③他動的に正中位へ修正したときの抵抗、の3項目を座位と立位でそれぞれ評価します。SLTA・TMT・WAIS-Ⅳ・WCSTは失語・注意・知能・遂行機能といった高次脳機能の検査であり、本症例で理学療法上最も問題となっている姿勢の障害(押す現象)を評価するものではありません。したがって、最も優先する検査はSCPです。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。SCP(Scale for Contraversive Pushing)はpusher現象の評価尺度です。座位と立位で、身体の傾き、非麻痺側上下肢の外転・伸展による押し、他動的な修正への抵抗を評価します。本症例の「右上下肢で押して左に傾き、修正に抵抗する」所見はまさにこの評価の対象であり、理学療法の計画に直結するため最も優先されます。
- 2. SLTA(標準失語症検査)は失語症の評価に用いる検査です。本症例は右利きの右脳出血で失語は起こりにくく、また理学療法上の最優先の課題である姿勢の障害(押す現象)は評価できません。正しくは:姿勢の崩れと修正への抵抗が主な問題なので、まずpusher現象を評価するSCPを優先します。選びやすい理由:脳卒中後の高次脳機能障害の代表的な検査として名前を知っているため、選びがちです。混同注意:失語症の検査(SLTA)と、押す現象の評価(SCP)
- 3. TMT(Trail Making Test)は注意機能や遂行機能を評価する検査です。右半球損傷で注意障害を伴うことはありますが、本症例で理学療法上最も問題となっている押す現象と転倒の危険は評価できません。正しくは:注意機能の評価より先に、姿勢の障害(押す現象)の重症度をSCPで評価します。選びやすい理由:右半球損傷に多い注意障害や半側空間無視を連想して選びやすい選択肢です。混同注意:注意機能の検査(TMT)と、押す現象の評価(SCP)
- 4. WAIS-Ⅳ(ウェクスラー成人知能検査 第4版)は成人の知能を総合的に評価する検査です。本症例の姿勢の障害の評価には用いず、理学療法を行う上で優先する検査ではありません。正しくは:知能の評価ではなく、押す現象の評価(SCP)が理学療法の計画に直結します。選びやすい理由:代表的な神経心理学的検査として知られているため、選択肢に残りやすい検査です。混同注意:知能検査(WAIS-Ⅳ)と、押す現象の評価(SCP)
- 5. WCST(Wisconsin Card Sorting Test)は遂行機能(概念の形成や切り替え)を評価する検査で、前頭葉機能の評価に用いられます。本症例の押す現象の評価には用いません。正しくは:遂行機能の評価より先に、姿勢の障害(押す現象)の重症度をSCPで評価します。選びやすい理由:高次脳機能の検査として知られており、脳卒中後の評価として選びたくなります。混同注意:遂行機能の検査(WCST)と、押す現象の評価(SCP)
国試ポイント
非麻痺側の上下肢で押して麻痺側へ傾き、他動的な修正に抵抗するという所見からpusher現象を見抜き、その評価尺度(SCP)を選べるかが問われています。
混同注意
右半球損傷では半側空間無視などの高次脳機能障害を伴うことが多いため、注意(TMT)や遂行機能(WCST)の検査を選びたくなります。しかし本症例で理学療法上最も問題となっているのは、押す現象による姿勢の崩れと転倒の危険であり、まず評価すべきはその重症度です。また、右利きの右半球損傷では失語は起こりにくく、SLTAの優先度は低いと考えられます。
次に同じ論点が出たら
SCPで押す現象の重症度を確認したら、座位・立位での介入(鏡や垂直の目印などの視覚的な手がかりで身体の傾きに気づかせ、非麻痺側への重心移動を促す練習など)を計画し、経過に合わせて再評価する(第5問)。
関連知識
pusher現象(contraversive pushing):非麻痺側の上下肢で座面や床面を押して身体を麻痺側へ傾け、正中位への修正に抵抗する現象。右半球損傷では半側空間無視を、左半球損傷では失語を合併することが多いとされる。SCPは座位・立位のそれぞれで、姿勢の傾き・非麻痺側上下肢の外転と伸展・修正への抵抗の3項目を評価する。選択肢の検査の評価対象:SLTA(失語症)、TMT(注意・遂行機能)、WAIS-Ⅳ(知能)、WCST(遂行機能・概念の切り替え)。