70歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅱ、下肢Ⅲ。下肢の随意運動は共同運動がわずかに認められる程度である。歩行はT字杖にて室内は自立している。ADL指導で正しいのはどれか。2つ選べ。
画像の選択肢を選ぶと答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1・3番
解説
70歳男性の患者は脳梗塞による右片麻痺があり、上肢BrunnstromステージⅡ、下肢BrunnstromステージⅢという比較的軽度な麻痺状態です。屋内はT字杖で自立歩行可能であるため、残存機能を生かし、麻痺側への負担を軽減しつつ自立を促すADL指導が適切です。選択肢1と3は、麻痺側を考慮した動作の工夫を示しており、患者の自立を支援する上で重要です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。麻痺側である右を下にして、健側である左手で体を支えながらベッドから起き上がる動作は、麻痺側の負担を軽減し、健側の力を有効に活用できるため、片麻痺患者に適切な動作指導です。患者は屋内歩行自立しており、この程度の動作は十分に可能です。選びやすい理由:麻痺があるため介助が必要だと考えがちですが、図の動作は自立を促すための工夫であり、患者の残存機能から見て実現可能な範囲です。混同注意:重度麻痺患者に対する全介助動作。
- 2. 浴槽に入る際、介助用手すりが設置されていますが、片麻痺患者が浴槽を跨ぐ動作はバランス能力と下肢筋力が必要であり、転倒リスクが高いです。特に下肢Ⅲ期では共同運動がわずかに見られる程度であり、安全に浴槽を跨ぎ、湯に浸かる動作は困難が予想されます。介助が必要となる可能性が高く、自立したADL指導として適切とは言えません。正しくは:浴槽への出入りはシャワーチェアやバスボードの利用、あるいは介助を検討する。選びやすい理由:手すりがあるため、安全にできると思われがちです。混同注意:手すりがあれば全ての動作が安全に行えるという誤解。
- 3. 正解。シャツを着る際、まず麻痺側である右腕から袖を通し、その後健側である左腕を通すのは、片麻痺患者の着衣動作の基本原則です。麻痺側から着ることで、健側で麻痺側を補助しやすくなり、自立を促します。下肢はBrunnstromステージⅢですが、上肢はⅡであり、このような動作指導は非常に有効です。選びやすい理由:健側から着る方が楽だと感じやすいですが、それでは麻痺側を動かす機会が減り、自立を妨げる可能性があります。混同注意:健側から着る、健側から脱ぐという誤った動作順序。
- 4. 床から立ち上がる動作は、高い体幹の安定性と下肢の支持性、バランス能力が必要です。この患者はBrunnstromステージ下肢Ⅲ(共同運動がわずかに見られる程度)であり、T字杖で屋内歩行自立はしているものの、床からの立ち上がりは非常に難易度が高く、転倒リスクが大きいため、適切なADL指導とは言えません。正しくは:床からの立ち上がりは危険性が高いため、可能な限り避ける。椅子やベッドからの立ち上がりを優先する。選びやすい理由:屋内歩行自立しているため、床からの立ち上がりも可能だと誤解されやすいです。混同注意:一般的な健常者の立ち上がり動作。
- 5. 階段を上る動作は、麻痺側下肢の振り出しや体重支持が必要であり、Brunnstromステージ下肢Ⅲでは非常に困難です。T字杖と手すりを使用していますが、麻痺側下肢の筋力や協調性が不十分なため、転倒リスクが高く、自力での上り下りは困難と考えられます。特に階段上りは健側から足を出し、麻痺側を引き上げる動作となるため、麻痺側下肢への負担が大きいです。正しくは:階段昇降は避けるか、介助を検討する。または、昇降機やエレベーターの利用を優先する。選びやすい理由:T字杖と手すりがあるため、補助具を使って可能だと考えやすいです。混同注意:T字杖や手すりがあれば、どのような場所でも自立できるという誤解。
国試ポイント
脳卒中片麻痺患者のADL指導において、残存機能の評価(Brunnstromステージ、歩行能力など)に基づき、麻痺側を考慮した動作手順を指導することの重要性を理解する。
混同注意
麻痺が重度な患者(BrunnstromステージⅠ〜Ⅱ初期)に対しては介助量を増やす必要があるため、本患者のBrunnstromステージと歩行能力を正しく評価することが重要です。また、あくまでADL指導なので、訓練レベルの難易度と混同しないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合は、患者の麻痺の程度(Brunnstromステージ、MMTなど)、残存能力、現在のADL自立度を詳細に確認し、その患者にとって「適切かつ実現可能」なADL指導であるかを判断します。特に、麻痺側と健側をどのように使うかという視点が重要になります。
関連知識
Brunnstromステージは、脳卒中後の運動麻痺回復段階を評価する指標です。ステージⅡは共同運動が出現し始めた段階、ステージⅢは共同運動が強化され随意運動が可能となる段階です。ADL指導では、ステージに応じた動作方法を指導し、生活の質向上を目指します。例えば、着衣動作では麻痺側から着て健側から脱ぐ、ベッド上起居動作では健側を下にして起き上がる、など麻痺側を適切に扱う方法があります。