45歳の男性。会社の事務職として働いていたが、自転車運転中に自動車にはねられ、びまん性軸索損傷を受傷した。身体機能に問題がなかったため、1か月後に以前と同じ部署である庶務に復職した。仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えているが、何から手を付ければ良いのか優先順位が付けられず、周囲の同僚から仕事を促されてしまう状況である。考えられるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この事例の男性は、仕事の内容や手順を覚えているにもかかわらず、複数のタスクの中から「何から始めるべきか」「どのように優先順位をつけるか」を判断し、計画的に行動することができない状態です。これは目標設定、計画立案、実行、問題解決、行動のモニタリングといった一連の認知プロセスである遂行機能に障害がある典型的な症状です。
選択肢ごとの解説
- 1. 記憶障害は新しい情報を覚えたり、過去の情報を思い出したりする能力の低下を指します。この事例の男性は「仕事を依頼されたことや仕事の方法は覚えている」と明記されており、記憶そのものに問題があるわけではありません。正しくは:「新しい仕事の手順が覚えられない」「指示された内容をすぐに忘れてしまう」といった状況であれば記憶障害が考えられます。選びやすい理由:高次脳機能障害の代表的な症状の一つなので、安易に選んでしまう可能性があります。混同注意:短期記憶障害や長期記憶障害など、記憶の様々な側面と混同することがあります。
- 2. コミュニケーション障害は、言葉を理解したり、表現したり、社会的な状況で適切にやり取りしたりする能力の障害です。男性は同僚の促しを理解しており、意思疎通自体には問題が示唆されていません。正しくは:「話の内容が理解できない」「自分の考えをうまく伝えられない」「場の空気を読んだ発言ができない」といった状況であればコミュニケーション障害が考えられます。選びやすい理由:職場でのやり取りがうまくいっていないように見えるため、コミュニケーションの問題と捉えやすいかもしれません。混同注意:失語症や構音障害など、特定の言語障害と混同することがあります。
- 3. 失行は、運動麻痺がないにもかかわらず、目的を持った複雑な動作を計画・実行できない状態です。この男性は具体的な動作ができないわけではなく、むしろ動作の優先順位付けに問題があります。正しくは:「ハサミの使い方がわからない」「着替えの手順が思い出せない」といった具体的な動作の障害であれば失行が考えられます。選びやすい理由:仕事の「手順」が関係するため、失行と関連付けてしまう可能性があります。混同注意:運動麻痺や運動失調、運動失語など、他の運動に関連する障害と混同することがあります。
- 4. 失認は、感覚器には異常がないにもかかわらず、対象物を認識・識別できない状態です。男性は仕事の内容や方法を認識できており、物体や状況の認識に問題があるわけではありません。正しくは:「同僚の顔が分からない」「目の前の電話が何かわからない」といった認識の障害であれば失認が考えられます。選びやすい理由:目の前の状況を正しく認識できていない、と感じてしまうかもしれません。混同注意:視野障害や聴覚障害など、感覚器の障害と混同することがあります。
- 5. 正解。遂行機能障害は、目標を設定し、計画を立て、それを実行し、状況に合わせて修正していく一連の認知プロセスの障害です。この男性は「何から手を付ければ良いのか優先順位が付けられず」という状況であり、これはまさに目標達成に向けた計画立案や実行管理の障害、すなわち遂行機能障害の特徴的な症状です。選びやすい理由:最も状況に合致する選択肢であり、他の選択肢が明確に異なるため、選びやすいです。混同注意:他の高次脳機能障害と症状が重なる部分もあるため、慎重な判断が必要です。
国試ポイント
高次脳機能障害の様々な症状について、具体的な症例を提示し、それがどの障害に該当するかを識別する能力が問われています。特に、症状の一部だけでなく、全体像から最も適切な障害を選択する力が求められます。
混同注意
記憶障害、失行、失認といった他の高次脳機能障害の定義と混同しやすいですが、それぞれの障害の核となる症状を理解していれば区別できます。遂行機能障害は、他の障害と合併することも多いため、純粋な症状を見極めるのが難しい場合があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、患者の具体的な行動や発言から、どの認知プロセス(記憶、言語、行為、認識、遂行など)に問題が生じているのかを正確に分析する視点が必要です。特に「〜できるが、〜できない」という記述があれば、その対比から障害の核心を見抜くことが重要です。
関連知識
遂行機能障害は前頭葉の機能と密接に関連しており、びまん性軸索損傷や外傷性脳損傷でよく見られます。症状としては、段取りの悪さ、計画性の欠如、融通の利かなさ、自発性の低下、感情や行動のコントロール不良などが挙げられます。リハビリテーションでは、具体的な手順のリスト化や、タスクを細分化する戦略指導などが行われます。