73歳の男性。身長170 cm、体重55 kg。糖尿病でインスリン治療導入中。運動強度の決定のため自転車エルゴメーターを用いて、1分間に20 Watts増加させるランプ負荷法で心肺運動負荷試験を行った。二酸化炭素排出量および酸素摂取量の変化のグラフ(別冊No. 2)を別に示す。指導すべき適切な運動強度はどれか。ただし、1 METの酸素摂取量は3.5 mL/min/kgとする。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この問題は、心肺運動負荷試験(CPX)の結果から嫌気性閾値(VT)を読み取り、それをMETsに換算して運動処方に適用する能力を問うものである。下図(別冊No. 2)のグラフでは、酸素摂取量(VO2)と二酸化炭素排出量(VCO2)の変化が示されており、VTはVCO2の上昇がVO2の上昇よりも急峻になり始める点(V-slope法)や、呼吸交換比(RER)が1.0に近づく点で判断できる。グラフからVTは酸素摂取量約15-20mL/min/kgの範囲にあると読み取れる。これをMETsに換算すると、15 / 3.5 ≒ 4.28 METs、20 / 3.5 ≒ 5.71 METsとなる。糖尿病患者の運動処方では、一般的にVTレベルか、それよりやや高い強度が推奨される。約6METsは、この範囲内であり、効果的かつ比較的安全な運動強度として適切であると判断される。
選択肢ごとの解説
- 1. グラフからVT(嫌気性閾値)が酸素摂取量約15mL/min/kgの時点と読み取れる。これをMETsに換算すると15 / 3.5 ≒ 4.28 METsとなる。一般的に運動処方はVTよりわずかに低いか、VTレベルで行われることが多いため、3METsは運動強度が低すぎる可能性が高い。正しくは:運動強度が低すぎず、適切な生理的効果が得られるレベルを考慮する。選びやすい理由:グラフの初期段階の運動強度であり、安全性が高そうに見えるが、治療効果を考えると不十分。混同注意:安静時METs(1METs)から大きく離れていないため、効果的な運動強度ではないと判断できる。
- 2. グラフから読み取れるVT(嫌気性閾値)は酸素摂取量約15mL/min/kgであり、これをMETs換算すると約4.28METsとなる。4METsはこのVTレベルに近いが、一般的な運動処方ではVTレベルか、それよりわずかに低い強度から開始されるため、もう少し高い強度も検討される。正しくは:VT付近の強度をより正確にMETsに換算し、運動処方におけるVTの活用法を理解する。選びやすい理由:VTに近い強度であるため、正解と迷うが、一般的にVTレベルが目標となるため、4METsはわずかに低い可能性がある。混同注意:VTを正確に読み取り、METs換算を間違えないことが重要。4METsだとVTを少し下回る可能性を考慮する。
- 3. グラフから読み取れるVT(嫌気性閾値)は酸素摂取量約15mL/min/kg(約4.28 METs)である。ACSMのガイドラインでは、心疾患患者や糖尿病患者の場合、VTレベルか、それよりやや低い強度が推奨されることが多い。5METsはVTをやや超える強度であり、適切な運動強度としては少し高い可能性がある。正しくは:個別性が高いため、VTを正確に把握し、個人の耐容能と安全性を考慮した上で運動強度を決定する。通常はVTレベルを目標とする。選びやすい理由:VTを正確に読み取れない場合、誤ってVTよりやや高い強度を選んでしまう可能性がある。混同注意:VTと呼吸代償性閾値(RCT)を混同しないこと。VTは運動効果の指標としてよく用いられるが、RCTはより高強度である。
- 4. 正解。この設問では、患者は糖尿病を有しており、適切な運動強度の設定が重要となる。心肺運動負荷試験のグラフから、二酸化炭素排出量の増加が酸素摂取量の増加よりも顕著になり始める点、つまり嫌気性閾値(VT)を特定する。下図(別冊No. 2)のグラフから、VTは酸素摂取量が約15mL/min/kgのあたり、またはそれよりわずかに高い位置(酸素摂取量約20mL/min/kgの前後)と判断できる。具体的には、呼吸交換比(RER)が1.0に近づき、VE/VO2が上昇し始める点がVTである。糖尿病患者の運動処方において、運動耐容能と安全性を考慮すると、VTレベルまたはそれより少し高い強度(VT~AT+α)が効果的とされる。グラフからACSMなどの基準に照らし合わせると、酸素摂取量15-20mL/min/kgの範囲が妥当なVT周辺の運動強度である。これをMETsに換算すると、15/3.5 ≒ 4.28 METsから20/3.5 ≒ 5.71 METsとなる。したがって、約6METsは、この患者のVTレベルを考慮した、効果的かつ比較的安全な運動強度として適切であると判断できる。正しくは:VT(嫌気性閾値)の概念を理解し、グラフから正確にVTを読み取る能力が求められる。また、糖尿病患者における運動処方の原則に基づき、VTレベルまたはそれよりわずかに高い強度が適切であるという知識が必要となる。選びやすい理由:VTの正確な読み取りが難しいため、他の選択肢と迷うことがある。特にVTより低い強度(3METs, 4METs)や、VTより高い強度(7METs)も魅力的に見える。混同注意:VTとRCT(呼吸代償性閾値)を混同すると、運動強度が高くなりすぎる可能性がある。また、単に最大酸素摂取量の何%という設定だけでなく、VTを基準とすることの重要性を理解する。
- 5. グラフから判断できるVT(嫌気性閾値)は、酸素摂取量約15-20mL/min/kg、すなわち約4.28~5.71METsである。7METsはVTを大きく超える強度であり、この患者は糖尿病を有しているため、安全性を考慮すると過度な運動強度である可能性が高い。特に、インスリン治療中の患者では低血糖のリスクや心血管系のリスクも考慮する必要がある。正しくは:運動強度は個人の耐容能と安全性を最優先し、VTを大幅に超える強度は避けるべきであることを理解する。選びやすい理由:より高い運動効果を期待して、やや高めの強度を選んでしまいがちだが、患者の基礎疾患と安全性を考慮することが重要。混同注意:最大運動能力や最大酸素摂取量の何%という設定に偏りすぎず、VTを基準とした運動処方の重要性を理解する。
国試ポイント
心肺運動負荷試験(CPX)のグラフから嫌気性閾値(VT)を正確に読み取り、それをMETsに換算して適切な運動強度を決定する能力。特に、糖尿病などの基礎疾患を持つ患者への運動処方の原則を理解しているかどうかが問われる。
混同注意
VTとRCT(呼吸代償性閾値)の区別、およびそれぞれの臨床的意義。また、最大酸素摂取量の何%という設定法とVTを基準とする設定法の違い。
次に同じ論点が出たら
この患者に対して、設定した運動強度(約6METs)での具体的な運動種目や運動時間、頻度をどのように指導するか。また、運動中のモニタリング項目(血糖値、自覚的運動強度など)や注意点(低血糖、虚血性心疾患の症状など)をどのように説明するか。
関連知識
心肺運動負荷試験(CPX)の原理、VTおよびRCTの定義、METsの概念と計算方法、糖尿病患者における運動療法のガイドライン、運動処方における運動強度設定の基本的な考え方。