67歳の男性。Parkinson病。発症後5年経過。Hoehn & Yahrの重症度分類ステージⅢ。四肢に中等度の筋強剛を認めるが、筋力や関節可動域に明らかな問題はない。歩行場面では、開始後しばらくして小刻み歩行で小走りとなり、会話しながらだとそれが顕著となる。腰掛けるために椅子に近づくと、すくみ足がみられる。この患者の歩行障害への対応で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
パーキンソン病の患者によく見られる小刻み歩行、小走り、すくみ足、そして二重課題(会話しながらの歩行)による症状の悪化は、基底核の機能不全による内的な運動生成能力の低下が原因とされています。このような症状に対しては、外部からの感覚入力(視覚キューや聴覚キュー)が非常に有効です。特に、リズミカルな聴覚刺激は歩行のリズムを強制的に同期させ、歩幅の拡大や歩行速度の改善、すくみ足の軽減に効果を発揮します。設問の患者はHoehn&YahrステージⅢであり、自立歩行は可能であるものの、症状が顕著であるため、外部キューを用いた介入は非常に有効な手段です。他の選択肢は、症状の悪化を招いたり、患者の現状には適さない不適切な対応策です。
選択肢ごとの解説
- 1. パーキンソン病患者は、方向転換や狭い場所での歩行、目標物への接近時にすくみ足や歩行停止が起こりやすい特性があります。このような状況での練習は、症状を悪化させるリスクが高く、適切な介入とは言えません。正しくは:狭い場所での歩行は避けるか、十分に広い空間で安全を確保した上で行い、徐々に環境を変化させる工夫が必要です。または、視覚キューなどを用いながら注意を分散させずに歩く練習をすることが有効です。選びやすい理由:日常生活で狭い場所を歩くことは避けられないため、練習として取り入れたいと考えるかもしれませんが、いきなり症状が悪化しやすい環境で練習することは危険です。混同注意:ADLに即した訓練をしたいという意図と混同しやすいですが、パーキンソン病の特性を理解した上での段階的な介入が重要です。
- 2. 継ぎ足歩行はバランス能力の評価によく用いられる高難度の歩行方法です。パーキンソン病患者、特にすくみ足や小刻み歩行を呈している患者にとっては、転倒のリスクが高く、かえって症状を悪化させる可能性があり、適切な介入ではありません。正しくは:歩行訓練としては、まず歩幅を広げ、安定性を高めることを目標とし、平行棒内やセラピストの介助下で、安全に配慮しながら練習を行うべきです。選びやすい理由:歩行能力の向上を目指す上で、より難しい課題に挑戦させたいと考えるかもしれませんが、患者の現在の能力レベルと症状特性を考慮する必要があります。混同注意:バランス能力や協調性の評価方法と、訓練内容を混同しやすいです。
- 3. 長下肢装具は、筋力低下や関節の不安定性が著しい場合など、下肢の支持性が大きく損なわれているケースで用いられます。この患者は筋力や関節可動域に明らかな問題がないとされており、パーキンソン病の歩行障害の主な原因である運動開始困難、リズム障害、すくみ足などに対しては、長下肢装具は根本的な解決策にはなりません。むしろ、装具による運動の制限がかえって歩行を阻害する可能性があります。正しくは:この患者の場合、装具の適応は低いです。歩行補助具としては、歩行器や杖の使用を検討し、外部キューや薬物療法との併用で歩行能力の改善を目指すのが適切です。選びやすい理由:歩行が不安定なため、装具で安定性を高めたいと考えるかもしれませんが、パーキンソン病の歩行障害のメカニズムとは合致しません。混同注意:重度の筋力低下や麻痺による歩行障害と、パーキンソン病の運動症状による歩行障害を混同しやすいです。
- 4. 設問中に「会話しながらだとそれが顕著となる」と記載されており、二重課題(デュアルタスク)を行うことで歩行障害(小刻み歩行や小走り)が悪化することが示唆されています。認知課題を歩行に加えることは、この二重課題の負荷をさらに増やすことになり、転倒リスクを高め、歩行をさらに不安定にするため不適切です。正しくは:集中して歩行に注意を向けられる環境で練習するか、まずは単独課題として歩行に集中する練習から始めるべきです。二重課題は、歩行が十分に改善され、安全性が確保された段階で、ごく軽度なものから慎重に取り入れるべきです。選びやすい理由:日常生活では様々な二重課題が必要とされるため、訓練として有効だと感じるかもしれませんが、パーキンソン病の特性を理解することが重要です。混同注意:多様な状況への対応力を高めるための訓練と、パーキンソン病における二重課題の悪影響を混同しやすいです。
- 5. 正解。パーキンソン病患者の小刻み歩行やすくみ足といった歩行障害に対しては、外部からの視覚的・聴覚的キューが非常に有効であることが知られています。特にメトロノームのようなリズミカルな聴覚刺激は、歩行のリズムを整え、歩幅を拡大し、歩行速度を改善させ、すくみ足を軽減する効果が期待できます。これは、基底核の機能低下による自己生成的な運動パターンの障害を、外部からの合図で補償するメカニズムに基づいています。
国試ポイント
パーキンソン病の歩行障害(小刻み歩行、すくみ足、二重課題での悪化)の特性と、それに対するリハビリテーション介入、特に外部キュー(視覚・聴覚)の有効性が問われる問題です。患者の病期や具体的な症状から、適切な介入方法を選択できる知識が求められます。
混同注意
他の神経疾患(例: 小脳失調、脊髄小脳変性症、脳血管疾患後遺症など)による歩行障害の特性と混同しやすいですが、パーキンソン病に特有の運動開始困難、すくみ足、小刻み歩行、そしてリズム障害に対する外部キューの有効性を明確に理解しておく必要があります。また、二重課題による歩行悪化はパーキンソン病で顕著であり、この点も重要です。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出た場合、患者のパーキンソン病の病期(Hoehn&Yahr分類)と、具体的にどのような歩行障害(小刻み、すくみ足、突進、二重課題による悪化など)を呈しているかに注目します。そして、それらの症状に対する最も効果的な理学療法介入が、外部キュー(視覚的・聴覚的刺激)であることを中心に判断します。特に二重課題による悪化が見られる場合は、認知課題を歩行と同時に行うことが症状を悪化させる可能性が高いことを念頭に置きます。
関連知識
・Hoehn&Yahr重症度分類(ステージⅠ~Ⅴ) ・パーキンソン病の4大症状(振戦、固縮、無動/寡動、姿勢反射障害) ・パーキンソン病の歩行障害のメカニズムと特徴(小刻み歩行、すくみ足、突進歩行、方向転換障害、二重課題の影響) ・外部キュー(External Cues)による理学療法(視覚キュー:床の線、聴覚キュー:メトロノーム、触覚キューなど) ・二重課題(デュアルタスク)訓練の段階的導入