28歳の男性。脊髄完全損傷。両側に長下肢装具を使用し、平行棒内歩行練習を行っている。歩行パターンを図に示す。機能残存レベルはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
脊髄損傷の機能残存レベルを判断する際、残存する筋力とその組み合わせから可能な歩行パターンを評価します。長下肢装具を使用し、平行棒内で臀部を大きく挙上して骨盤を左右に振るようなスイングスルー歩行を行う場合、これは腹筋下部が一部機能し、股関節の屈筋(腸腰筋の一部)の代償的な動きが期待できるTh12レベルの損傷に典型的です。Th12レベルでは、下肢の筋力はほとんど麻痺していますが、体幹の安定性をある程度保ちつつ、骨盤の動きを利用して下肢を振り出すことが可能になります。他の選択肢では、機能が過剰であったり、逆に不足していたりして、示された歩行パターンとは一致しません。
選択肢ごとの解説
- 1. Th1レベルの損傷では、体幹筋の麻痺がほとんどなく、通常は装具なしでの歩行や、杖歩行が可能となることが多いです。長下肢装具と平行棒を必要とするほどの体幹機能障害はみられません。正しくは:Th1レベルであれば、安定した歩行が可能であるため、長下肢装具や平行棒は不要なことが多いです。選びやすい理由:脊髄損傷のレベルが低いほど残存機能が多いと考えるため、比較的上位の選択肢が誤答であると判断しにくい可能性があります。混同注意:Th1レベルは呼吸筋や上肢の機能に影響が少ないため、日常生活動作の自立度は高いですが、下肢の機能は損傷レベルによって異なることを混同しやすいです。
- 2. Th6レベルの損傷では、体幹の安定性がかなり低下するため、歩行には長下肢装具と平行棒が必要となる可能性はありますが、図に示すような歩行パターン(臀部挙上を伴うスイングスルー歩行)は、Th12レベルの患者により典型的です。Th6では体幹の固定がより困難です。正しくは:Th6レベルの場合、座位バランスの維持が困難であり、歩行訓練では体幹のより強いサポートが必要となります。また、腹筋機能がほとんど期待できないため、このようなダイナミックな体幹の動きを伴う歩行は難しいです。選びやすい理由:胸髄損傷の一般的なイメージとして、長下肢装具と平行棒での歩行を連想しやすいため、選択肢として魅力的かもしれません。混同注意:胸髄損傷のレベルと体幹筋の残存機能の関係性を正確に理解していない場合、Th6とTh12の間の機能差を混同しやすいです。
- 3. 正解。Th12レベルの完全損傷では、腸腰筋が一部機能する場合があり、股関節屈曲の代償的な動きを補助できます。下肢装具と平行棒を用いた図のようなスイングスルー歩行は、このレベルの機能残存者にとって典型的な歩行パターンです。腹筋下部の一部が残存するため、骨盤の引き上げや体幹の安定化に利用できます。選びやすい理由:他の胸髄レベルとの違いが分かりにくいと感じることがありますが、このレベルでは腸腰筋の機能が一部残存し、スイングスルー歩行に繋がりやすいという点が重要です。混同注意:胸髄下部から腰髄上部にかけての損傷レベルによる機能の違い、特に腸腰筋や腹筋群の残存機能との関連性を混同しやすいです。
- 4. L4レベルの損傷では、大腿四頭筋が機能するため、長下肢装具を装着したとしても、通常はより安定した、または短下肢装具を用いた歩行が可能となります。図のような極端なスイングスルー歩行は一般的ではありません。正しくは:L4レベルであれば、膝関節の伸展筋である大腿四頭筋が機能するため、長下肢装具ではなく、短下肢装具や単独歩行でのより自然な歩行が期待できます。選びやすい理由:腰髄レベルであれば、より歩行能力が高いというイメージから、選択肢として考えてしまう可能性があります。混同注意:L4レベルとTh12レベルの機能の違い、特に膝伸展筋の有無が歩行能力に与える影響を混同しやすいです。
- 5. S1レベルの損傷では、下肢のほとんどの筋肉が機能しており、足関節の底屈筋や股関節外転筋に影響が見られます。このレベルの損傷で長下肢装具と平行棒を用いたスイングスルー歩行を必要とすることは通常ありません。正しくは:S1レベルであれば、下腿三頭筋(足関節底屈筋)や股関節外転筋の一部に麻痺が見られますが、長下肢装具や平行棒は不要で、多くの場合、杖などを用いた独立歩行が可能です。選びやすい理由:仙髄レベルであれば、歩行に大きな問題がないと考えがちですが、足関節機能の低下は歩行に影響を与えるため、完全に問題がないとは言い切れないため、誤って選択する可能性があります。混同注意:仙髄損傷の具体的な症状や、足関節機能と歩行の関係性を混同しやすいです。
国試ポイント
脊髄損傷の機能残存レベルと、それに伴う残存筋力、そして可能な歩行パターン(装具の種類や歩行補助具の使用を含め)の組み合わせを理解しているかが問われます。特に、スイングスルー歩行やスイングトゥー歩行といった特徴的な歩行様式がどのレベルに対応するかを把握することが重要です。
混同注意
胸髄下部(Th10〜Th12)と腰髄上部(L1〜L3)の損傷レベルにおける残存筋の違い(特に腹筋群や腸腰筋の機能)と、それらが歩行パターンに与える影響について混同しやすいです。また、完全損傷と不完全損傷による機能差も注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
次回同じ論点が出た場合、与えられた歩行パターン(図示される場合が多い)から、どの筋肉が機能しているか、または機能していないかを推測し、その筋支配レベルを正確に判断できるかがポイントとなります。脊髄損傷のレベルと残存筋の対応表をしっかりと覚えておくことが重要です。
関連知識
脊髄損傷のASIA分類、国際機能分類(ICF)、各神経根レベルの支配筋、様々な歩行パターン(スイングスルー、スイングトゥー、四点歩行など)とそれに必要な装具や補助具の知識。特に、長下肢装具(KAFO)や短下肢装具(AFO)の適応についても関連します。