74歳の女性。6か月前に左被殻出血を発症して、軽度の右片麻痺を呈している。くしを歯ブラシのように使おうとしたり、スプーンの柄に食物を乗せようとする行動がみられた。この患者の症状はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
患者がくしを歯ブラシのように使ったり、スプーンの柄に食物を乗せようとする行動は、道具の本来の機能や使用目的、あるいは行為の概念そのものが失われていることを示唆している。これは、一連の行為を計画・実行する能力の障害である観念失行の典型的な症状である。観念失行は、左頭頂葉や側頭葉の病変によって生じることが多い。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。観念失行は、対象物の使用方法や一連の行為の概念が失われ、不適切な道具の使い方や動作の順序間違いが生じる状態である。くしを歯ブラシのように使う、スプーンの柄に食べ物を乗せるという行為は、対象物の本来の機能や使用法を理解していないために起こる間違いであり、観念失行の典型的な症状である。選びやすい理由:失行の中でも、道具の使用に関する間違いであるため、失行の種類が問われていることに気づけば選択しやすい。混同注意:観念運動失行と混同しやすいが、観念失行は道具の概念や行為のプラン全体が障害されるのに対し、観念運動失行は道具の概念は理解しているが、運動の遂行ができない点が異なる。
- 2. 構成失行は、視空間認知の障害に基づき、積み木を積む、絵を描く、図形を模写するなど、部分を組み合わせて全体を構成する行為が障害される状態である。今回の事例では、道具の不適切な使用が問題であり、視空間的な構成能力の障害ではない。正しくは:部分を組み合わせて全体を構成する課題(例:積み木模倣や図形模写)が困難な場合に選択される。選びやすい理由:高次脳機能障害の一種であり、失行の選択肢として並んでいるため、知識が曖昧だと選びやすい。混同注意:着衣失行や観念運動失行など、他の失行と混同しやすい。特に空間的な要素が関連する失行と間違えやすい。
- 3. 着衣失行は、衣服の前後や上下を間違えたり、袖に足を通そうとするなど、衣服を正しく着用することができない状態である。これは視空間認知の障害や身体図式の障害に起因することが多い。今回の事例は道具の使用に関する間違いであり、着衣に関する問題ではない。正しくは:衣服を正しく着用できない症状が提示された場合に選択される。選びやすい理由:日常生活動作の障害であり、失行の一種であるため、他の失行との区別がつきにくい場合に選びやすい。混同注意:構成失行(視空間性失行の一種)と関連が深く、両者が混同されることがある。
- 4. 観念運動失行は、単一の運動要素(例:手を振る、敬礼をするなど)や道具を模倣して使う運動が障害される状態であり、対象物の概念自体は理解していることが多い。患者は「くし」の概念や「歯ブラシ」の概念を混同している、あるいは「スプーン」の概念を誤って解釈しているため、運動の遂行能力の問題ではなく、概念の障害と捉えられる。左被殻出血であれば、皮質下病変のため観念運動失行は起こりにくい。正しくは:道具なしでのジェスチャーの模倣や指示された運動ができない場合に選択される。選びやすい理由:観念失行と名称が似ており、道具の使用に関する失行であるため、最も混同しやすい選択肢である。左被殻出血という病変部位から、皮質下性失行(観念運動失行)を疑う知識がある場合も誘惑される。混同注意:観念失行。観念失行は『何をするか』という行為のプランが障害されるのに対し、観念運動失行は『どのように実行するか』という運動の実行が障害される。
- 5. 肢節運動失行は、個々の運動(例:指のつまみ動作、ボタンをかけるなど)は可能だが、より複雑な手指の巧緻運動がぎこちなく不器用になる状態である。これは主に優位半球の前頭葉病変によって生じるが、今回の事例は道具の概念的な誤用であり、個々の運動の不器用さやぎこちなさとは異なる。正しくは:手指の細かい運動が不器用になる症状が提示された場合に選択される。選びやすい理由:片麻痺患者で起こりうる失行の一種であり、運動機能に関連する失行であるため、漠然とした知識で選んでしまいやすい。混同注意:運動麻痺や失調と混同されやすい。肢節運動失行は運動麻痺がないにも関わらず不器用さが見られる点が特徴である。
国試ポイント
失行の種類とそれぞれの特徴、特に観念失行と観念運動失行の鑑別が問われる。具体的な臨床症状から、どの失行に該当するかを正確に判断する能力が求められる。病変部位と失行の関係性も重要な知識である。
混同注意
観念失行と観念運動失行の区別は特に重要。観念失行は道具の概念や行為の計画が障害され、観念運動失行は道具の概念は理解していても運動の実行ができないという違いがある。また、構成失行や着衣失行など、他の失行の種類も混同しやすい。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の問題が出題された際は、具体的な症状が「道具の概念理解」に関するものか、「運動の実行」に関するものか、「空間的な構成」に関するものか、「身体図式」に関するものかを見極めることが重要となる。また、病変部位(優位半球か非優位半球か、皮質性か皮質下性か)も判断材料の一つとなる。
関連知識
観念失行:道具の使用、一連の行為の概念が失われる。左頭頂葉、側頭葉病変。観念運動失行:道具の概念は理解しているが、運動の遂行が困難。主に左優位半球前頭葉または頭頂葉下部病変。構成失行:視空間認知障害に基づく構成能力の障害。右頭頂葉病変が多い。着衣失行:衣服を正しく着用できない。右頭頂葉病変が多い。肢節運動失行:個々の巧緻運動の不器用さ。優位半球前頭葉病変。失行は麻痺や感覚障害、失調、理解力障害などがない状態で観察されることが多い。