74歳の女性。脳梗塞による左片麻痺。発症後3か月。平行棒内立位保持練習では重心が左側に偏り、平行棒に骨盤が寄りかかるような姿勢を呈する。この症状を改善するための理学療法で正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
患者の重心が麻痺側(左)に偏り、支持物に寄りかかるような姿勢は、自身の身体図式や空間認識の異常、特に「Pusher症候群」の特徴を示唆しています。このような場合、患者は主観的に「まっすぐ」と感じていても、実際には大きく傾いているため、客観的な情報を提供し、自身の姿勢の誤りを認識させることが重要です。鏡を用いた視覚フィードバックは、姿勢の傾きを客観的に認識させ、能動的な姿勢修正を促す上で非常に有効な介入方法です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者自身の身体認識や能動的な姿勢制御能力の改善を促すものではなく、単なる他動的な修正に過ぎません。特に「Pusher症候群」の症状が見られる場合、他動的に姿勢を修正しようとすると、患者は抵抗してさらに麻痺側へ押し返す行動を示すことがあり、効果が低いか、かえって逆効果になる可能性があります。正しくは:患者自身に意識的に非麻痺側へ重心を移動させるように指示し、適切なフィードバックを与えながら練習を促す。選びやすい理由:麻痺側への偏りを修正したいという直接的な意図から、物理的に押し戻すという発想になりがちです。混同注意:バランストレーニングで外部からの介入を行うことはありますが、このケースでは姿勢制御の根本的な問題(身体図式や知覚の異常)があるため、単純な外力による修正は適切ではありません。
- 2. 右上肢での前方リーチ運動は、重心を前方に移動させる効果はありますが、重心の左右への偏り(左への傾き)を直接的に修正する効果は限定的です。左右のバランスを改善するには、非麻痺側への側方リーチや、非麻痺側下肢への荷重を促す運動の方がより直接的な効果が期待できます。正しくは:非麻痺側の右上肢で右方向へのリーチ運動を行わせ、重心を右側に移動させるように促す。選びやすい理由:上肢運動が姿勢バランスに影響を与えるという一般的な知識から、一見有効そうに見えるかもしれません。混同注意:全身を使ったバランス訓練の一環と混同しやすいですが、本症例の主要な問題(左右の重心偏位)に対しては優先度が低い介入です。
- 3. 正解。患者が自身の重心が左に偏っていることを認識できていない可能性がある(身体図式障害、半側空間無視、Pusher症候群などが背景にある場合)ため、鏡を用いて客観的に自身の姿勢の傾きを視覚的に認識させることは非常に有効です。これにより、誤った身体図式や空間認識を修正し、能動的に正しい姿勢を学習・維持する能力を促すことができます。Pusher症候群に対する主要な理学療法介入の一つとされています。
- 4. 左下肢に膝装具を装着することは、麻痺による膝折れや膝関節の不安定性がある場合には有効ですが、本症例の「重心が左に偏り、骨盤が平行棒に寄りかかる」という症状は、膝関節の安定性だけの問題ではなく、むしろ麻痺側への過剰な荷重と重心制御の異常が原因と考えられます。装具は膝の安定化には寄与しますが、左右の重心偏位や骨盤の寄りかかりを直接改善するものではありません。むしろ、麻痺側下肢への過剰な依存を助長する可能性も考えられます。正しくは:もし膝関節の不安定性が問題であれば装具を検討しますが、この症状に対しては重心制御や姿勢認識を促す介入が優先されます。選びやすい理由:脳卒中片麻痺患者の麻痺側下肢の機能低下に対して装具が有効という一般的な知識から選びやすいかもしれません。混同注意:歩行時の膝折れ防止のための装具と、立位バランスにおける重心制御の問題解決のための介入を混同しやすいです。
- 5. レイミステ現象のような連合反応は、不随意的な筋収縮であり、随意的な運動学習や正常な運動パターンの再獲得を目的とするリハビリテーションにおいては、主要な介入とはみなされません。また、麻痺側への重心偏位がある状態で、股関節内転筋の強化を図ることは、内転筋の過緊張を助長し、さらなる重心の麻痺側への偏位を悪化させる可能性もあり、不適切です。正しくは:連合反応ではなく、随意的な運動制御を促す訓練(例:股関節外転筋の協調的な活動を促す運動)を行う。または、内転筋の過緊張がある場合は抑制を目的とした介入を行う。選びやすい理由:連合反応の知識があり、麻痺側筋力強化という目的から一見有効そうに感じられるかもしれません。混同注意:かつて行われていた原始的な反射や連合反応を利用したリハビリテーションと、現代の随意運動学習を重視するアプローチを混同しやすいです。
国試ポイント
この問題は、脳卒中片麻痺患者の姿勢制御障害、特にPusher症候群の症状と、それに対する適切な理学療法介入の選択能力を問うものです。Pusher症候群の診断基準とそのリハビリテーション戦略に関する知識が求められます。視覚フィードバックの有効性や、他動的修正の限界を理解しているかが鍵となります。
混同注意
他動的な姿勢修正(選択肢1)や、非麻痺側の運動(選択肢2)が、直接的に重心偏位を修正するかのように誤解しやすいです。また、麻痺側下肢の安定化のための装具(選択肢4)や、連合反応を利用した筋力強化(選択肢5)が、この症状の根本的改善につながると混同しやすいでしょう。Pusher症候群の治療では、受動的な修正ではなく、患者自身による能動的な姿勢制御学習が重視される点を理解しているかが重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、Pusher症候群の定義と、それに対する具体的な理学療法手技(例:視覚フィードバック、非麻痺側へのリーチ、傾斜台を用いた練習、健側下肢への荷重促通など)を問う問題が出題される可能性があります。また、重心偏位の原因が、視覚、前庭、体性感覚のどの情報入力の障害によるものか、または複合的なものかを見極める視点も重要になります。
関連知識
Pusher症候群の定義、診断基準(垂直位の異常認識、非麻痺側への抵抗、麻痺側への荷重偏位)、病態生理(視床の損傷が関与することが多い)、理学療法介入の原則(視覚フィードバック、非麻痺側への重心移動促通、支持面の安定化、環境調整)。脳卒中後の姿勢制御メカニズム、身体図式障害、半側空間無視との鑑別。