68歳の男性。胸部大動脈解離(Stanford分類B型)に対して経カテーテル的ステントグラフト内挿術が行われたところ、術後に麻痺症状がみられた。ASIA評価表の結果を示す。この患者のASIAの重症度スケールと脊髄の損傷部位との組合せで正しいのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
胸部大動脈解離に対するステントグラフト内挿術後の脊髄虚血は、Adamkiewicz動脈などの脊髄灌流動脈が閉塞することで発症する。脊髄の前方2/3を支配する前脊髄動脈の虚血により、運動機能と温痛覚が障害されやすく、深部感覚と触覚の一部は後脊髄動脈が支配するため比較的保たれやすい。ASIA評価表で運動機能が不完全麻痺を示すCであり、脊髄の前方障害であると考えられるため、選択肢2が正しい。
選択肢ごとの解説
- 1. 脊髄の後方が障害された場合、深部感覚や触覚が主に障害されるが、問題文では運動麻痺が主症状である。また、ASIA Bは不完全麻痺で、感覚機能は保持されているが運動機能は損傷レベル以下で全くないか、または運動機能が保たれている最下位の脊髄節より下の3つ以上の筋節で運動機能が3未満の場合に用いられる。症例はASIAのCなので誤り。正しくは:ASIAのCであることから、脊髄前方病変の可能性が高い。選びやすい理由:脊髄損傷の不完全麻痺のパターンが複数あるため、どのスケールと部位を組み合わせるか迷いやすい。混同注意:後脊髄動脈症候群と前方脊髄動脈症候群の区別。
- 2. 正解。胸部大動脈ステントグラフト内挿術後の脊髄虚血は、主に前脊髄動脈領域の虚血が原因で起こる。前脊髄動脈は脊髄の前方2/3(運動野、温痛覚伝導路)を栄養するため、運動麻痺と温痛覚障害が主症状となる。ASIA Cは不完全脊髄損傷で、損傷レベル以下に運動機能が残存し、半数以上のキーマッスルで筋力が3未満の場合を指す。この組合せは前脊髄動脈症候群の特徴と合致する。
- 3. 脊髄の後方が障害された場合、深部感覚や触覚が主に障害され、運動麻痺は通常軽度か認められない。また、ASIA Cは不完全麻痺であるが、脊髄後方障害の病態とは一致しない。正しくは:脊髄の前方障害であればASIA Cと合致する。選びやすい理由:脊髄損傷の不完全麻痺のパターンが複数あるため、どのスケールと部位を組み合わせるか迷いやすい。混同注意:後脊髄動脈症候群と前方脊髄動脈症候群の区別。
- 4. ASIA Dは不完全麻痺で、損傷レベル以下に運動機能が残存し、半数以上のキーマッスルで筋力が3以上の場合を指す。問題文のASIA評価表は提示されていないが、公式正答がCであることから、Dではないと判断できる。また、脊髄の前方障害では運動機能が比較的大きく障害されるため、DよりもCである可能性が高い。正しくは:ASIA Cであるため、選択肢は誤り。選びやすい理由:不完全麻痺の重症度分類でCとDは隣接しており、判断が難しい場合がある。前脊髄動脈症候群の部位としては合っているため、重症度スケールで迷う可能性がある。混同注意:ASIA CとDの判別基準。
- 5. 脊髄の中心部(central cord syndrome)が障害された場合、上肢の運動麻痺が下肢よりも強く、感覚障害は比較的軽度である。また、ASIA Dは不完全麻痺で、損傷レベル以下に運動機能が残存し、半数以上のキーマッスルで筋力が3以上の場合を指す。公式正答がCであることから、Dではないと判断できる。正しくは:ASIA Cであるため、選択肢は誤り。また、中心部障害と前方脊髄動脈症候群の病態は異なる。選びやすい理由:脊髄の様々な部位での症候とASIAスケールの理解が不十分な場合、選択肢として魅力的になり得る。混同注意:中心性脊髄損傷と前方脊髄動脈症候群の症状の区別、およびASIA CとDの判別基準。
国試ポイント
脊髄の血管支配とそれによる症候、およびASIA脊髄損傷重症度分類を理解する。
混同注意
脊髄損傷の部位(前方、後方、中心部)とASIA重症度スケール(A, B, C, D, E)の組み合わせ。特に、不完全麻痺における運動機能と感覚機能の残存の程度によってスケールが決定される点。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た際は、術後の麻痺症状が運動と感覚(特に温痛覚)のどちらを強く障害しているかに注目し、それが脊髄のどの血管支配領域(前脊髄動脈か後脊髄動脈か)の虚血に相当するかを判断する。その上で、ASIA評価表の運動機能と感覚機能の残存度合いから重症度スケールを決定する。
関連知識
Adamkiewicz動脈は、主にT9-L2レベルから分岐し、前脊髄動脈に合流して脊髄下部の血流を担う。この動脈の遮断は対麻痺や膀胱直腸障害を引き起こす。また、B型大動脈解離はStanford分類では下行大動脈に解離がある場合を指し、上行大動脈に及ぶA型より緊急度は低いが、合併症リスクは存在する。