60歳の男性。7年前から歩行時にふらつきを自覚し、6年前から話し方が単調で途切れ途切れとなり膀胱直腸障害と起立性低血圧を認めた。四肢の固縮や振戦が徐々に進行し、2年前から車椅子で移動するようになった。最近、声が小さくなり呼吸困難感を訴えるようになった。頭部MRIのFLAIR画像で水平断(別冊No. 4A)及び矢状断(別冊No. 4B)を別に示す。この疾患で合併する可能性が高いのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この症例は、歩行時のふらつき、単調な話し方、膀胱直腸障害、起立性低血圧、四肢の固縮や振戦の進行という症状から、多系統萎縮症(MSA)が強く疑われます。特に「声が小さくなり呼吸困難感」という訴えは、多系統萎縮症、中でも小脳失調型(MSA-C)や線条体黒質変性症型(MSA-P)で進行期に合併しやすい声帯外転麻痺を示唆します。多系統萎縮症の主要な病理学的特徴の一つであるオリゴデンドログリア内封入体は、延髄などの脳幹にも影響を及ぼし、自律神経機能不全や呼吸障害(吸気性喘鳴、声帯麻痺)を引き起こすことが知られています。MRI画像で小脳萎縮が示唆される場合、診断はさらに確実になります。
選択肢ごとの解説
- 1. 失語症は皮質性言語中枢の障害で生じ、通常は脳血管障害や変性疾患の初期症状として認められます。多系統萎縮症では一般的に失語は合併しません。正しくは:多系統萎縮症において、失語は主要な合併症ではありません。発話の障害は構音障害として現れます。選びやすい理由:言語に関する症状が出ているため、失語を連想しやすいですが、多系統萎縮症で認められるのは構音障害です。混同注意:構音障害と失語症は両方とも言語の障害ですが、病態が異なります。構音障害は発語器官の運動機能障害であり、失語症は言語理解や表出の中枢性障害です。
- 2. 拮抗失行(alien hand syndrome)は通常、補足運動野や脳梁の病変によって引き起こされ、認知症性疾患や脳梗塞で見られることがあります。多系統萎縮症では典型的な合併症ではありません。正しくは:拮抗失行は多系統萎縮症に特有の合併症ではありません。錐体外路症状や小脳症状が主な運動障害です。選びやすい理由:パーキンソン病類縁疾患で奇妙な運動症状が起こるというイメージから、選択肢の一つとして検討されるかもしれませんが、多系統萎縮症で拮抗失行は稀です。混同注意:パーキンソン病と多系統萎縮症は類似点もありますが、特徴的な症状や病態生理は異なります。拮抗失行は皮質性障害と関連が深いです。
- 3. 正解。多系統萎縮症(特にOPCA型やMSA-C型)では、進行性の延髄機能不全により、声帯外転筋の麻痺が生じやすく、これが吸気性喘鳴や嚥下障害、呼吸困難の原因となります。患者の「声が小さくなり呼吸困難感」という訴えは、声帯麻痺を示唆する所見です。また、MRI画像で小脳萎縮が示唆される場合、多系統萎縮症が強く疑われ、声帯麻痺は特徴的な合併症です。正しくは:正しい選択肢です。
- 4. 下方注視麻痺は進行性核上性麻痺(PSP)に特徴的な眼球運動障害です。多系統萎縮症では眼球運動障害は比較的稀か、軽度であることが多いです。正しくは:下方注視麻痺は進行性核上性麻痺(PSP)の主要な臨床症状です。多系統萎縮症とは異なる疾患の特徴です。選びやすい理由:パーキンソン病類縁疾患間で症状が一部重複するため、他の疾患の典型症状が選択肢にあると迷いやすいですが、下方注視麻痺はPSPの『核』となる症状です。混同注意:進行性核上性麻痺(PSP)と多系統萎縮症(MSA)は、ともにパーキンソン症候群を呈する神経変性疾患ですが、詳細な症状は異なります。PSPは垂直性眼球運動障害(特に下方注視麻痺)が特徴です。
- 5. 「他人の手徴候」とは、拮抗失行と同じくalien hand syndromeとも呼ばれる現象で、通常、補足運動野や脳梁の損傷によって生じます。多系統萎縮症の典型的な症状ではありません。正しくは:他人の手徴候は多系統萎縮症の典型的な合併症ではありません。皮質機能障害に関連する症状です。選びやすい理由:奇妙な運動症状を想起させ、パーキンソン病類縁疾患の広範な症状と混同されやすいです。混同注意:拮抗失行と他人の手徴候は同じ概念であり、選択肢2と同じ理由で誤りです。パーキンソン病と多系統萎縮症、およびこれら以外の神経変性疾患の症状を明確に区別する必要があります。
国試ポイント
多系統萎縮症の臨床症状と、特に進行期にみられる特徴的な合併症(自律神経症状、呼吸器症状など)を正確に理解しているかを問う問題です。他のパーキンソン病類縁疾患(進行性核上性麻痺など)の症状との鑑別も重要になります。
混同注意
多系統萎縮症(MSA)と進行性核上性麻痺(PSP)の症状。特に眼球運動障害や呼吸障害に関する症状。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の論点が出題された場合、疾患の進行度に応じた合併症(特に生命予後に関わるもの)や、画像所見との関連性を問う問題に注意が必要です。例えば、呼吸障害の種類やメカニズム、嚥下障害の合併、治療法に関する知識が問われる可能性があります。
関連知識
多系統萎縮症の分類(MSA-C、MSA-P)、主要な臨床症状(小脳失調、パーキンソン症候群、自律神経障害)、病理(オリゴデンドログリア内封入体)。進行性核上性麻痺の主要症状(垂直性核上性眼球運動障害、軸性固縮、姿勢反射障害)。パーキンソン病との鑑別点。