50歳の男性。会社の健康診断で尿糖陽性を指摘され、受診した。入院時、身長175 cm、体重85 kg。脈拍75/分、血圧165/86 mmHg。両側足関節の振動覚は鈍麻。血液生化学所見では、空腹時血糖385 mg/dL(基準値65〜109 mg/dL)、HbA1c 8.6 %(基準値4.6〜6.2 %)、トリグリセリド362 mg/dL(基準値30〜150mg/dL)、LDLコレステロール128 mg/dL(基準値70〜139 mg/dL)であった。尿検査でケトン体陰性であった。入院後、食事療法と薬物療法が開始されている。運動療法開始時に必要な条件はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
糖尿病患者が運動療法を開始する際の重要な条件として、重度の高血糖状態でないことが挙げられます。特に空腹時血糖値が250mg/dL以上、あるいは尿中ケトン体が陽性の場合は、運動によってさらに血糖値が上昇したり、糖尿病性ケトアシドーシスを誘発したりする危険性があるため、運動は控えるべきとされています。設問の患者は入院時に空腹時血糖385mg/dLであり、この状態では運動療法は開始できません。食事療法や薬物療法で血糖値が安定し、250mg/dL未満にコントロールされた段階で運動療法を始めるのが適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 糖尿病による感覚障害は合併症であり、運動療法開始の絶対的な条件ではありません。運動療法によって改善するものではなく、むしろ運動時の注意点となります。正しくは:感覚障害は運動療法中の足の保護や転倒予防といった注意点であり、運動開始の必須条件ではありません。選びやすい理由:感覚障害があると運動しにくい、怪我のリスクがあるという発想から、改善が望ましいと考えるかもしれませんが、運動開始の絶対条件ではありません。混同注意:運動療法中の注意点と、運動療法開始の条件を混同しやすいです。
- 2. 脂質異常症は糖尿病の合併症や併発症であり、運動療法によって改善が期待される項目の一つです。運動療法開始の前に必ずしも正常化している必要はありません。正しくは:脂質異常症は運動療法によって改善が期待される合併症の一つであり、運動開始の必須条件ではありません。選びやすい理由:糖尿病患者は脂質異常症も併発しやすく、運動療法がこれら両方の改善に寄与するため、改善してから始めるべきだと誤解する可能性があります。混同注意:運動療法の効果と、運動療法の開始条件を混同しやすいです。
- 3. 尿中ケトン体が陽性である状態は、インスリン作用不足による脂肪分解が亢進し、糖尿病性ケトアシドーシスなどの危険な状態を示唆します。この状態での運動療法は禁忌です。正しくは:尿中ケトン体陽性は運動療法の禁忌であり、陰性であることが望ましい条件です。選びやすい理由:「陽性」という言葉に引きずられ、何らかの基準を満たすと誤解する可能性があります。混同注意:尿中ケトン体陽性がインスリン不足と関連すること、それが運動の禁忌であることの理解が不足していると誤解します。
- 4. HbA1cは過去1〜2ヶ月間の血糖コントロールの平均値を示す指標であり、その低下には時間がかかります。運動療法はHbA1cの改善を目的の一つとするため、開始時に基準値内である必要はありません。正しくは:HbA1cの基準値内への低下は運動療法の目標であり、運動開始の必須条件ではありません。選びやすい理由:HbA1cが血糖コントロールの重要な指標であるため、これが正常化しないと運動を開始できないと考えるかもしれません。混同注意:血糖コントロールの長期的な目標と、運動開始の急性期の条件を混同しやすいです。
- 5. 正解。糖尿病患者の運動療法開始の際、高血糖状態(特に空腹時血糖250mg/dL以上)で運動を行うと、さらに血糖値が上昇したり、ケトアシドーシスを誘発したりするリスクがあります。そのため、血糖値が一定レベル以下にコントロールされていることが安全な運動実施の条件となります。
国試ポイント
糖尿病患者の運動療法開始における禁忌・注意点に関する知識が問われています。特に血糖値の具体的な数値基準や、尿中ケトン体の意味を正確に理解しているかが重要です。
混同注意
血糖値の基準とHbA1cの基準を混同しやすいです。HbA1cは長期的な指標であり、運動開始の急性期の判断には血糖値の直接的な数値がより重要です。また、運動療法の「効果」と「開始条件」を混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、空腹時血糖値の具体的な数値基準だけでなく、食後血糖値や尿中ケトン体、インスリン注射をしている患者での運動前後の血糖管理(低血糖予防)に関する知識も問われる可能性があります。また、網膜症や腎症、神経障害などの合併症がある場合の運動療法の変更点も確認すべきです。
関連知識
糖尿病の運動療法の適応と禁忌、運動処方の原則、糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症)を有する患者への運動指導の注意点、低血糖と高血糖時の対応。