26歳の男性。20歳ころから乗り物のつり革を握ると放しにくいことを自覚し始め、四肢遠位筋優位の筋力低下を自覚するようになった。母親にも同様の症状がある。前頭部に脱毛があり、側頭筋や咬筋が萎縮し、顔の幅が狭く頰がこけた顔貌をしている。認められる可能性が高いのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この症例は、20歳頃からの発症、つり革を握ると放しにくい(筋弛緩の遅延)、四肢遠位筋優位の筋力低下、母親にも同様の症状(常染色体優性遺伝)、前頭部の脱毛、側頭筋や咬筋の萎縮による特徴的な顔貌という典型的な筋強直性ジストロフィーの臨床像を呈している。これらの症状の中で、筋弛緩の遅延は「ミオトニア」として知られる特徴的な徴候であるため、選択肢3が最も適切である。
選択肢ごとの解説
- 1. アテトーゼは、不随意でゆっくりとした、くねるような運動を特徴とする症状であり、本症例の「つり革を握ると放しにくい」といった筋強直や筋力低下、特徴的な顔貌とは関連性が低い。正しくは:アテトーゼは脳性麻痺やハンチントン病などで見られる不随意運動である。選びやすい理由:不随意運動の一種として、神経疾患の選択肢の一つとして検討されるかもしれない。混同注意:ジストニアやジスキネジアなどの他の不随意運動と混同しやすい。
- 2. Gowers徴候は、床から立ち上がる際に自分の膝や太ももに手をついてよじ登るように立ち上がる動作を指し、主に近位筋の筋力低下が原因で起こる。本症例は遠位筋の筋力低下を自覚しており、Gowers徴候を直接示す記述はない。正しくは:Gowers徴候はデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどで見られる、近位筋の筋力低下による立ち上がり困難の徴候である。選びやすい理由:筋力低下があるため、筋疾患に関連する徴候として誤って選ばれる可能性がある。混同注意:Trendelenburg徴候やDuchenne歩行など、他の筋力低下に関連する歩行や姿勢の徴候と混同しやすい。
- 3. 正解。ミオトニアは、筋の収縮後に弛緩が遅れる現象であり、本症例の「乗り物のつり革を握ると放しにくい」という記述に合致する。筋強直性ジストロフィーの中核症状であり、この疾患は四肢遠位筋優位の筋力低下、前頭部の脱毛、側頭筋や咬筋の萎縮による特徴的な顔貌、常染色体優性遺伝(母親にも同様の症状)といった本症例の他の記述にもすべて当てはまる。選びやすい理由:症状の記述が具体的であるため、最も適合性が高い。混同注意:筋硬直(rigidity)や痙縮(spasticity)など、他の筋の異常な緊張状態と混同する可能性もあるが、ミオトニアは弛緩の遅延が特徴である点で区別される。
- 4. Lhermitte徴候は、頸部を前屈した際に背中や四肢に電撃様の痛みが走る現象であり、脊髄の障害、特に脱髄疾患(多発性硬化症など)で多く見られる。本症例の症状とは直接関連しない。正しくは:Lhermitte徴候は脊髄の障害、特に後索路の障害で起こる電気ショックのような感覚である。選びやすい理由:神経症状の一種として、神経疾患の選択肢の一つとして検討されるかもしれない。混同注意:他の放散痛やしびれを伴う神経症状(例:Spurling徴候)と混同しやすい。
- 5. Romberg徴候は、開眼時と閉眼時での立位保持の安定性の差を見るもので、閉眼時に不安定性が増す場合に陽性とされる。これは主に脊髄後索(深部感覚)や前庭系の機能不全を示唆する。本症例の症状とは関連がない。正しくは:Romberg徴候は脊髄後索障害や前庭機能障害によって、閉眼時に著しく体幹動揺が増す徴候である。選びやすい理由:バランスに関連する神経徴候として、漠然と選ばれる可能性がある。混同注意:Unterberger-Fukuda徴候など、他のバランス評価や小脳失調を示す徴候と混同しやすい。
国試ポイント
筋強直性ジストロフィーの主要症状であるミオトニア、およびその他の特徴的な臨床所見(遺伝形式、発症年齢、筋力低下パターン、顔貌、脱毛など)を正確に理解しているかを問う問題。各徴候・症候の具体的な意味と、それらが関連する疾患を結びつけられるかが重要である。
混同注意
筋強直性ジストロフィーのミオトニアと、その他の神経筋疾患における筋の異常(例:パーキンソン病の固縮、痙縮、テタニーなど)との鑑別。特に「手が放しにくい」という表現が、単なる筋力低下や関節の拘縮と誤解されないように注意が必要。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の問題が出た場合、まず「筋弛緩の遅延」があるか(握ると放しにくい、叩くとへこむなど)を第一に確認する。次に、遺伝歴、筋力低下の分布(近位 vs 遠位)、特徴的な顔貌や脱毛の有無などの全身症状に注目し、これらの組み合わせから疾患を特定する。特に筋強直性ジストロフィーの診断基準となる症状群を覚えているかが鍵となる。
関連知識
筋強直性ジストロフィー(DM1, DM2)の遺伝形式(常染色体優性遺伝)、原因遺伝子(DMPK遺伝子のCTGリピート伸長など)、病態生理(RNA毒性)、多臓器症状(白内障、心伝導障害、インスリン抵抗性など)、治療法(対症療法)に関する知識。また、他の遺伝性筋疾患(デュシェンヌ型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーなど)の鑑別点。