70歳の男性。脳梗塞による左片麻痺。線分抹消検査では紙面の左下方の線分抹消が行えず、車椅子駆動時には左側を壁にぶつけることがあった。理学療法として適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第52回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
右偏位プリズム眼鏡を使用すると、視覚情報全体が右側にシフトして知覚されます。この状態でリーチ動作などを行うと、患者は無意識に(または意識的に)左側へ探索するようになるため、左側空間への注意が促され、空間無視の改善に繋がります。これは空間無視に対するエビデンスのある治療法の一つです。
選択肢ごとの解説
- 1. 空間無視の介入として聴覚刺激を用いることはありますが、一般的には無視している側(この場合は左側)への注意を促すために、無視側から刺激を与える方が効果的です。健側からの刺激は、無視側への注意をさらに低下させる可能性があります。正しくは:左方向から聴覚刺激を与える。選びやすい理由:片麻痺患者に対する刺激療法という点で関連があるように思えますが、無視の改善には無視側への直接的な介入が基本です。混同注意:健側からの刺激が無視側の覚醒を促す場合があるという一般的な感覚と混同しやすいですが、空間無視の治療においては無視側からの刺激が推奨されます。
- 2. 後頸部筋への振動刺激は空間無視に対して有効なアプローチの一つですが、一般的には無視側(この場合は左側)の後頸部筋に与えることで、頭部の向きや空間認知の偏りを修正する効果が期待されます。健側への刺激は無視の改善には寄与しにくいと考えられます。正しくは:左後頸部筋へ振動刺激を行う。選びやすい理由:頸部筋への振動刺激は空間無視の治療法として知られているため、正しい選択肢に見えます。混同注意:振動刺激の部位(左右)の重要性を誤解し、健側への刺激でも効果があると誤認しやすいです。
- 3. 空間無視の患者に対して、無視側への注意を促すために体幹を回旋させることは有効ですが、その場合は無視側(この場合は左側)へ回旋させることで、無視空間に焦点を当てるよう促します。健側への回旋は、無視側への注意をさらに遠ざけてしまう可能性があります。正しくは:頭部は正面を向いたまま体幹を左に回旋させる。選びやすい理由:体幹回旋が空間無視の治療に用いられることがあるため、選択肢として妥当に見えます。混同注意:無視側への回旋が効果的であるという原則と、健側への回旋を混同しやすいです。
- 4. このアプローチは、患者が無視している左側の空間にある対象物を、無視の影響を受けにくい右側へ移動させることで、患者がその対象を認識しやすくすることを意図していると考えられます。しかし、これは患者が無視空間に注意を向けることを促すのではなく、むしろ無視空間を回避する戦略に近いアプローチです。根本的な空間無視の改善には、無視空間への能動的な探索を促す必要があります。正しくは:手がかりを与えながら右側にある視覚標的を左へ移動させ、左空間への探索を促す。選びやすい理由:患者が認識しやすいように対象物を動かすという配慮は、リハビリテーションの一環として適切に見えることがあります。混同注意:空間無視の『回避戦略』と『根本的な治療戦略』を混同しやすいです。これは一見患者に優しいアプローチに見えますが、無視の改善にはつながりにくいです。
- 5. 正解。視野が右に偏位するプリズム眼鏡(右偏位プリズム)を装着すると、視覚情報が右にずれて認識されます。この状態で正確に物を掴むなどの動作を行うと、患者は実際よりも左側に手を伸ばす必要が生じます。この強制的な左方向への探索が、無視している左側の空間への注意を促し、空間無視の症状を一時的かつ長期的に改善させる効果が報告されています。選びやすい理由:特殊な介入方法であり、知識がないと選びにくいですが、有効な治療法の一つです。
国試ポイント
空間無視の症状を呈する患者に対する理学療法介入の具体例と、その作用機序を理解しているかが問われています。特に、一般的な誤解を誘う選択肢(健側への刺激など)と、エビデンスに基づいた治療法(プリズム適応)を識別する能力が求められます。
混同注意
空間無視に対する介入は多岐にわたりますが、本問題の選択肢は無視している側への『注意を促す』介入と、無視を『回避させる』介入、そして『誤った方向』への介入が混在しています。特に、刺激を与える方向や体幹回旋の方向を正しく理解しているかが重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出題された場合、空間無視に対する介入の原則として「無視側への注意を促すこと」が最重要であることを確認する。その上で、具体的な介入方法(プリズム適応、視覚探索訓練、振動刺激など)が、この原則に合致しているかどうかを判断する。
関連知識
空間無視には、右大脳半球損傷による左半側空間無視が最も多く見られます。治療アプローチとしては、プリズム適応の他に、視覚探索訓練、頸部筋振動刺激(無視側)、肢体ポジショニング(無視側へのアプローチ)、視覚アンカー、リミテッドワーキングスペース、V-ORP(視覚的オリエンテーション課題)などがあります。それぞれの方法の目的と効果を理解することが重要です。