75歳の男性。身長170 cm、体重48 kg、BMI 16.6。約10年前から呼吸困難が出現し自宅近くの医院で加療していた。徐々に呼吸困難感が増悪してきており、50 m程度の連続歩行で呼吸困難感のため休息が必要である。動脈血ガス分析PaO₂ 65 Torr、PaCO₂ 48 Torr、肺機能検査%VC 81 %、FEV₁% 31 %であった。患者の胸部エックス線写真(別冊No. 2)を別に示す。 この患者の運動療法を中止すべき状態として最も適切なのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
SpO2 82%は重度の低酸素状態を示しており、生命の危機に直結する可能性があるため、運動療法を直ちに中止すべき最も適切な状況です。他の選択肢は、運動強度や患者の状態によっては許容範囲内であるか、または直ちに中止を要するほどの緊急性がないと判断されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。SpO2が82%という値は、呼吸不全や低酸素血症の可能性が高く、運動を継続すると患者の状態が悪化するリスクがあるため、運動療法を中止すべき緊急性の高い指標です。一般的に、SpO2が90%を下回る場合は注意が必要とされ、85%以下は特に危険と判断されます。選びやすい理由:他の選択肢も運動中止の指標になる場合があるため迷いやすいが、82%というSpO2の値は生命に関わるレベルの異常である。混同注意:他の一般的な運動中止基準(心拍数、血圧、呼吸数など)と混乱しやすいが、SpO2の異常は特に重篤な状態を示す。
- 2. 安静時の呼吸数は通常12〜20回/分ですが、運動中の呼吸数22回/分は、軽度な運動強度であれば生理的な範囲内とみなされることが多く、直ちに運動を中止する絶対的な基準とはなりません。ただし、安静時からの大幅な増加や努力呼吸を伴う場合は注意が必要です。正しくは:運動中止基準となる呼吸数は、一般的に30回/分以上、または努力呼吸を伴う場合、あるいは著しい苦痛を伴う場合に考慮されます。選びやすい理由:安静時よりも高い値であるため、異常と感じやすい。混同注意:安静時呼吸数と運動時呼吸数の基準を混同しやすい。また、努力呼吸の有無といった質的な情報がないため判断が難しい。
- 3. 運動中の心拍数105回/分は、運動強度によっては目標心拍数範囲内である可能性があり、直ちに運動を中止する基準とはなりません。運動中止の基準となる心拍数は、安静時からの大幅な上昇(例:20拍/分以上の持続的な増加)、不整脈の出現、または患者の自覚症状(胸痛、めまいなど)と合わせて判断されます。正しくは:運動中止基準となる心拍数は、運動中に安静時よりも著しく上昇しすぎた場合(例:目標心拍数上限を超過)、または不整脈が出現した場合、あるいは胸痛やめまいなどの症状を伴う場合に検討されます。選びやすい理由:安静時の心拍数(60-100回/分)よりは高いため、異常と捉えがちである。混同注意:目標心拍数や最大心拍数といった運動負荷の指標と、運動中止基準としての心拍数を混同しやすい。
- 4. 修正Borg指数5は「強い」に相当し、それだけで運動療法を一時中断する基準には当たりません。正しくは:修正Borgスケールで運動中止を検討するのは、通常「きわめてきつい(9〜10)」と感じる場合、または患者が苦痛を訴える場合、あるいは目標として設定されたBorg指数を大幅に超え、危険と判断される場合です。選びやすい理由:「非常にきつい」という表現から、すぐに中止すべきだと判断しやすい。混同注意:Borgスケールを運動強度の指標として用いる場合と、運動中止の絶対的基準として用いる場合を混同しやすい。
- 5. 運動によって収縮期血圧は上昇するのが一般的であり、安静時より20mmHgの上昇は生理的範囲内であることも多いです。運動中止の基準となる血圧異常は、収縮期血圧が急激に30mmHg以上上昇した場合や、著しく高値(例:200mmHg以上)になった場合、または下降した場合などに考慮されます。正しくは:運動中止基準となる血圧は、収縮期血圧が200〜220mmHg以上になった場合、または安静時よりも30mmHg以上急激に上昇した場合、あるいは下降した場合に検討されます。選びやすい理由:血圧の上昇は不安要素となるため、異常と捉えやすい。混同注意:運動に伴う生理的な血圧上昇と、異常な血圧変動を混同しやすい。また、高血圧患者の場合の運動中止基準と一般の基準を混同しやすい。
国試ポイント
本問題は、理学療法士が運動療法を実施する上で必須となる、患者の安全管理に関する知識を問うものです。特に、運動中止基準となる客観的指標の緊急性・重症度を正確に判断できるかどうかが重要視されます。複数の基準の中から、最も優先順位の高い危険信号を選び出す能力が求められます。
混同注意
各バイタルサインの『正常範囲』と『運動中止基準』が混同しやすい。特に、運動によって変動する生理的範囲と、危険域の具体的な数値の区別が重要です。また、絶対的な中止基準と、注意しながら継続可能、または中止を検討すべき基準の区別も曖昧になりがちです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、SpO2、心拍数、血圧、呼吸数などのバイタルサインの異常値について、その緊急度と運動中止への影響度を正確に判断できるかどうかが問われるでしょう。また、自覚症状(胸痛、めまい、意識障害など)と客観的指標を組み合わせて判断する問題も考えられます。
関連知識
運動中止基準(日本心臓リハビリテーション学会ガイドラインなど)、循環器系・呼吸器系の運動生理学、運動処方におけるモニタリング、低酸素血症の臨床症状、ショックのサイン。