64歳の女性。右利き。脳梗塞。約1か月前に左大脳に発症。現在は聴覚理解に問題はないが、発語は非流暢かつ緩徐である。話す言葉の量は少なく、発語の際には多大な努力を要している。四肢の麻痺はみられない。この患者への対応として正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者は左大脳の脳梗塞後で、聴覚理解は良好ながら発語が遅く、途切れがちで、発語に労力を要するという症状から、ブローカ失語(運動性失語)が強く疑われる。ブローカ失語の患者は理解力があるため、はい/いいえで答えられる質問は、患者の負担を減らしつつ意思疎通を可能にする効果的な方法である。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の発言をすぐに詳細に訂正することは、患者の自尊心を傷つけ、コミュニケーション意欲を低下させる可能性がある。ブローカ失語の患者は自身が話せないことを自覚していることが多いため、過度な訂正は避けるべきである。正しくは:患者の発言の意図を汲み取り、共感を示すことを優先し、必要最小限の訂正に留めるか、患者自身が言い換えられるように促す。選びやすい理由:正確な情報伝達の観点から、誤りを正すことが重要だと考えるかもしれない。混同注意:一般的な言語学習や、軽度の構音障害に対する対応。
- 2. 正解。この患者は聴覚理解に問題がなく(ウェルニッケ失語ではない)、発語に労力を要する(ブローカ失語の特徴)ため、「はい」か「いいえ」で答えられる質問は、患者の最小限の発語で意思表示を可能にし、コミュニケーションの負担を軽減する最も適切な方法である。選びやすい理由:ブローカ失語のコミュニケーション支援の基本原則であるため。
- 3. 身振り手振りは視覚的な情報であり、聴覚理解に問題のないブローカ失語の患者には、口頭での説明を補完する効果は限定的である。聴覚理解が障害されているウェルニッケ失語の患者に対しては有効な場合もあるが、本症例では聴覚理解は良好とされている。正しくは:患者の聴覚理解が良好であることを考慮し、口頭での説明は簡潔かつ明確に行う。身振り手振りは、あくまで言葉の補助として用いる程度とする。選びやすい理由:非言語的コミュニケーションは一般的に有効な手段であるという考えから、選びやすい。混同注意:聴覚理解が困難な患者(例:ウェルニッケ失語や難聴)への対応。
- 4. コミュニケーションエイドの導入は有効な手段の一つではあるが、「早急に」導入すべきかどうかは慎重な判断が必要である。急性期の段階では、まずは患者の残存機能(ここでは聴覚理解)を最大限に活用したコミュニケーション方法を確立することが優先される。また、患者がエイドを受け入れるかどうかの検討も必要である。正しくは:コミュニケーションエイドの導入は、患者の状態やニーズを評価した上で、適切な時期に検討すべきである。選びやすい理由:コミュニケーションを支援するための先進的な方法として、導入することが有効だと考えるかもしれない。混同注意:失語症全般に対する包括的なリハビリテーションアプローチ。
- 5. ブローカ失語の患者は、発話だけでなく書字にも障害を伴うことが多い(失書)。たとえ麻痺がなくても、左大脳の損傷が書字能力に影響を与えている可能性が高く、メモを使った筆談が容易とは限らない。また、書字は発語と同様に労力を要するため、負担が大きい可能性がある。正しくは:患者が筆談能力を有するかどうかを評価した上で、可能であれば試みる。しかし、多くのブローカ失語患者は書字にも困難を抱えるため、第一選択ではない。選びやすい理由:発語が困難な場合に、別のコミュニケーション手段として筆談が有効だと一般的に考えられるため。混同注意:発語能力はあるが、聴覚理解が困難な場合(例:難聴患者)や、発話はできるが書字は問題ない場合。
国試ポイント
脳損傷部位と失語症の種類(感覚性失語と運動性失語)の特徴、およびそれに応じたコミュニケーション支援の基本原則を理解すること。
混同注意
感覚性失語(ウェルニッケ失語)との区別。ウェルニッケ失語では聴覚理解も障害されるため、今回のような対応は適切ではない。
次に同じ論点が出たら
失語症の症例問題では、まず聴覚理解と発話の流暢性、そして復唱の可否に注目し、どのタイプの失語症であるかを判断する。その上で、それぞれの失語症の特性に合わせたコミュニケーション支援を選択する。
関連知識
ブローカ失語では流暢性が障害され、復唱も困難だが、理解力は比較的保たれることが多い。ウェルニッケ失語では流暢性は保たれるが、理解力や復唱が著しく障害される。伝導失語では復唱のみが著しく障害される。