75歳の男性。身長165 cm、体重60 kg。大動脈弁狭窄症。心房細動と一過性脳虚血発作の既往があり、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を行っている。NYHA分類ではclassⅠで、運動負荷試験で得られた嫌気性代謝閾値(AT)は17.5mL/分/kgである。この患者への生活指導で誤っているのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
ATは17.5 mL/分/kgで、METsに換算すると17.5÷3.5=5 METsです。NYHA classⅠでAT相当の運動が可能な患者に、自宅での生活活動を3 METsまでに制限するのは過度な制限で、誤った指導です(公式正答3)。抗凝固療法の継続、体重・血圧の自己管理、下肢のレジスタンストレーニング、AT強度での運動はいずれも適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 心房細動と一過性脳虚血発作の既往があるため、血栓形成予防のために抗凝固療法の継続は必須です。TAVR後も抗凝固療法が必要な場合があります。正しくは:抗凝固療法の服薬は生命維持のために継続すべきです。選びやすい理由:薬の継続は一般的に正しい生活指導なので、誤りとは考えにくい。混同注意:患者の病歴を考慮せずに、薬の継続が不適切だと誤解する可能性。
- 2. 心疾患患者、特に高齢者や術後患者にとって、体重(体液貯留の指標)や血圧の自己管理は、病状悪化の早期発見や合併症予防に極めて重要です。正しくは:体重や血圧の自己管理は心疾患患者の基本的な指導項目です。選びやすい理由:自己管理の徹底は一般的によい指導なので、誤りとは考えにくい。混同注意:自己管理の重要性を見落とし、不必要な指導と誤解する可能性。
- 3. 正解。ATは17.5 mL/分/kg(約5 METs)であり、自宅での生活活動を3 METsに制限する必要はありません。過度な活動制限は廃用を招くため、誤った指導です。正しくは:自宅での生活活動は、心肺運動負荷試験で得られた運動処方(例えばAT強度以下)に基づいて行い、最大METsを上限とはしない。選びやすい理由:NYHA class Iであり、AT強度も示されているため、患者の運動能力が高いと判断し、最大METsまで活動しても問題ないと誤解しやすい。また、リハビリテーションの目標がADLの拡大であるため、可能な限り活動すべきと考える受験生もいるかもしれない。混同注意:運動耐容能の評価指標であるMETsと、運動処方の適切な強度を混同しやすい。最大METsと運動処方の目標強度(AT強度など)の違いを理解していないと誤答しやすい。
- 4. 心疾患患者において、安全な範囲でのレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は、筋力維持・向上、QOL改善に有効であり、ガイドラインでも推奨されています。適切な負荷設定であれば、心臓リハビリテーションの一環として行われます。正しくは:下肢筋力向上のレジスタンストレーニングは、適切な指導のもとで行うべきです。選びやすい理由:心疾患患者へのレジスタンストレーニングは注意が必要なため、不適切だと誤解する可能性もあるが、適切に行えば効果的である。混同注意:心疾患患者へのレジスタンストレーニングの安全性や有効性について誤解する可能性。安静時を重視しすぎてしまうこと。
- 5. 嫌気性代謝閾値(AT)は、運動処方を行う際の適切な運動強度として広く用いられます。AT強度での運動は、有酸素能力を向上させつつ心臓への負担を抑えることができ、心疾患患者のリハビリテーションで推奨される安全かつ効果的な強度設定です。正しくは:AT強度は心疾患患者への運動処方の適切な目標強度です。選びやすい理由:AT強度が上限であると誤解して、これを不適切だと考える可能性がある。混同注意:AT強度と最大運動強度(METs)の違いや、AT強度を上限とする運動処方の意義を混同する可能性。
国試ポイント
本問題は、心疾患患者に対する運動処方と生活指導の知識、特に嫌気性代謝閾値(AT)やMETsなどの運動負荷試験指標の解釈、およびそれらを日常生活活動にどう適用するかを問うています。心臓リハビリテーションの基本的な原則と、安全な運動強度の設定方法の理解が重要です。特に「上限」という言葉の解釈がポイントとなります。
混同注意
METs(代謝当量)の概念、最大METsとAT強度の違い、そしてそれらが運動処方や日常生活活動の制限においてどのように用いられるかが混同しやすいポイントです。最大METsを「達成できる能力」と捉えるか、「日常的に許容される上限」と捉えるかで判断が分かれる可能性があります。また、NYHA class Iであるため、運動制限が比較的少ないと誤解し、最大METsまでの活動も許容されると考える学生もいるかもしれません。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の論点が出題された場合、心疾患患者の病態(NYHA分類、EF値など)と運動負荷試験の結果(AT, VO2peakなど)を総合的に判断し、安全かつ効果的な運動処方や生活指導を選択できるかどうかが問われるでしょう。特に「運動強度の設定」や「日常生活活動の制限」に関する問題で、上限値の設定や禁忌事項に関する知識が重視されます。
関連知識
心臓リハビリテーションの運動療法ガイドライン、NYHA分類、心肺運動負荷試験(CPX)の解釈(AT, VO2peak, RERなど)、TAVR術後のリハビリテーション、抗凝固療法の重要性、自己管理の指導。