70歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢Ⅲ、下肢Ⅳ。座位にて、肘関節伸展位で肩関節90°屈曲運動を指示したところ、屈曲共同運動パターンがみられた。この患者で促通すべき筋はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
上肢の屈曲共同運動パターンは、肩関節の屈曲、外転、外旋と、肘関節の屈曲、前腕の回外、手関節の屈曲によって特徴づけられます。設問の患者は、肘関節伸展位での肩関節屈曲運動を指示されたにもかかわらず、屈曲共同運動が出現したとあります。これは、本来であれば肘関節伸展を保つべき場面で、肘関節屈曲が優位になっている状態を示します。したがって、この屈曲共同運動パターンから脱却し、より分離した運動を促すためには、共同運動の拮抗筋である上腕三頭筋(肘関節伸展筋)を促通し、肘伸展のコントロール能力を高めることが最も適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 棘下筋は肩関節の外旋に作用し、肩関節の屈曲共同運動の抑制とは直接関連が薄いです。むしろ、屈曲共同運動が出現している状況では、この筋の促通が直接的な解決策にはなりません。正しくは:肩関節の屈曲共同運動を抑制するには、共同運動パターンに含まれない筋群や、共同運動を拮抗する筋群を促通する必要があります。選びやすい理由:肩関節周辺の筋肉であるため、選択肢として考えやすいかもしれませんが、共同運動の抑制という目的には合いません。混同注意:肩関節の安定化や外転・外旋と混同しやすいですが、共同運動の抑制を目的とする場合は、拮抗筋の機能を考慮する必要があります。
- 2. 広背筋は肩関節の伸展、内転、内旋に作用します。肩関節の屈曲共同運動を抑制する目的では、広背筋の促通は逆効果になる可能性があります。屈曲共同運動では肩の屈曲や外転が強く出ており、広背筋の作用はこれと一部重複するか、直接的な抑制にはなりません。正しくは:屈曲共同運動を抑制するには、屈曲共同運動の構成要素ではない筋、または屈曲共同運動を拮抗する筋の活動を高める必要があります。選びやすい理由:体幹に近い大きな筋肉であり、姿勢制御や複合的な動きに関わるため、一見促通の対象になりそうですが、この問題の目的(共同運動の抑制)とは異なります。混同注意:体幹の安定化や下肢の共同運動との関連で考えやすいですが、上肢の屈曲共同運動の抑制という視点では適切ではありません。
- 3. 大菱形筋は肩甲骨の挙上、内転、下方回旋に作用します。上肢の屈曲共同運動パターン(肩甲骨の挙上・内転、肩の屈曲・外転・外旋、肘の屈曲、前腕の回外、手関節の屈曲)は、大菱形筋の作用とは直接的な関連が薄く、共同運動の抑制には寄与しません。正しくは:共同運動の抑制には、共同運動パターンから逸脱した動きを可能にする筋、または共同運動を拮抗する筋をターゲットにするべきです。選びやすい理由:肩甲骨の動きに関わる重要な筋であり、片麻痺患者の機能改善にしばしば促通されるため、選択肢として魅力的に見えるかもしれません。混同注意:肩甲骨の安定性や他の筋との協調性に関わる点で混同しやすいですが、上肢の屈曲共同運動の具体的な抑制とは直接結びつきません。
- 4. 上腕二頭筋は肘関節の屈曲と前腕の回外に作用し、これは上肢の屈曲共同運動パターンに含まれる要素です。この筋を促通すると、共同運動パターンがさらに強化される可能性があります。したがって、共同運動を抑制し、分離運動を促すという目的には合いません。正しくは:共同運動からの脱却を目指す場合、共同運動の主要構成筋は抑制または活動をコントロールする対象となります。選びやすい理由:上肢の主要な筋肉であり、しばしば機能回復の対象となりますが、共同運動からの分離という文脈では不適切です。混同注意:上肢の機能回復一般と共同運動からの分離を混同しやすいです。共同運動の抑制が目標の場合は、共同運動の構成筋を強化することは避けるべきです。
- 5. 正解。上肢の屈曲共同運動パターンは、肩関節の屈曲・外転・外旋、肘関節の屈曲、前腕の回外、手関節の屈曲が含まれます。この患者は、肘関節伸展位で肩関節90°屈曲を指示されたにもかかわらず、屈曲共同運動が出現しています。これは、肘関節屈曲(上腕二頭筋の活動)が優位になっていることを示唆します。そのため、この共同運動パターンから逸脱し、肘関節伸展(上腕三頭筋の活動)を促すことが重要です。上腕三頭筋は肘関節の伸展に作用するため、この筋を促通することで屈曲共同運動の抑制と、より分離した運動の獲得につながります。
国試ポイント
脳卒中片麻痺患者におけるBrunnstrom法の共同運動パターンを理解し、特定の共同運動パターンが出現した際に、それを抑制し、より分離した運動を促すためにどの筋肉をターゲットにすべきか、という臨床応用能力が問われています。共同運動の構成要素と、その拮抗筋を正確に把握しているかがポイントです。
混同注意
上肢の共同運動パターンに含まれる筋(例:上腕二頭筋)を促通してしまう誤りや、直接共同運動と関連しない肩関節周囲筋(例:棘下筋、広背筋)を選んでしまう誤り。共同運動を抑制するという目的と、単に筋力を強化するという目的を混同しないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、まず共同運動パターンがどのような要素で構成されているかを正確に把握すること。次に、問題文で示されている動作の指示と、実際に出現した共同運動パターンを比較し、どの要素が分離できていないかを特定すること。最後に、その分離できていない要素の拮抗筋(あるいは共同運動に含まれない機能筋)を選び出す、というステップで判断します。
関連知識
Brunnstrom法のステージ分類と各ステージで出現する運動パターン、共同運動の構成要素(屈曲共同運動、伸展共同運動)、各関節の主要な筋とその作用、およびそれらの共同運動からの分離に必要な筋活動の知識が関連します。また、脳卒中後の運動学習とリハビリテーションの原則も重要です。