20歳の男性。自転車エルゴメーターを用いて、1分間に20ワット増加させるランプ負荷法にて心肺運動負荷試験を行った。その際の分時換気量、二酸化炭素排泄量および酸素摂取量の変化を図に示す。①から③までの期間および④と⑤の時点に生じている生体の変化として正しいのはどれか。2つ選べ。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・4番
解説
選択肢2が正しい理由は、②の時点(嫌気性閾値AT)を超えると、有酸素エネルギー供給だけでは不十分となり、無酸素性解糖系によるATP産生が活発になります。この過程でピルビン酸が乳酸に変換され、血中乳酸濃度が増加するためです。選択肢4が正しい理由は、④の時点は呼吸性代償性アシドーシスが始まる点であり、運動強度が増大し、有酸素性エネルギー供給が限界に達しているため、無酸素性解糖系の割合がさらに増大し、無酸素性のATP産生が顕著に加わっています。
選択肢ごとの解説
- 1. ①の期間は安静時または非常に軽度の運動期であり、有酸素運動が主体であるため、動脈血酸素分圧はほぼ一定に保たれるか、わずかに上昇することはあっても、特段の上昇は期待されない。身体は酸素需要に合わせて心拍数や呼吸数を調整するため、動脈血酸素分圧は正常範囲内に維持される。正しくは:動脈血酸素分圧はほぼ一定に保たれる。選びやすい理由:運動により呼吸が深くなるため、酸素供給が増えると考えがちだが、動脈血酸素分圧はホメオスタシスにより厳密に調節されている。混同注意:酸素摂取量の増加と動脈血酸素分圧の変動。
- 2. 正解。②の時点は嫌気性閾値(AT)を示しており、この閾値を超えると、有酸素性エネルギー供給だけではATP需要を満たしきれなくなり、無酸素性解糖系による乳酸産生が活発になるため、血中乳酸濃度が増加する。選びやすい理由:ATは乳酸産生が『開始される』点と誤解し、増加はしないと考えることがある。混同注意:乳酸が急激に増加し始める呼吸性代償点(RCP)との混同。
- 3. ③の期間は呼吸性代償性アシドーシスが始まる④の直前および④から⑤にかけての期間であり、運動強度の増加に伴い乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスが生じる。これを代償するために換気量が増大し、CO2排出が増えることで動脈血pHは『低下』するのを防ごうとするが、この時点ではアシドーシスが優位に進むため、pHは『低下』する傾向にあるか、少なくとも急激に『上昇』することはない。正しくは:③では動脈血pHは低下する傾向にある。選びやすい理由:換気が亢進するためCO2排出が増え、呼吸性アルカローシスになるのではないかと考える。混同注意:過換気による呼吸性アルカローシスと、運動による代謝性アシドーシスの区別。
- 4. 正解。④の時点は呼吸性代償点(RCP)を示しており、この点では有酸素性エネルギー供給能力の限界に近づき、無酸素性解糖系の寄与がさらに増大する。その結果、乳酸が急速に蓄積し、無酸素性のATP産生が顕著に加わる。選びやすい理由:ATとの混同により、まだ無酸素性ATP産生は加わらないと考えることがある。混同注意:嫌気性閾値(AT)と呼吸性代償点(RCP)の区別。
- 5. ⑤の時点は最大運動に近づいているが、健康な20歳男性の場合、運動中の動脈血酸素飽和度は通常95%以上を維持しており、低下することは稀である。心肺機能が正常であれば、酸素供給は需要に見合うように維持される。正しくは:⑤では動脈血酸素飽和度は高いレベルで維持される。選びやすい理由:激しい運動で身体が疲労するため、酸素供給が不足し、飽和度が低下すると誤解しやすい。混同注意:酸素摂取量の増加と動脈血酸素飽和度の維持機構の混同。
国試ポイント
心肺運動負荷試験における分時換気量、二酸化炭素排泄量、酸素摂取量の変化と、それに伴う生体内の代謝変化(特に嫌気性閾値ATと呼吸性代償点RCPの生理学的意義)を理解しているか。
混同注意
嫌気性閾値(AT)と呼吸性代償点(RCP)の区別、およびそれぞれのポイントで生じる生理学的変化を混同しやすい。ATでは乳酸産生が増加し始めるが、まだ換気亢進で対応できる範囲。RCPでは乳酸蓄積が著しくなり、換気亢進だけではアシドーシスを代償しきれなくなる。
次に同じ論点が出たら
今後同様の心肺運動負荷試験の問題が出た場合は、グラフの各曲線(VO2, VCO2, VE)の変曲点や交点に注目し、それが嫌気性閾値(AT)や呼吸性代償点(RCP)のいずれに相当するかを判断し、それぞれの点で生じる代謝・呼吸・循環の変化を問う設問に対応できるようにする。
関連知識
心肺運動負荷試験の主要な指標として、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排泄量(VCO2)、分時換気量(VE)、呼吸商(RER)、血中乳酸濃度などがある。運動強度に応じて、安静時→有酸素運動優位→無酸素運動優位へとエネルギー代謝が変化する。ATは運動中の乳酸蓄積が始まり、呼吸商が1.0に近づく点。RCPは乳酸が急速に蓄積し、換気が急激に増加する点。