55歳の女性。8年前に多発性硬化症と診断され、再発や寛解を繰り返し、2回の入院歴がある。現在は症状が落ち着いており、訪問理学療法で屋外歩行練習が実施されている。その際、理学療法士は運動強度を軽度から中等度とし、かつ、外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している。この理由として関係するのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
Uhthoff徴候は、多発性硬化症の患者において、体温の上昇が一時的な神経症状の悪化を引き起こす現象です。これは、脱髄病変により神経伝導速度が低下している部位が、体温上昇によってさらに伝導効率が悪化するために起こると考えられています。したがって、理学療法士が屋外歩行練習の際に外気温の高い時間帯を避け、運動強度を調整しているのは、このUhthoff徴候による症状悪化を防ぐための重要な配慮です。
選択肢ごとの解説
- 1. Barré徴候は、錐体路障害、特に下肢の筋力低下を評価する際に用いられる神経学的所見であり、患者に臥位で膝を曲げ、下肢を持ち上げた姿勢を保持させると、麻痺側の下肢が徐々に下がっていく現象です。多発性硬化症の症状自体とは直接的な関連がありますが、高温環境での悪化を示すものではありません。正しくは:高温環境で症状が悪化する現象ではありません。選びやすい理由:多発性硬化症は神経疾患であり、錐体路障害をきたすことがあるため、神経学的所見として関連があるように感じられるかもしれません。混同注意:Uhtoff徴候などの多発性硬化症特有の症状悪化現象と混同しやすいかもしれません。
- 2. Horner徴候は、交感神経系の障害によって生じる眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹(または無汗症)の3つの症状を特徴とする症候群です。多発性硬化症でも脳幹病変などにより生じることがありますが、体温上昇によって悪化する現象ではありません。正しくは:高温環境で症状が悪化する現象ではありません。選びやすい理由:多発性硬化症は脳幹病変を引き起こすことがあり、脳神経系の症状として関連があるように思えるかもしれません。混同注意:他の神経学的徴候や多発性硬化症の一般的な症状悪化現象と混同する可能性があります。
- 3. Lhermitte徴候は、頸部を前屈した際に、脊髄の感覚神経が刺激されて背中や四肢に電撃様の痛みが走る現象です。多発性硬化症の患者によく見られる症状の一つですが、高温環境で特異的に悪化する現象ではありません。正しくは:高温環境で症状が悪化する現象ではありません。選びやすい理由:多発性硬化症に特有の症状であるため、正しい選択肢のように感じられるかもしれません。混同注意:Uhtoff徴候とLhermitte徴候は共に多発性硬化症の代表的な症状であり、どちらも体位変換などで誘発されることがあるため混同しやすいです。しかし、熱による悪化はUhtoff徴候に特有です。
- 4. Tinel徴候は、神経が圧迫されている部位を軽く叩くと、その神経の支配領域に放散するようなしびれや痛みが誘発される現象です。末梢神経障害の診断に用いられるものであり、多発性硬化症の中枢神経系病変や、高温環境での症状悪化とは直接関係ありません。正しくは:多発性硬化症の中枢神経系の症状や、高温環境での悪化を示すものではありません。選びやすい理由:神経系の徴候であるため、多発性硬化症と関連があるように見せかけるかもしれません。混同注意:多発性硬化症自体が末梢神経障害ではなく中枢神経系の脱髄疾患であるため、末梢神経に関連する徴候とは区別する必要があります。
- 5. 正解。Uhthoff徴候(ウートフ徴候)とは、体温の上昇(入浴、運動、発熱、高温環境など)によって、多発性硬化症の既存の神経症状(視力障害、運動麻痺、感覚障害など)が一時的に悪化する現象です。理学療法士が高温環境を避け、運動強度を調整しているのは、このUhthoff徴候による症状悪化を予防するためです。混同注意:他の多発性硬化症に特有の徴候(Lhermitte徴候など)と混同しやすいですが、Uhthoff徴候は特に『体温上昇による症状の一時的悪化』という点が特徴です。
国試ポイント
多発性硬化症の病態生理と、それに伴う特有の症状(徴候)に関する知識が問われています。特に、体温上昇によって症状が悪化するというUhthoff徴候の概念を理解しているかが重要です。臨床現場での理学療法士の配慮の根拠を問う形で出題されています。
混同注意
Lhermitte徴候(頸部前屈で電撃痛)、Barré徴候(錐体路障害による下肢の筋力低下)、Horner徴候(交感神経障害による眼症状)、Tinel徴候(末梢神経圧迫による放散痛)など、他の神経学的徴候や多発性硬化症の関連症状と混同しやすいですが、それぞれ誘発要因や機序が異なります。
次に同じ論点が出たら
多発性硬化症に関する問題が出題された場合、Uhthoff徴候だけでなく、Lhermitte徴候、視神経炎、脳幹症状、脊髄症状など、他の代表的な症状や病態生理、および理学療法における注意点(例:疲労管理、バランス訓練、痙縮管理)についても確認すると良いでしょう。
関連知識
多発性硬化症は、中枢神経系の脱髄疾患であり、脳、脊髄、視神経に病変が生じます。症状は多様で、再発と寛解を繰り返すことが多いです。運動療法では、症状の悪化を避けるための環境調整や運動強度の設定が非常に重要となります。脱髄部位では、体温上昇により活動電位の発生閾値が上昇したり、伝導速度がさらに低下したりすることが知られています。