72歳の男性。脳梗塞による左片麻痺。座位姿勢と机上での検査結果を図に示す。理学療法として誤っているのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者は脳梗塞による左片麻痺があり、下図の所見から左半側空間無視が示唆される。左半側空間無視の患者は左側の空間を認識しにくいため、車椅子の左側ブレーキの操作に困難を来しやすい。そのため、左側ブレーキレバーを延長して操作を容易にするべきである。選択肢3は右側ブレーキレバーの延長を提案しており、これは患者の無視の方向と合致せず、不適切な対応である。
選択肢ごとの解説
- 1. 本症例は左半側空間無視の可能性が高い。視覚探索課題は、無視側への注意を促し、無視を改善するための有効な介入方法の一つである。正しくは:視覚探索課題は適切な介入である。選びやすい理由:一見すると正しい選択肢に見えるため、問題文の「誤っているのはどれか」を読み違えると選んでしまう可能性がある。混同注意:他の無視に対する介入方法(例:プリズム適応)と混同することはないが、無視自体に対する介入の有効性を疑うと誤って選ぶ可能性がある。
- 2. 後頸部への振動刺激は、無視側の体性感覚入力や固有受容感覚を高め、空間無視の改善に効果があるとされる介入方法である。正しくは:後頸部への振動刺激は適切な介入である。選びやすい理由:非侵襲的ながらも効果が確立された治療法であり、適切な介入として認識されるべきである。混同注意:他の感覚刺激療法(例:冷覚刺激)と混同することはないが、その有効性について知識が不足していると誤って選ぶ可能性がある。
- 3. 正解。左半側空間無視の場合、患者は左側を認識しにくいため、左側ブレーキレバーの操作に困難が生じる可能性が高い。そのため、左側ブレーキレバーを延長し、操作しやすくするべきである。右側ブレーキレバーの延長は、無視の方向と合致せず、不適切である。正しくは:車椅子の左側ブレーキレバーを延長する。選びやすい理由:ブレーキレバーの延長自体は操作を容易にするための有効な手段であるため、無視の方向と結びつけずに「延長する」行為だけを見ると正しいと錯覚しやすい。また、麻痺側と無視側が一致する場合、麻痺側への配慮と混同し、どちらかのブレーキレバーを延長すれば良いと誤解する可能性がある。混同注意:半側空間無視の特性(無視側への注意障害)と、片麻痺による身体的制限(麻痺側での操作困難)への対応を混同しやすい。どちらも福祉用具の調整が必要な状況だが、その目的と方向性が異なる。
- 4. 左半側空間無視の患者に対し、右へ偏倚するプリズム眼鏡を使用することで、視界全体が右にシフトし、結果的に無視側の左方向へ注意を促すことができる。これは無視の改善に有効な治療法として広く知られている。正しくは:プリズム眼鏡を用いた練習は適切な介入である。選びやすい理由:プリズム眼鏡の選択肢は、その効果や使用方法について正確な知識がないと判断が難しいことがある。混同注意:プリズムの偏倚方向と無視の関係(どちらの方向に視界をずらすべきか)を混同しやすい。左無視に対しては、視覚情報を無視側(左)へ誘導するため、視界を右に偏倚させるプリズムを用いる。
- 5. 左半側空間無視の患者は、進行方向の左側への注意が困難であり、衝突や事故のリスクが高まる。そのため、意識的に左側へ注意を向けるよう指導することは、安全確保と無視改善のための代償戦略として非常に重要である。正しくは:進行方向の左側に注意を払うよう指導することは適切な介入である。選びやすい理由:注意指導は基本的な介入の一つであり、正しい行動を促すためのものとして適切に見える。混同注意:無視のある患者への環境調整や行動指導の原則と混同することはない。
国試ポイント
半側空間無視の基本的な病態理解と、それに基づいた具体的な理学療法介入および福祉用具への応用に関する知識が問われている。特に、無視の方向性とその介入策の対応関係を正確に理解しているかが重要。画像情報から無視の方向性を判断し、適切な対応と不適切な対応を見分ける能力が求められる。
混同注意
半側空間無視に対する介入策と、麻痺側への身体的な配慮を混同しやすい。また、プリズム眼鏡のような特殊な介入における偏倚の方向性や、車椅子操作における注意すべき方向について、無視の特性を正確に理解していないと誤った選択をする可能性がある。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出た場合、半側空間無視の評価結果(例:線分二等分試験で中央より右に線が引かれている、抹消試験で左側の項目が残るなど)から無視の方向性を正確に判断できるか、そしてその無視に対して「どのような介入が有効か/不適切か」を具体的に判断できるかが問われるだろう。特に、福祉用具の調整や環境設定において、無視の方向を考慮した具体的な工夫が求められる問題形式が予想される。
関連知識
半側空間無視の種類(運動性無視、感覚性無視など)、評価方法(線分二等分試験、抹消試験、行動性無視試験など)、および様々な治療介入(視覚探索訓練、プリズム適応、振動刺激、肢位誘導、冷覚刺激、電気刺激、VEP、視覚フィードバックなど)。福祉用具の選定における身体機能と認知機能への配慮。片麻痺患者のADL指導と環境調整。