36歳の男性。1週前、バイク運転中に転倒し左前腕を打撲した。その後、徐々に左手指の伸展が困難になった。左上肢のMMTは肘関節屈曲が5、前腕回外が2、手関節屈曲が4、手関節伸展が4、手指伸展が1。左上肢の感覚障害は認めない。針筋電図検査では回外筋、総指伸筋および長母指伸筋で安静時に脱神経電位を認めた。障害されている神経はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者は、手指伸展が極度に困難(MMT 1)で、前腕回外も著しく低下(MMT 2)しています。針筋電図では回外筋、総指伸筋、長母指伸筋といった、橈骨神経の深枝である後骨間神経が支配する筋群に脱神経電位が認められました。また、純粋な運動神経である後骨間神経の麻痺では感覚障害は伴いません。これらの所見は全て後骨間神経麻痺の典型的な症状と一致します。手関節伸展がMMT 4と部分的に保たれているのは、長橈側手根伸筋が後骨間神経分枝前に橈骨神経深枝から分枝するため、後骨間神経麻痺では比較的保たれることがあるため説明可能です。
選択肢ごとの解説
- 1. 尺骨神経麻痺では、主に小指・環指の屈曲や外転・内転、母指内転、深指屈筋(環指・小指)などが障害され、手指伸展は通常保たれます。この患者の主な症状である手指伸展困難や特定の筋(回外筋、総指伸筋、長母指伸筋)の脱神経電位とは一致しません。正しくは:尺骨神経麻痺の場合、骨間筋や小指球筋の萎縮、鉤爪変形、環指・小指のDIP関節屈曲障害などが主な症状となります。選びやすい理由:上肢の神経障害という広い分類では選択肢の一つですが、具体的な症状からは外れます。混同注意:手指の屈曲に関する神経と混同しやすいですが、本症例は伸展障害が主です。
- 2. 正中神経麻痺では、母指の対立運動障害、示指・中指の屈曲障害、前腕回内障害などが特徴的です。手指伸展困難や特定の伸筋群の障害とは異なります。正しくは:正中神経麻痺の場合、母指対立不能、猿手変形、示指・中指のDIP関節屈曲障害、正中神経領域の感覚障害などが主な症状となります。選びやすい理由:上肢の主要な神経の一つであるため、広く考えれば選択肢に入りますが、症状は異なります。混同注意:母指の動きに関わる神経ですが、本症例の母指伸展障害とは直接結びつきません。前骨間神経と混同する可能性もありますが、それも異なります。
- 3. 橈骨神経全体の麻痺であれば手指伸展困難や手関節伸展困難が生じますが、この患者には感覚障害がないこと、また肘関節屈曲が正常であることから、上腕部での高位橈骨神経麻痺の可能性は低いと考えられます。針筋電図で脱神経電位を認めた筋が全て橈骨神経深枝(後骨間神経)の支配であるため、橈骨神経の幹部よりも末梢の純粋な運動枝の障害が示唆されます。正しくは:橈骨神経全体の麻痺の場合、感覚障害も伴うことが多く、肘関節伸展(上腕三頭筋)も障害される可能性があります。この症例は、橈骨神経の純粋な運動枝である後骨間神経の障害と考えられます。選びやすい理由:手指伸展障害の代表的な神経であるため、すぐに思い浮かびやすいですが、感覚障害がない点や筋電図所見から、より詳細な部位を検討する必要があります。混同注意:橈骨神経全体の麻痺と後骨間神経麻痺の鑑別が難しいことがあります。感覚障害の有無や、肘関節より近位の筋力(上腕三頭筋など)が保たれているかどうかが鑑別のポイントになります。
- 4. 正解。後骨間神経は橈骨神経の深枝であり、純粋な運動神経です。この神経は手指伸筋群(総指伸筋、固有指伸筋など)、母指伸筋群(長母指伸筋、短母指伸筋)、および回外筋、短橈側手根伸筋などを支配します。この患者の症状である「手指伸展困難(MMT 1、特に総指伸筋、長母指伸筋の脱神経電位)」、「前腕回外困難(MMT 2、回外筋の脱神経電位)」、および「感覚障害がない」という所見は、後骨間神経麻痺の特徴と完全に一致します。手関節伸展がMMT 4と軽度低下であるのも、長・短橈側手根伸筋のうち長橈側手根伸筋は後骨間神経に分かれる前に橈骨神経深枝から分枝するため、後骨間神経麻痺では比較的保たれることがあるため説明がつきます。
- 5. 前骨間神経は正中神経の運動枝であり、純粋な運動神経です。この神経は、母指と示指のDIP関節屈筋(長母指屈筋、示指の深指屈筋)、および前腕回内筋の一部(方形回内筋)を支配します。この患者の症状である手指伸展困難とは全く異なる症状を引き起こします。正しくは:前骨間神経麻痺の場合、母指と示指でOKサインが作れない(母指と示指のDIP関節屈曲ができない)ことや、方形回内筋麻痺による回内筋力低下が主な症状となります。選びやすい理由:後骨間神経と名前が似ているため混同しやすいですが、支配神経、支配筋、症状は全く異なります。混同注意:後骨間神経と前骨間神経は、名前が似ていますが、それぞれ橈骨神経と正中神経の末梢運動枝であり、支配筋と症状が大きく異なります。感覚障害がない点も共通しますが、MMTや筋電図で鑑別可能です。
国試ポイント
本問題は、上肢の末梢神経解剖と筋支配に関する知識、および臨床症状(MMT、感覚、筋電図)から障害部位を特定する臨床推論能力を問うものです。特に、橈骨神経全体の麻痺と、その純粋な運動枝である後骨間神経麻痺の鑑別が重要となります。感覚障害の有無や、橈骨神経のより近位の支配筋(例:上腕三頭筋、長橈側手根伸筋など)の筋力によって鑑別されます。
混同注意
橈骨神経麻痺と後骨間神経麻痺。橈骨神経麻痺はより高位での障害を指し、上腕三頭筋麻痺や橈骨神経支配領域の感覚障害を伴うことがあります。一方、後骨間神経麻痺は純粋な運動神経の障害であるため、感覚障害は伴いません。また、前骨間神経麻痺は名前が似ているため混同しやすいですが、支配神経も症状も異なります。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まず「手指伸展障害」から橈骨神経系を疑います。次に「感覚障害の有無」を確認し、感覚障害がない場合は純粋な運動神経である後骨間神経の可能性を強く考えます。さらに、「針筋電図で異常が認められた筋」を精査し、その筋がどの神経に支配されているかを特定することで、より正確な診断につながります。
関連知識
橈骨神経の走行と分枝(上腕三頭筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、深枝、浅枝、後骨間神経)、各神経の支配筋と支配領域(特に手の内在筋を含む末梢神経の完全な理解)、MMTの評価基準、脱神経電位が示す意味、各末梢神経麻痺による特徴的な肢位や機能障害(下垂手など)。