75歳の男性。一人暮らし。歩行時のふらつきを主訴に来院した。以前から食事が不規則で、5日前から食事を摂らなくなった。上肢に明らかな異常はないが、下肢筋力はMMT 4レベルで、下肢遠位優位のしびれ感がある。膝蓋腱反射は亢進しているが、アキレス腱反射は低下し、Babinski反射は陽性だった。眼振は認めない。血清ビタミンB₁₂の低下を認めた。重心動揺検査結果(別冊No. 3)を別に示す。 可能性が高い疾患はどれか。

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出典:厚生労働省ホームページ(第58回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
75歳男性が不規則な食事摂取から5日前より食事を摂らなくなり、歩行時のふらつき、下肢遠位優位のしびれ感、下肢筋力MMT4レベルの筋力低下を呈している。神経学的所見では膝蓋腱反射亢進、アキレス腱反射低下、Babinski反射陽性であり、錐体路障害と後索障害、末梢神経障害を示唆している。さらに血清ビタミンB12の低下が確認されており、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症の典型的な所見である。重心動揺検査では開眼時(左図)と閉眼時(右図)を比較すると、閉眼時に動揺が著しく増大しており、後索障害による体性感覚系の異常(ロンベルグ徴候陽性)を示している。これらの所見が亜急性連合性脊髄変性症の診断を強く支持している。
選択肢ごとの解説
- 1. 皮膚筋炎は筋肉の炎症性疾患であり、筋力低下や皮膚症状(ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候など)を主徴とする。本症例の神経症状(しびれ、反射異常、Babinski反射陽性)やビタミンB12欠乏とは合致しない。正しくは:皮膚筋炎では通常、皮膚症状、近位筋優位の筋力低下、筋酵素上昇などがみられる。選びやすい理由:筋力低下があるため、筋疾患の一つとして検討される可能性がある。混同注意:多発性筋炎などの他の炎症性筋疾患。神経原性筋疾患との鑑別。
- 2. Shy-Drager症候群(多系統萎縮症の一病型)は、起立性低血圧などの自律神経症状、パーキンソニズム、小脳失調などを特徴とする。本症例にパーキンソニズムや小脳失調を強く示唆する所見や自律神経症状の記載はなく、ビタミンB12低下も典型的ではない。正しくは:Shy-Drager症候群では、起立性低血圧、排尿障害などの自律神経症状、振戦、固縮、無動などのパーキンソニズム、または小脳失調を認める。選びやすい理由:ふらつきという症状から、パーキンソニズムや小脳失調を想起させる可能性があるため。混同注意:パーキンソン病、脊髄小脳変性症などの神経変性疾患。
- 3. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの障害により、筋力低下、筋萎縮、線維束性収縮、錐体路症状(Babinski反射陽性など)をきたす進行性の神経変性疾患である。しかし、本症例にあるような下肢遠位優位のしびれ感やアキレス腱反射低下などの感覚障害・末梢神経障害、ビタミンB12低下は典型的ではない。正しくは:筋萎縮性側索硬化症では感覚障害や自律神経障害は通常認めない。またビタミンB12欠乏は直接の原因ではない。選びやすい理由:下肢筋力低下とBabinski反射陽性という錐体路症状があるため、ALSを想起させる可能性がある。混同注意:他の運動ニューロン疾患、脊髄疾患(頚椎症性脊髄症など)。
- 4. ポストポリオ症候群は、ポリオ罹患後に新たな筋力低下や筋萎縮、易疲労感などが発症するもので、ポリオウイルスの感染既往が前提となる。本症例にポリオの既往を示す情報はなく、ビタミンB12欠乏と関連する神経症状とは異なる。正しくは:ポストポリオ症候群では、ポリオ罹患の既往があり、慢性的な疲労感、新たな筋力低下、筋萎縮、関節痛などを呈する。ビタミンB12欠乏とは直接関連しない。選びやすい理由:筋力低下があるため、慢性的な筋力低下をきたす疾患として考慮される可能性がある。混同注意:他の慢性的な筋力低下をきたす疾患。
- 5. 正解。正答。本症例の、高齢者の食事摂取不良、血清ビタミンB12低下、歩行時のふらつき、下肢遠位優位のしびれ感、下肢筋力低下、膝蓋腱反射亢進(錐体路障害)、アキレス腱反射低下(末梢神経障害)、Babinski反射陽性(錐体路障害)、そして重心動揺検査でのロンベルグ徴候陽性(後索障害)という所見は、亜急性連合性脊髄変性症に典型的である。この疾患はビタミンB12欠乏により、脊髄の後索と側索が変性する疾患である。選びやすい理由:多くの神経症状が複合的に存在するため、様々な疾患を鑑別する必要があるが、ビタミンB12低下という決定的な情報と各種神経症状、重心動揺検査の結果が一致しているため、正解に至りやすい。混同注意:脊髄小脳変性症、多発性神経炎、他の脊髄疾患(例:脊髄腫瘍、脊髄炎)など。
国試ポイント
亜急性連合性脊髄変性症の症状(錐体路、後索、末梢神経障害)とビタミンB12欠乏との関連性、および重心動揺検査におけるロンベルグ徴候の解釈。
混同注意
脊髄小脳変性症や多発性硬化症など、同様に運動失調や神経症状を呈する疾患と混同しやすいが、ビタミンB12欠乏と特有の脊髄後索・側索障害の組み合わせが鑑別点となる。
次に同じ論点が出たら
同様の症例が出た場合、高齢者の栄養状態、ビタミンB12欠乏の有無、深部感覚障害(後索障害)の有無、錐体路障害の有無(Babinski反射など)、末梢神経障害(アキレス腱反射低下、しびれ)の有無、そして重心動揺検査での開眼と閉眼の差(ロンベルグ徴候)を総合的に判断する。
関連知識
ビタミンB12欠乏の原因として、悪性貧血、胃全摘術後、菜食主義、吸収不良症候群などがある。ビタミンB12は葉酸とともにDNA合成に不可欠であり、欠乏すると巨赤芽球性貧血もきたす。