50歳の男性。高所から転落し脳挫傷と診断された。入院直後から他者への配慮を欠く言動が多くみられた。家族によると、受傷前は几帳面で温厚な人物であったが、受傷後は著しく自己中心的で粗暴な言動が増え、このままでは同居は難しいとの訴えがあった。この患者に用いる検査で最も優先度が高いのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者は脳挫傷後、「他者への配慮を欠く」「自己中心的」「粗暴」といった行動変容を示しており、これらは前頭葉機能障害に特徴的な症状です。前頭葉は、遂行機能、行動抑制、社会性、人格形成などを司ります。FAB(Frontal Assessment Battery)は、このような前頭葉機能の障害を簡便かつ効率的に評価するための検査であるため、最も優先度が高いと考えられます。
選択肢ごとの解説
- 1. ASIA尺度は脊髄損傷の重症度を評価するための検査であり、本症例の主訴である脳挫傷による行動変容(他者への配慮を欠く、自己中心的、粗暴など)の評価には直接関連しません。正しくは:行動変容や高次脳機能障害の評価には不適切です。選びやすい理由:神経系の損傷を示すため、広範な神経学的評価の一部として頭に浮かぶかもしれませんが、問題文の具体的な症状とは合致しません。混同注意:脳損傷と脊髄損傷を混同したり、神経学的検査全般として捉えてしまう可能性があります。
- 2. 正解。患者の「他者への配慮を欠く言動」「自己中心的で粗暴な振る舞い」といった症状は、前頭葉の機能障害、特に遂行機能障害や行動抑制の障害を示唆しています。FAB(Frontal Assessment Battery)は、これらの前頭葉機能を簡便に評価するための検査であり、最も優先度が高いと考えられます。
- 3. MMSE(Mini-Mental State Examination)は、見当識、記憶、注意、計算、言語などの全般的な認知機能を簡便に評価する検査です。しかし、本症例の主訴である「自己中心的で粗暴な振る舞い」や「他者への配慮を欠く」といった前頭葉性の行動抑制や社会性の障害を詳細に評価するには不十分です。正しくは:行動変容や遂行機能障害の評価には、より特異的な検査を優先すべきです。選びやすい理由:脳損傷後の認知機能評価として広く用いられるため、選択肢として魅力的ですが、症状に特化した検査を選ぶ必要があります。混同注意:全般的な認知機能障害と、前頭葉性の行動・人格変化に関連する高次脳機能障害を混同する可能性があります。
- 4. Rey複雑図形検査は、視空間認知能力、構成能力、視覚的記憶などを評価する検査です。本症例で示されているような行動の抑制困難や人格変化といった症状とは直接的な関連性が低く、優先度は高くありません。正しくは:行動変容や社会性の問題の評価としては不適切です。選びやすい理由:脳損傷後の高次脳機能障害を評価する検査の一つとして知られているため、選択肢として考慮されるかもしれませんが、主訴とは異なります。混同注意:記憶障害や視空間認知障害と、前頭葉性の行動・人格変化の障害を混同する可能性があります。
- 5. SLTA(Standard Language Test of Aphasia)は、失語症の有無、重症度、病型などを評価する言語機能の検査です。本症例の「自己中心的で粗暴な言動」といった行動変容や社会性の問題とは直接関係がなく、優先度は低いと考えられます。正しくは:言語機能の評価であり、行動変容の評価としては適切ではありません。選びやすい理由:脳損傷後の高次脳機能障害の一つとして失語症があるため、選択肢として考慮されるかもしれませんが、問題文の症状とは異なります。混同注意:全ての高次脳機能障害を対象とする検査と誤解したり、言語機能と行動機能を混同する可能性があります。
国試ポイント
臨床症状から患者が抱える高次脳機能障害の種類(特に前頭葉機能障害)を特定し、その評価に最も適切な検査を選択できるかどうかが問われています。一般的な認知機能検査や他の特定の高次脳機能検査との区別が重要です。
混同注意
脳損傷後の評価として、MMSEのような一般的な認知機能検査と、FABのような特定の高次脳機能に特化した検査(特に前頭葉機能)を混同しやすいです。また、他の特定の障害(脊髄損傷、失語症、視空間認知障害など)を評価する検査との違いも理解しておく必要があります。
次に同じ論点が出たら
同様の症状を呈する患者の場合、「人格変化」「社会性の欠如」「脱抑制」「衝動性」「計画性の低下」といったキーワードが見られたら、前頭葉機能障害を疑い、FABのような前頭葉機能に特化した検査を優先的に選択する判断が必要です。他の認知機能障害(記憶障害、失語症など)が疑われる場合は、それぞれの障害に合わせた検査を選びます。
関連知識
前頭葉の機能(遂行機能、行動抑制、情動制御、社会性、人格など)、主な高次脳機能障害の種類とその症状、およびそれぞれの評価に用いられる代表的な検査(FAB, MMSE, SLTA, Rey複雑図形検査など)の目的と特徴に関する知識が求められます。特に、脳損傷部位と症状の関連性について理解していることが重要です。