運動療法を受ける患者の自己効力感が低下する可能性が高いのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
自己効力感は、特定の行動を成功させる能力に対する個人の信念を指します。バンデューラの自己効力感理論によれば、その源泉は主に「達成経験(直接的成功体験)」「代理経験(他者の成功を見る)」「言語的説得(励まし)」「生理的・情動的状態の解釈」の4つがあります。選択肢1, 2, 3, 4はいずれもこれらの自己効力感を高める要因に該当します。一方、選択肢5のように、達成困難な高い目標を最初に設定すると、患者は早期に失敗を経験しやすくなります。この失敗経験は、自己効力感を著しく低下させる最も強力な要因となり得るため、適切な目標設定が極めて重要です。運動療法では、患者が成功体験を積み重ねられるように、達成可能な段階的な目標を設定することが自己効力感を高める上で不可欠です。
選択肢ごとの解説
- 1. 言語的説得は自己効力感を高める要因です。肯定的な言葉や励ましは、患者が課題を達成できるという自信を育みます。正しくは:この行為は自己効力感を高めるため、そのままで良い。選びやすい理由:医療者の積極的な関わりは通常良い影響を与えるため、これを低下要因と捉えることは少ないでしょう。混同注意:励まし方が適切でないと「期待が重い」と感じる可能性もあるが、一般的にはプラスに働く。
- 2. 身体的・情動的状態の解釈は自己効力感に影響します。疲労感を否定的に捉えさせず、回復可能なものと説明することで、運動への不安が軽減され、自己効力感は維持・向上します。正しくは:この行為は自己効力感を高めるため、そのままで良い。選びやすい理由:疲労自体はネガティブな経験ですが、その解釈を医療者が適切に行うことでポジティブな影響に変えることができます。混同注意:疲労そのものと、その疲労に対する患者の解釈を混同しやすい。
- 3. 代理経験(他者の成功を見る)は自己効力感を高める要因です。自分と似た状況の人が目標を達成できたのを見聞きすることで、「自分にもできる」という自信につながります。正しくは:この行為は自己効力感を高めるため、そのままで良い。選びやすい理由:他者の事例を聞くことが、逆に自分と比較して劣等感を抱く可能性もゼロではないと考えるかもしれませんが、一般的にはポジティブな影響です。混同注意:代理経験の有効性と、個人の性格特性による影響を混同しやすい。
- 4. 達成経験(成功体験)は自己効力感を高める最も強力な要因です。過去の成功は、将来の課題に対する自信の源となります。正しくは:この要素は自己効力感を高めるため、そのままで良い。選びやすい理由:過去の経験が必ずしも現在の課題に直結しないと考えるかもしれませんが、類似した課題であればプラスに働きます。混同注意:過去の経験の「類似性」の程度による影響を混同しやすい。
- 5. 正解。高すぎる目標設定は、初期段階での失敗体験につながりやすく、これが自己効力感を著しく低下させる要因となります。バンデューラの自己効力感理論では、段階的な目標設定と達成経験の積み重ねが重要とされます。正しくは:目標は患者の能力に見合った、少し頑張れば達成できる「挑戦的だが現実的な」ものに設定すべきです。成功体験を積み重ねられるよう、小さな目標から始め、徐々に難易度を上げていくことが望ましいです。選びやすい理由:患者のモチベーションを高めるために、あえて高い目標を設定することもあると考えるかもしれませんが、自己効力感の観点からは初期段階で不適切です。混同注意:モチベーションと自己効力感の区別。モチベーションは高めるために高い目標を提示することもあるが、自己効力感の醸成には達成経験が不可欠。
国試ポイント
この問題は、理学療法士が患者の心理面に配慮した介入を行う上で基礎となる「自己効力感」という概念とその影響要因を理解しているかを問うものです。特に、自己効力感を向上させる要因だけでなく、低下させる要因についても正しく認識していることが重要です。臨床現場では、患者の目標達成を支援するために、自己効力感を高めるための具体的な方法論を知識として持つことが求められます。
混同注意
自己効力感(Self-efficacy)は、自己肯定感(Self-esteem)や自信(Confidence)、モチベーション(Motivation)と混同されやすい概念です。自己効力感は特定の課題や行動を成功させる能力に対する「信念」であり、行動遂行への期待を指します。一方、自己肯定感は自分の価値や存在を肯定的に捉える感情であり、自信は一般的に自分の能力や判断に対する信頼、モチベーションは行動を始動・維持する動機づけです。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出題された場合、患者の自己効力感の状態を判断するためには、以下の点に注目します。患者が目標に対して「できる」と感じているか(主観的評価)。過去の治療や運動経験について、成功体験の有無やその解釈。困難な課題に直面した際の患者の対処行動や発言。医療者の説明や指導、他の患者の事例に対する患者の反応。これらの情報を総合的に評価し、自己効力感を高めるための適切な介入方法(目標設定の調整、成功体験の機会提供、適切な励まし、身体的状態への適切な解釈の促しなど)を検討します。
関連知識
アルバート・バンデューラが提唱した社会的認知理論の一部であり、個人の行動選択、努力の持続、困難への対処能力に深く関わります。自己効力感の4つの情報源は以下の通りです。1. 達成経験(Enactive attainment):過去の成功体験が最も強力。2. 代理経験(Vicarious experience):他者の成功を見ることで「自分にもできる」と認識。3. 言語的説得(Verbal persuasion):他者からの励ましや肯定的なフィードバック。4. 生理的・情動的状態の解釈(Physiological and emotional states):身体的反応(例:心拍数の上昇、疲労)をどのように解釈するか。不安や緊張をポジティブに捉え直すことで向上。