70歳の男性。食道癌術後に集中治療室に入室中。積極的に離床を行ってもよいのはどの場合か。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
集中治療室(ICU)における離床の可否を判断する際には、患者の意識レベル、疼痛コントロール、循環動態、呼吸状態、全身状態の重症度など、複数の因子を総合的に評価する必要があります。本問題の選択肢のうち、平均動脈圧80mmHgは、臓器灌流が維持されており、循環動態が比較的安定している状態を示すため、離床を進める上での安全な指標となります。他の選択肢は、意識レベルが低い(RASS-3)、疼痛が強い(NRS8)、頻脈である(心拍数120/分)、全身状態が悪化している(SOFAスコア4点上昇)といった、離床の禁忌または一時中止を検討すべき状況を示しています。
選択肢ごとの解説
- 1. RASS-3は「中等度の鎮静」を示し、刺激を与えても短い間しか目が開かず、アイコンタクトが維持できない状態です。このような深い鎮静状態では、患者の意識レベルが低く、指示に従うことが困難であるため、転倒やチューブ抜去のリスクが高く、積極的に離床を行うべきではありません。正しくは:離床を進めるためには、RASSが-1から0(傾眠傾向から覚醒、平静)の範囲が望ましいとされています。選びやすい理由:RASSは鎮静レベルを評価するスケールですが、-3は明らかに深い鎮静状態であり、積極的な離床は推奨されません。数字の意味を正確に把握していないと誤解する可能性があります。混同注意:RASSスケールの各数値が示す具体的な意識レベル(例: -1は傾眠、0は覚醒平静、+1は落ち着きがない)を正確に理解していない場合、適切な判断ができない可能性があります。
- 2. NRS8は重度の痛みを意味します。強い痛みがある状態では、患者は動作に抵抗を感じやすく、呼吸や循環動態が不安定になるリスクがあります。また、痛みによって離床への意欲が低下し、適切な姿勢や動作を維持することが困難になるため、積極的な離床は避けるべきです。正しくは:離床を開始する前に、疼痛はNRS3以下にコントロールされていることが望ましいとされています。選びやすい理由:疼痛の評価は重要ですが、具体的な数値(NRS8)が離床の禁忌に相当することを正確に把握していないと、誤った判断をする可能性があります。混同注意:疼痛が離床の妨げになることは理解していても、「NRS8」がどれほどの痛みであるか、またその痛みが離床にどの程度影響するかという具体的な基準が不明瞭だと混乱しやすいです。
- 3. 心拍数120拍/分は頻脈に分類され、循環器系に負担がかかっている状態を示します。このような状態での積極的な離床は、心臓へのさらなる負荷をかけ、不整脈や虚血性心疾患のリスクを高める可能性があります。一般的に、離床開始の目安となる心拍数は60〜100拍/分の範囲とされています。正しくは:離床を開始するためには、心拍数が安定していること(例: 60〜100拍/分)が望ましいです。安静時心拍数が100〜120拍/分以上の場合、離床は一時中止または延期を検討します。選びやすい理由:手術後で多少心拍数が高いのは普通、と安易に考えてしまうと、危険な判断につながります。頻脈が続く状況は注意が必要です。混同注意:正常な心拍数の範囲や、頻脈が示す病態生理学的な意味を理解していないと、安全な離床判断ができません。
- 4. 正解。平均動脈圧(MAP)80mmHgは、一般的な集中治療室における離床の目安として、比較的安定した血圧と判断されます。通常、MAPが60~65mmHg以上であれば、臓器灌流は維持されていると考えられ、積極的な離床が可能となる条件の一つです。この値であれば、体位変換や軽度な運動によって急激な血圧変動が起こるリスクは低いと考えられます。
- 5. SOFAスコアは臓器不全の重症度を評価する指標です。スコアが前日から4点も増加しているということは、臓器障害が進行している、または病態が悪化している可能性が高いことを示しています。このような状態での積極的な離床は、患者の全身状態をさらに悪化させるリスクがあり、非常に危険です。正しくは:離床の際には、SOFAスコアが安定しているか、または改善傾向にあることが望ましいです。スコアが増加している場合は、離床を延期し、原因の究明と治療を優先すべきです。選びやすい理由:SOFAスコアの具体的な意味を理解していないと、数値の増減の重要性を見過ごす可能性があります。スコアの上昇が悪化を示すことを知らないと、誤って選択してしまうかもしれません。混同注意:SOFAスコアが何の指標であるか(臓器不全の重症度)や、そのスコアの変動が何を意味するか(増加は悪化)を正確に知らない場合、判断が困難になります。
国試ポイント
集中治療室における早期離床の適応と禁忌に関する基本的な知識、特にバイタルサインや重症度評価スケールの具体的な数値に基づいた判断能力が問われています。各指標の正常値や危険域を正確に把握しているかが重要です。
混同注意
RASSスケールの負の数値が鎮静の深さを示すこと、SOFAスコアの増加が病態の悪化を示すことを正しく理解していないと、判断を誤りやすいです。また、心拍数や血圧の異常値が離床の危険因子となることを認識しておく必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、ICUの患者に対する離床判断において、各バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数、SpO2など)の具体的なカットオフ値や、意識レベル(RASSなど)、疼痛(NRSなど)、全身状態の指標(SOFAスコア、GCSなど)の許容範囲を正確に確認することが求められます。特に、一つの指標だけでなく、複数の指標を組み合わせて総合的に判断する視点を持つことが重要です。
関連知識
ICUにおける早期離床の意義、離床を行う際のメリットとデメリット、RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)、NRS(Numerical Rating Scale)、SOFAスコアなどの評価スケールの詳細、離床の開始基準・中止基準(バイタルサインの許容範囲、呼吸状態、意識レベルなど)、術後の全身管理に関する知識。