80歳の女性。右変形性股関節症に対し人工関節全置換術を施行。1週間が経過し、歩行器での移動が可能となった。本症例にDanielsらの徒手筋力テストに基づき、左中殿筋の段階4の評価を行う。適切な測定はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
中殿筋の筋力テストでは、股関節の外転運動中の代償動作(特に骨盤の挙上や回旋、体幹の側屈など)を抑制することが極めて重要です。骨盤が回旋したり挙上したりすると、中殿筋以外の筋(例:腰方形筋など)や体幹筋が代償的に働き、中殿筋本来の筋力を正確に評価できなくなります。したがって、検者は骨盤をしっかりと固定し、純粋な股関節外転筋の活動を評価する必要があります。
選択肢ごとの解説
- 1. 中殿筋のMMTレベル4、5の測定姿勢は、主に立位や側臥位から、重力に抗して股関節を外転させることで行われます。選択肢の側臥位は重力の影響を軽減する姿勢であり、特にMMT3以下の評価で用いられることが多いです。レベル4の評価では、十分な抵抗を加えるために、より重力の影響を受ける姿勢、または重力に完全に抗した状態を基本とします。正しくは:MMTレベル4では、重力に抗した運動(立位や側臥位で下肢を挙上する)を行い、中程度の抵抗を加えても運動を完遂できるかを評価します。側臥位は重力の影響を軽減するため、MMTレベル3以下の評価で用いられることが多いですが、レベル4の評価では、重力に完全に抗した姿勢(立位または完全に体幹を固定した側臥位で股関節外転位を保持する)で中程度の抵抗を加えることで評価します。選びやすい理由:側臥位は中殿筋の評価で一般的に使われる姿勢であるため、正しいと感じやすいです。しかし、MMTのレベルによって適切な姿勢が異なる点を理解していないと、この選択肢を選んでしまう可能性があります。混同注意:MMTレベル3(重力に抗して関節可動域全体で運動可能)と、MMTレベル4, 5(重力に抗し、さらに抵抗を加えて運動可能)の測定姿勢や抵抗の加え方で混同しやすいです。
- 2. 左中殿筋のMMTを実施する際、非測定側(右側)の股関節を屈曲させると、体幹が不安定になりやすく、骨盤の回旋や代償動作を誘発しやすくなります。安定した姿勢で正確に測定するためには、非測定側の股関節はニュートラルな位置に保つか、あるいは軽度屈曲位で安定性を確保することが望ましいですが、目的は股関節の固定です。正しくは:非測定側(右側)の股関節は、体幹と骨盤の安定性を確保し、代償動作を防ぐために、ニュートラルな位置か、またはわずかに屈曲させて安定させることが一般的です。深く屈曲させることで測定姿勢が不安定になる可能性があり、正確な評価を妨げます。選びやすい理由:側臥位での測定において、下肢の安定性を確保するために股関節を屈曲させることがありますが、過度な屈曲は不安定性を招くため、適切な程度があります。混同注意:他の筋(例:大殿筋)のMMTで股関節屈曲位が用いられることと混同する可能性があります。また、安定性を確保するための補助的な肢位と、測定に直接影響を与える肢位の区別が曖昧になることがあります。
- 3. 正解。中殿筋は股関節の外転筋であり、その単独の筋力を正確に評価するためには、骨盤の代償的な動き(特に回旋や挙上)を厳しく制限する必要があります。骨盤の固定が不十分だと、体幹筋の関与や股関節屈筋・伸筋の代償作用によって、見かけ上の外転運動が生じてしまい、中殿筋本来の筋力を過大評価したり、誤った評価をしてしまったりする原因となります。MMTでは、評価対象筋以外の関与を最大限排除することが重要です。選びやすい理由:代償動作の抑制はMMT全般の基本であるため、これは正しい選択肢だと認識しやすいです。混同注意:代償動作を許容してしまうと、正確な筋力評価ができないという基本的な原則を理解しているかどうかが問われます。
- 4. 中殿筋の主な作用は股関節の外転であり、股関節が外旋位になると、大腿筋膜張筋などの他の股関節外転・屈筋群の活動が増加しやすくなります。中殿筋を主動筋として評価するためには、股関節は中間位(軽度内旋位を含む)で外転させるのが適切です。外旋位では純粋な中殿筋の筋力評価が困難になります。正しくは:左下肢(測定側)の股関節は、中殿筋の単独作用を最も引き出すため、中間位または軽度内旋位で外転運動を行います。外旋位にすると、他の外転筋群(特に大腿筋膜張筋)の代償が起こりやすくなります。選びやすい理由:股関節外転と股関節外旋が同時に行われる運動があるため、混同しやすいかもしれません。しかし、MMTでは特定の筋の機能を分離して評価します。混同注意:中殿筋と大腿筋膜張筋の作用、または他の股関節外転筋の働きとの混同。また、股関節の複合的な動きと単一筋の評価の区別が曖昧になることがあります。
- 5. MMTレベル4では「中程度の抵抗」を加えても運動を完遂できる能力を評価します。「最大の抵抗」を加えても運動を完遂できるのはMMTレベル5(Normal)の基準です。また、抵抗を加える部位については、原則として作用筋の遠位端、すなわち膝関節付近の大腿骨遠位端に加えるのが適切であり、足関節から加えるのは槓杆が長くなり、より大きな負荷がかかるため、不正確な評価につながる可能性があります。正しくは:MMTレベル4では「中程度の抵抗」を加えても、股関節外転位を保持し、動作を完遂できるかを評価します。「最大の抵抗」を加えても保持できるのはMMTレベル5の基準です。抵抗は、通常、膝関節遠位(大腿骨遠位部)に加えます。選びやすい理由:抵抗を加えること自体は正しいですが、「最大」という言葉がレベル5を示唆することを見落としやすいです。また、抵抗を加える部位についても、漠然と遠位と捉えていると足関節を選んでしまう可能性があります。混同注意:MMTレベル4と5の評価基準(抵抗の程度)の混同。また、抵抗を加える最適な部位についての理解が不足している可能性があります。
国試ポイント
徒手筋力テスト(MMT)の基本的な原理、特に各筋の評価における適切な肢位、検者の固定部位、抵抗の加え方、および代償動作の判断に関する知識が問われています。特にレベル4と5の区別、および代償動作の抑制の重要性は頻出テーマです。
混同注意
MMTの各レベルの基準(特にレベル3, 4, 5の抵抗の程度)と、各筋のテストにおける適切な肢位や固定方法、代償動作の種類と判断が混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、まず評価対象筋の主たる作用と、その作用を最も純粋に引き出すための肢位、そして代償動作を防ぐための固定方法に注目して選択肢を検討します。また、MMTの各レベルの定義(特に抵抗の強さ)を正確に理解しているかを確認します。
関連知識
徒手筋力テストの評価手順、MMTの各段階の定義、主要な筋群のMMT実施方法(大殿筋、腸腰筋、大腿四頭筋など)、代償動作の種類と発生メカニズム。