85歳の女性。脳梗塞による左片麻痺。歩行練習中に下肢装具の条件を変えて歩行を比較したところ、底屈制動を軽減して中足足根関節部以遠の可撓性を高めることで歩幅が増加した。改善に影響を与えた麻痺側の主な歩行周期はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
立脚後期は、歩行において地面を蹴り出し、前方への推進力を得るための重要なフェーズです。この時期に足関節の底屈制動が軽減され、中足足根関節以遠の足部の可撓性が向上することで、足部がより効果的に地面を捉え、強いプッシュオフ(蹴り出し)が可能になります。結果として、より大きな推進力が得られ、反対側の遊脚が大きく振り出されることで歩幅が増加します。特に、麻痺患者においては、この推進力獲得が困難である場合が多く、装具調整による改善効果は非常に大きいです。
選択肢ごとの解説
- 1. 荷重応答期は初期接地から足底が床に完全に接地するまでの期間で、衝撃吸収と体重支持の開始が主な役割です。この時期に足部柔軟性を高めても、歩幅の増加には直接的に繋がりません。底屈制動の軽減は影響を与えうるが、主に初期接地や足底接地時の安定性に関与し、歩幅の増大には直接結びつかないことが多いです。正しくは:荷重応答期は、接地時の安定性や衝撃吸収に関連が深いフェーズです。選びやすい理由:装具の変更が初期の接地に関わると思われがちですが、歩幅の増加という結果とは直結しにくいです。混同注意:初期接地や足底接地時の底屈制御と混同しやすい。
- 2. 立脚中期は、片足が地面に完全に接地し、重心が支持脚の上を通過する期間です。この時期は主に重心移動の効率性と安定性が重要であり、足部の柔軟性よりも股関節や膝関節の動き、体幹の安定性が歩幅に大きく影響します。底屈制動を軽減することの影響は限定的です。正しくは:立脚中期は、重心移動の効率性と安定性が主要な課題となる期間です。選びやすい理由:立脚相全体の安定性に関わるため、装具の影響があると思われやすいですが、歩幅増加の直接的な原因とはなりにくいです。混同注意:立脚相全体の重心移動と混同しやすい。
- 3. 正解。立脚後期は、かかとが地面から離れ、つま先で地面を蹴り出す(プッシュオフ)ことで推進力を得る時期です。この時期に底屈制動が軽減され、中足足根関節部以遠の可撓性が高まることで、足関節の底屈運動がよりスムーズになり、足指を含めた足部の柔軟な動きが推進力を効果的に発生させます。これにより、より力強く地面を蹴り出すことが可能となり、結果として反対側の足がより前方に振り出され、歩幅が増加します。選びやすい理由:歩行の推進力獲得と直接的に関連するため、正答を見つけやすい。混同注意:他の立脚相の役割と混同しにくいですが、遊脚相の役割と区別することが重要です。
- 4. 遊脚中期は、非支持脚が前方に振り出され、下腿が地面と垂直になる時期です。この時期の主な目的は、遊脚のクリアランス確保と前方への推進であり、足部の柔軟性よりも股関節屈筋群の活動や膝関節の屈曲伸展が重要です。装具の底屈制動軽減が直接的に遊脚中期の歩幅増加に寄与する可能性は低いです。正しくは:遊脚中期は、遊脚のクリアランス確保と前方への振り出しが主な役割です。選びやすい理由:遊脚相全体が歩幅の増大に寄与すると考えられがちですが、装具の足部への影響は限定的です。混同注意:遊脚相全体の推進力やクリアランス確保の役割と混同しやすい。
- 5. 遊脚後期は、遊脚が終わり、次の立脚相へ移行する準備の時期です。この時期の主な役割は、足関節の背屈を保持してクリアランスを確保し、初期接地へ向けての準備を行うことです。足部の柔軟性が直接的に遊脚後期の歩幅を増大させるというよりは、立脚相での十分な推進力によってその後の遊脚相の歩幅が決まります。正しくは:遊脚後期は、初期接地への準備と足のクリアランス維持が主な役割です。選びやすい理由:足が地面に着く直前であるため、装具の影響があると思われやすいですが、歩幅増加の直接的な原因ではありません。混同注意:初期接地や荷重応答期との関連と混同しやすい。
国試ポイント
歩行周期の各フェーズにおける運動学・運動力学的な役割と、装具の調整が各フェーズの機能にどのように影響するかを理解しているかが問われています。特に、歩幅の増大という結果から、どのフェーズでの推進力獲得が重要であるかを判断する能力が必要です。
混同注意
歩行周期の他のフェーズ、特に荷重応答期や遊脚相と混同しやすいです。荷重応答期は接地時の安定性、遊脚相は足のクリアランスや前方への振り出しが主な役割であり、推進力獲得とは直接的に結びつきにくい点を明確に区別することが重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず『歩幅が増加した』という結果に注目し、それがどの歩行周期フェーズの機能と最も密接に関連するかを考えます。歩幅の増加には、主に推進力の獲得が関与するため、立脚後期のプッシュオフの改善が推測されます。また、装具調整がどの関節のどの運動に影響したか(例:底屈制動の軽減、中足足根関節の可撓性向上)を読み解き、それがそのフェーズの機能にどう作用するかを判断します。
関連知識
立脚相の各期(荷重応答期、立脚中期、立脚後期)の機能、遊脚相の各期(遊脚初期、遊脚中期、遊脚後期)の機能、足関節装具(AFO)の種類と効果、プッシュオフのメカニズム、脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴。