42歳の男性。2週前に感冒症状が出現。3日前から両下肢のしびれと脱力を自覚し、症状が進行したため精査入院。握力は両側5 kg未満。MMTは上肢3、下肢2。四肢の深部腱反射は消失し病的反射は認めない。表在感覚は両側下腿以下で重度に低下し異常感覚を伴う。神経伝導検査で両側正中神経および両側腓骨神経の活動電位の振幅の著明な減少を認める。最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
患者の症状として、先行する感冒様症状、進行性の両下肢のしびれと脱力、四肢の深部腱反射消失、感覚障害、そして神経伝導検査での活動電位振幅の著明な減少が挙げられます。これらはギラン・バレー症候群(特に急性炎症性脱髄性多発神経炎AIDPや急性運動軸索性ニューロパチーAMAN、急性運動感覚軸索性ニューロパチーAMSANなどの病型)の典型的な臨床的・電気生理学的所見と完全に一致します。
選択肢ごとの解説
- 1. 髄膜炎は脳や脊髄を覆う髄膜の炎症であり、発熱、頭痛、項部硬直が主な症状です。本症例で示されているような四肢の進行性脱力、深部腱反射の消失、広範囲な感覚障害、末梢神経伝導検査での振幅減少といった末梢神経障害の所見とは異なります。正しくは:症状として強い頭痛、発熱、項部硬直、意識障害、光線過敏などがあれば、髄膜炎を考慮します。選びやすい理由:急性発症の神経症状を呈するため、鑑別疾患の一つとして想起されるかもしれませんが、具体的な症状が異なります。混同注意:脳炎や脊髄炎など、中枢神経系の他の感染症と混同する可能性があります。
- 2. 多発性筋炎は筋肉自体の炎症性疾患であり、進行性の筋力低下(特に体幹に近い近位筋)が特徴ですが、感覚障害や深部腱反射の消失は通常伴いません(重度の筋力低下の場合を除き、反射は保たれます)。また、神経伝導検査では末梢神経の活動電位の振幅減少ではなく、筋電図検査で筋原性変化が見られることが特徴です。正しくは:近位筋優位の筋力低下があり、感覚障害がなく、深部腱反射が正常であれば多発性筋炎を考慮します。選びやすい理由:筋力低下があるため、一見選択肢になりそうですが、感覚障害と反射消失の有無が重要な鑑別点です。混同注意:ギラン・バレー症候群(神経性疾患)と多発性筋炎(筋性疾患)は、ともに筋力低下を主訴としますが、反射、感覚、神経伝導検査所見で区別できます。
- 3. 多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患であり、症状は多様で再発寛解を繰り返すことが多いです。末梢神経障害である四肢深部腱反射の消失や末梢神経伝導検査での異常(振幅減少)は通常見られません。しばしば反射亢進が見られることもあります。正しくは:中枢神経系の多巣性病変を示唆する症状(視力障害、構音障害、膀胱直腸障害など)があり、髄液検査やMRIで特徴的な所見があれば多発性硬化症を考慮します。選びやすい理由:脱力や感覚障害といった神経症状が見られるため、選択肢の一つとして考えるかもしれませんが、病変部位が異なります。混同注意:ギラン・バレー症候群(末梢神経の脱髄)と多発性硬化症(中枢神経の脱髄)は、共に脱髄疾患ですが、病変部位とそれに伴う症状・検査所見が明確に異なります。
- 4. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位・下位運動ニューロンが進行性に障害される疾患です。筋力低下、筋萎縮、線維束性収縮が特徴ですが、感覚障害は通常みられません。深部腱反射は初期には正常または亢進し、消失することは稀です。また、先行する感冒様症状からの急性発症・進行は典型的ではありません。正しくは:感覚障害がなく、深部腱反射の亢進と筋萎縮、線維束性収縮を認め、病状が慢性的に進行する場合はALSを考慮します。選びやすい理由:進行性の筋力低下を伴うため、この疾患を疑うかもしれませんが、感覚障害の有無と反射所見が鑑別点です。混同注意:筋力低下を呈する他の神経筋疾患(多発性筋炎、重症筋無力症など)と混同しやすいですが、感覚障害の有無や反射所見で鑑別します。
- 5. 正解。ギラン・バレー症候群は、先行する感染(感冒症状)後に発症することが多く、数日〜数週間で進行する両下肢からの対称性筋力低下、四肢の深部腱反射消失(進行すると広範囲に及ぶ)、感覚障害(しびれ、異常感覚)を特徴とします。神経伝導検査での活動電位振幅の著明な減少は、軸索型ギラン・バレー症候群(AMAN/AMSAN)や重度の脱髄性病変による伝導ブロックでみられる典型的な所見であり、本症例の全ての情報と合致します。
国試ポイント
ギラン・バレー症候群の診断基準、特に「先行感染」、「進行性の対称性筋力低下」、「深部腱反射消失」、「感覚障害の有無と程度」、「神経伝導検査所見(脱髄または軸索障害)」を正確に理解しているかを問う問題です。他の鑑別疾患との比較を通じて、特徴的な所見を的確に捉える能力が求められます。
混同注意
急性発症の筋力低下をきたす疾患(多発性筋炎、脊髄疾患など)、中枢神経系の脱髄疾患(多発性硬化症)などと混同されやすいです。特に、中枢神経系と末梢神経系の疾患の鑑別が重要となります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出た場合、先行感染の有無、症状の進行様式(上行性麻痺の有無)、深部腱反射の所見(消失か亢進か)、感覚障害の有無と分布、神経伝導検査で脱髄所見(伝導速度低下、遠位潜時延長、F波延長)か軸索障害所見(振幅減少)のどちらが優位かを鑑別のポイントとして見極めます。
関連知識
ギラン・バレー症候群の病態生理(自己免疫性末梢神経障害)、主な病型(AIDP, AMAN, AMSAN, Miller-Fisher症候群など)、治療法(免疫グロブリン療法、血漿交換)、リハビリテーションの段階的アプローチ、予後について理解していると、より深く学習できます。