84歳の男性。心疾患の既往はない。転倒して右大腿骨近位部骨折を受傷し、緊急で骨接合術を受けた。翌日離床を目的に理学療法が処方されたが、右下腿の腫脹と圧痛を訴えている。最も優先的に確認すべき血液検査項目はどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
高齢患者が術後に下腿の腫脹と圧痛を訴える場合、深部静脈血栓症(DVT)の発生が最も強く疑われます。特に下肢の手術後や長期臥床はDVTのリスク因子です。DVTは肺血栓塞栓症に移行する可能性があり、離床を開始する前にその有無を確認することは患者の安全確保のためにも非常に重要です。Dダイマーは血栓分解産物であり、DVTのスクリーニング検査として最も優先的に確認すべき項目です。Dダイマーが上昇していれば、確定診断のために下肢静脈エコー検査などの画像診断に進みます。
選択肢ごとの解説
- 1. BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心不全の診断や重症度評価に用いられるマーカーです。この患者さんは心疾患の既往がなく、下腿の腫脹と圧痛は心不全よりも別の病態を強く示唆しています。正しくは:BNPは心不全が疑われる場合や、その管理に用いられます。選びやすい理由:下肢の浮腫は心不全でも見られる症状のため、迷うかもしれません。混同注意:下肢の浮腫の原因として、心不全と深部静脈血栓症(DVT)を混同しやすいです。ただし、このケースでは痛みと片側性であることがDVTを強く示唆します。
- 2. 正解。患者さんは高齢で、大腿骨近位部骨折という手術を受け、術後翌日に下腿の腫脹と圧痛を訴えています。これらの症状と状況は、深部静脈血栓症(DVT)の発症を強く示唆しています。Dダイマーは、体内でフィブリンが分解される際に産生される物質で、血栓の有無や血栓症の活動性を示すマーカーとして、DVTの診断に非常に有用です。DVTが疑われる場合、まずDダイマーを測定し、その上昇があれば画像検査(超音波検査など)に進むのが一般的です。理学療法を安全に進めるためにも、DVTの有無を早期に確認することが最優先となります。
- 3. HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、過去1~2ヶ月の血糖コントロールの状態を示す指標で、糖尿病の診断や管理に用いられます。下腿の腫脹と圧痛とは直接関連性が低く、現在の緊急性を要する症状の原因特定には適していません。正しくは:HbA1cは糖尿病の診断や、血糖コントロールの長期評価に用いられます。選びやすい理由:高齢患者では糖尿病の合併も多いため、確認が必要な項目ではありますが、この症状に対して優先度は低いです。混同注意:全身状態を把握するための検査項目の一つであり、健康管理全般に役立つ項目ですが、急性期の病態診断とは直接結びつきません。
- 4. PT-INR(プロトロンビン時間国際標準化比)は、血液凝固能を評価する検査で、主にワーファリンなどの抗凝固薬の投与量調節や、肝機能障害、ビタミンK欠乏症などの診断に用いられます。下腿の腫脹と圧痛の原因を特定する直接的な指標ではありません。DVTが発症しているかどうかの確認よりも、DVT診断後の治療方針(抗凝固療法)に影響する項目です。正しくは:PT-INRは抗凝固療法中の患者の凝固能モニタリングや、出血傾向・血栓傾向の原因検索に用いられます。選びやすい理由:血栓症が疑われるため、凝固系の検査という点で関連性を感じるかもしれませんが、DVTの『診断』そのものではなく、治療薬のモニタリングや出血傾向の評価に用いられます。混同注意:血栓形成と出血傾向は密接に関連するため、凝固系の検査という共通点で混同しやすいです。
- 5. SP-D(Surfactant Protein-D)は、肺胞上皮細胞から分泌されるサーファクタント関連蛋白の一種で、間質性肺炎などの肺疾患で上昇することがあります。下腿の腫脹と圧痛とは全く関連がなく、現在の症状の原因特定には不適切です。正しくは:SP-Dは間質性肺炎などの呼吸器疾患の病態評価に用いられます。選びやすい理由:耳慣れない検査項目であるため、知らないと選んでしまう可能性があります。混同注意:他の一般的な検査項目と異なり、特定の専門分野で用いられる検査であることを理解していないと、判断が難しいかもしれません。
国試ポイント
高齢者、術後、下肢の腫脹・圧痛というキーワードから、深部静脈血栓症(DVT)を想起できるか、そしてDVTのスクリーニング検査としてDダイマーが最も適切であることを知っているかが問われています。理学療法士が患者の安全管理を適切に行うために必要な知識です。
混同注意
下腿の腫脹は心不全、腎不全、リンパ浮腫など様々な原因で生じますが、片側性で圧痛を伴う場合はDVTの可能性を優先的に考慮する必要があります。DダイマーとPT-INRなど、凝固系に関連する検査項目でも役割が異なるため注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず患者の背景情報(年齢、既往歴、現在の状態、直近のイベント)から最も可能性の高い病態を特定します。次に、その病態を診断するために最も適切で優先度の高い検査項目は何かを考えます。特に生命に関わる緊急性の高い疾患の兆候を見逃さない視点が重要です。
関連知識
深部静脈血栓症のリスク因子(高齢、手術、長期臥床、悪性腫瘍、経口避妊薬使用など)、DVTの症状(下腿の腫脹、圧痛、発赤、熱感、ホーマンズ徴候)、DVTの診断(Dダイマー、下肢静脈エコー)、DVTの合併症(肺血栓塞栓症)、DVTの予防(早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫装置、抗凝固薬)。