56歳の男性。身長165 cm、体重45 kg。肺癌の外来化学療法の治療中であったが、1週前から息苦しさがあり、呼吸困難が増悪したため緊急入院した。精査の結果、両肺の癌性胸膜炎と診断され、胸部単純CT で両側胸水を認めた。意識は清明。心拍数60/分、整。血圧102/78 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 95 %(room air)。 痰の喀出量が多く、頻回に努力性の咳嗽が出現し、安静時でも呼吸困難を訴えている。 理学療法の方針で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
ハフィングは、声門を開いたまま「ハー」と息を吐き出すことで、気管・気管支の狭窄部位を超えて末梢気道まで空気を送り込み、貯留した痰を効果的に移動させ、喀出しやすくする排痰法です。本症例では、肺癌による癌性胸膜炎で両側胸水があり、呼吸困難を訴え、痰の喀出量が多く、頻回に努力性の咳嗽が出現しているため、効率的な排痰は呼吸状態の改善に繋がります。
選択肢ごとの解説
- 1. 背臥位は、両肺の癌性胸膜炎と胸水によって呼吸困難がある患者にとっては、横隔膜の動きを制限し、肺容量をさらに減少させるため、呼吸困難を増悪させる可能性が高い体位です。特に痰の喀出量が多い場合、背臥位では痰が貯留しやすく、喀出が困難になります。正しくは:呼吸困難が強い患者に対しては、起坐位やファウラー位など、上体を起こした体位をとらせて呼吸を楽にするのが適切です。排痰を促す場合は、体位ドレナージを検討しますが、両側胸水があり全身状態の悪い本症例には注意が必要です。選びやすい理由:安静を保つために背臥位を指示することが一般的なイメージがあるかもしれませんが、呼吸困難を伴う場合は不適切です。混同注意:安静体位と呼吸困難時の安楽体位の区別。
- 2. 本症例は、肺癌の化学療法中で、息苦しさ、呼吸困難の増悪、安静時でも呼吸困難を訴えるほど全身状態が悪化しており、SpO2 95%(room air)ではあるものの、頻回に努力性の咳嗽が出現しています。このような状況で有酸素運動を行うと、呼吸循環器系への負担が大きすぎ、呼吸困難をさらに悪化させ、患者に有害な影響を及ぼすリスクが非常に高いため不適切です。正しくは:まずは呼吸困難の軽減と効率的な排痰を目指す理学療法が優先されます。運動を行う場合でも、バイタルサインが安定し、呼吸困難がコントロールされた状態で、ごく軽度から段階的に開始するのが原則です。選びやすい理由:一般的に運動療法はQOL向上に繋がると考えられるため。混同注意:安定期の呼吸器疾患患者に対する運動療法と、急性増悪期の患者に対する理学療法の違い。
- 3. 本症例は、呼吸困難が増悪し、痰の喀出量が多く、頻回に努力性の咳嗽が出現している状態であり、理学療法によって呼吸困難の軽減や排痰の促進を図ることで、症状緩和や状態改善に繋がる可能性があります。理学療法を中止することは、症状の改善機会を逃すことになります。正しくは:患者の苦痛を軽減し、呼吸状態の安定化を図るための適切な理学療法(例:排痰法、呼吸困難を軽減する体位、リラクセーションなど)を積極的に導入すべきです。選びやすい理由:患者の状態が悪いため、負担をかけないように配慮するという考えから。混同注意:急性期の重症患者への積極的な理学療法の必要性を見落とすこと。
- 4. 正解。ハフィングは、声門を開いて短く、または長く息を吐き出すことで、気管支内の圧力を調整し、末梢気道から中枢気道への痰の移動を促進する効果的な排痰法です。本症例は、痰の喀出量が多く、頻回に努力性の咳嗽が出現し、呼吸困難を訴えているため、ハフィングを指導することで、効率的な排痰が可能となり、呼吸困難の軽減に繋がると考えられます。選びやすい理由:排痰が必要な状況で、患者の負担が少ない効果的な方法であるため。混同注意:ハフィングと咳嗽(声門を閉鎖して行うもの)の違い。
- 5. 口すぼめ呼吸は、息を吸う時間よりも吐く時間を長くし、ゆっくりと口をすぼめて息を吐き出すことで、気道内圧を保ち、気道の虚脱を防ぎ、呼気時間を延長して肺に閉じ込められた空気を排出しやすくする呼吸法です。これにより、肺の過膨張を軽減し、呼吸困難を緩和する効果がありますが、主な目的は呼吸困難の軽減であり、本症例のように「痰の喀出量が多く」という状況に対する排痰効果は限定的です。まずは、より直接的に排痰を促すハフィングが優先されます。正しくは:口すぼめ呼吸は呼吸困難の緩和に有効な方法の一つであり、ハフィングと併用することも可能です。ただし、優先順位としては、痰の喀出が急務であるため、ハフィングがより直接的な解決策となります。選びやすい理由:呼吸困難の軽減に有効な呼吸法として一般的によく知られているため。混同注意:排痰法と呼吸困難軽減法の目的の違い。
国試ポイント
呼吸器疾患患者の排痰法と体位管理、運動療法の適応・禁忌を理解すること。
混同注意
ハフィングと咳嗽、口すぼめ呼吸と腹式呼吸など、類似する呼吸法や排痰法との違いを理解すること。ハフィングは声門を開いたまま行う排痰法であり、咳嗽のように声門を閉鎖して行うものとは異なる。
次に同じ論点が出たら
患者の呼吸状態、意識レベル、痰の性状と量、既存疾患、そして理学療法の目的(排痰、呼吸困難軽減、運動耐容能向上など)を総合的に判断する。
関連知識
排痰を促進する他の理学療法(体位ドレナージ、スクイージング、徒手・器械的補助)、呼吸困難を軽減する体位(起坐位、ファウラー位)、呼吸介助筋の疲労軽減。