46歳の男性。右中葉肺がん。入院して化学療法と放射線療法を行い、来月に胸腔鏡下肺部分切除術を予定している。6分間歩行距離は560 mで、経皮的動脈血酸素飽和度は95%以上に保たれ、ADLは全て自立している。 正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
肺がん患者の肺切除術前後の理学療法は、術後の肺合併症予防と機能回復が主要な目的です。設問の患者は身体機能が良好なため、術前から積極的に呼吸リハビリテーションを行うことが推奨されます。特に咳嗽練習は、術後に起こりやすい無気肺や肺炎といった合併症の予防に直結するため、術前からの指導が不可欠です。これにより、患者は術後の疼痛下でも効果的に痰を排出できるようになります。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。肺切除術を予定している患者にとって、術後に起こりやすい肺合併症(無気肺や肺炎など)を予防するために、術前から痰を効果的に排出する咳嗽方法を習得しておくことが非常に重要です。これにより、術後の早期回復を促進できます。
- 2. 術後の疼痛や創部への影響から上部胸式呼吸になりやすいですが、これは換気効率が悪く、疲労を招きやすい呼吸様式です。術前からは腹式呼吸や深呼吸を練習し、胸郭全体の拡張性を保つことが望ましく、上部胸式呼吸を積極的に練習することは適切ではありません。正しくは:術前から腹式呼吸や横隔膜呼吸の練習を行い、胸郭の拡張性を高める。選びやすい理由:術後に疼痛を避けるために上部胸式呼吸になりやすいという事実から、それを事前に練習しておくと良いと誤解する可能性があります。しかし、これは推奨される呼吸様式ではありません。混同注意:呼吸補助筋を使った呼吸と、換気効率の良い横隔膜呼吸や胸郭全体を使った呼吸を混同しやすいです。
- 3. この患者は6分間歩行距離560m、SpO2 95%以上、ADL全自立と全身状態が良好です。術前の過度な安静は、筋力低下や身体機能の低下といった廃用症候群を招き、術後の回復を遅らせる原因となるため不適切です。可能な範囲での活動維持が重要です。正しくは:術前も適度な活動を継続し、体力と身体機能を維持するよう努める。選びやすい理由:手術前は体を休ませるべきだと考えがちですが、現在の医学的リハビリテーションでは、患者の状態が許せば積極的に活動を継続し、術後の合併症予防や早期回復につなげることが推奨されています。混同注意:術前の身体的負担を避けることと、活動量を適切に維持することの区別がつきにくいかもしれません。
- 4. 術後早期(特に1週間以内)は、疼痛管理やドレーン留置に配慮しつつも、ベッドサイドでの座位や早期離床、歩行を積極的に促し、胸郭の拡張や換気促進、排痰を図ることが極めて重要です。体位排痰法も有効な手段の一つですが、それのみを中心とするのではなく、全身的な活動と組み合わせることが必要です。正しくは:術後早期から積極的な離床を促し、座位や歩行訓練を行う。体位排痰法も必要に応じて実施する。選びやすい理由:体位排痰法は呼吸器疾患の術後管理において重要な手技であるため、これを主なリハビリテーションと誤解する可能性があります。しかし、早期離床や運動も排痰を促進する重要な要素です。混同注意:術後の早期離床による全身的効果と、排痰に特化した体位排痰法を、優先順位や役割において混同しやすいです。
- 5. 修正Borg指数で2は「非常に楽である」程度の運動強度を示します。術後3か月は回復期であり、患者の状態や体力に応じて、もう少し高い強度(例えば修正Borg指数で3~4:『ややきつい』~『きつい』程度)の運動療法を行うことで、より効果的な心肺機能や筋力の向上、ADL能力の改善が期待できます。現在の設定は低すぎると考えられます。正しくは:術後3か月は、患者の状態に合わせて修正Borg指数で3~4程度の、より効果的な運動療法も検討する。選びやすい理由:術後であるため、運動強度を控えめにすべきだと考える人がいるかもしれませんが、回復期では機能改善を目指して適切な負荷をかけることが重要です。混同注意:運動療法の安全な開始と、効果を最大化するための適切な運動強度の設定。また、修正Borg指数の各数値が示す自覚的運動強度の具体的な感覚を混同しやすいです。
国試ポイント
呼吸器疾患患者の術前・術後管理における理学療法の原則、特に術前からの呼吸練習や早期離床の重要性が問われています。各選択肢の根拠を理解し、現在のエビデンスに基づいた最適な介入を選択できるかが重要です。
混同注意
術前安静と活動維持、術後の体位排痰法と早期離床の優先順位、そして運動強度の適切な設定を混同しやすいです。特に、『術後だから安静に』という旧来の考え方に引きずられないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、患者の全身状態(ADL、運動耐容能、合併症の有無)を正確に把握し、それに応じた術前からの介入内容、術後早期からの理学療法プログラム(離床のタイミング、排痰手技、運動強度など)の適切性を判断することが求められます。
関連知識
呼吸理学療法の基本手技(咳嗽法、呼吸法指導)、肺切除術後の合併症とその予防、早期離床の重要性、運動処方の原則(修正Borg指数などの運動強度指標)。また、術前からの栄養管理や禁煙指導なども関連知識として重要です。