58歳の男性。半年前から両手の筋萎縮に気付き、最近しゃべりにくさを自覚するようになった。体重は半年で70 kgから60 kgに減少。MMTは両上肢の近位筋が2、遠位筋が4、両下肢が4。四肢の腱反射は亢進。舌の萎縮が認められるが明らかな嚥下障害はない。肺機能検査で%肺活量は95 %。動脈血ガス分析はPaO2:90 Torr、PaCO2:40 Torrであった。現時点で最も適切な対応はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第59回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)が強く疑われる症状(筋萎縮、構音障害、体重減少、上下位運動ニューロン障害の徴候である筋力低下と腱反射亢進、舌萎縮)を呈しています。特に、両上肢の近位筋力低下がMMT2と著明であることから、腕を重力に抗して挙上することが困難な状態と推測されます。このような場合、バランス型上肢装具(BFO)は、残存するわずかな筋力で前腕や手の動きを補助し、食事や整容などの日常生活動作の自立度を高めるために非常に有効な手段です。他の選択肢は、嚥下機能や呼吸機能が現時点では保たれているか、あるいは低酸素血症がないため、現時点での優先順位は低いと考えられます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者は両上肢の近位筋力(MMT2)が著しく低下しており、腕を重力に抗して持ち上げることが困難な状況です。バランス型上肢装具(BFO)は、重力を相殺することで、残存するわずかな筋力で前腕や手の動作を補助し、食事や整容などの日常生活動作の自立を支援するために有効です。
- 2. 胃瘻造設術は、経口摂取が著しく困難になり、十分な栄養が摂れなくなった場合に検討される介入です。現状では「明らかな嚥下障害はない」とされており、呼吸機能も保たれているため、現時点での優先度は低いと考えられます。正しくは:嚥下障害が進行し、十分な栄養摂取が困難になった場合や、体重減少がさらに著しくなった場合に検討されます。選びやすい理由:ALSの進行期には嚥下障害がしばしば見られ、栄養管理が重要になるため、将来的な選択肢として意識されやすいかもしれません。混同注意:ALSの進行ステージと各介入の適切なタイミング。
- 3. 気管切開術は、重度の呼吸不全があり非侵襲的陽圧換気(NIPPV)でも対応が困難な場合や、気道分泌物の管理が必要な場合に検討される侵襲的な介入です。患者の現時点の肺機能(%VC 95%)と動脈血ガス分析(PaO2 90Torr, PaCO2 40Torr)は呼吸不全を示しておらず、適応ではありません。正しくは:呼吸筋力低下が進行し、重度の呼吸不全(例:%VCの著しい低下、PaCO2の上昇)を認め、NIPPVでは管理が困難になった場合に検討されます。選びやすい理由:ALSの最終段階では呼吸不全が主要な死因となるため、呼吸管理の重要性は認識されやすいですが、現時点のデータでは不適切です。混同注意:呼吸機能の軽度な低下や、将来的な呼吸不全の可能性と、現時点での侵襲的換気療法の必要性。
- 4. 電動車椅子の導入は、下肢筋力低下による移動能力の低下が顕著な場合に検討されますが、現時点では上肢近位筋の筋力低下(MMT2)がより著明であり、下肢はMMT4と比較的保たれています。また、上肢近位筋MMT2では、電動車椅子のジョイスティック操作も困難な場合があり、まず上肢のADL支援が優先されると考えられます。正しくは:下肢筋力低下が進行し、歩行が著しく困難または不可能になった場合や、上肢機能が保たれて電動車椅子操作が可能になった場合に検討されます。選びやすい理由:MMTが4と低下しているため、移動手段として考えやすいですが、より緊急性の高い上肢機能の補完を見落としがちです。混同注意:下肢の筋力低下と上肢の筋力低下の重症度の比較、および日常生活における優先的な介入の必要性。
- 5. 在宅酸素療法は、低酸素血症(PaO2の低下)を改善するために行われます。患者の動脈血ガス分析ではPaO2が90Torrであり、低酸素血症は認められないため、現時点での適応はありません。正しくは:動脈血ガス分析で低酸素血症(例:PaO2が60Torr以下)が確認された場合に導入されます。選びやすい理由:ALSでは呼吸筋力低下から呼吸不全を呈することがあり、呼吸補助が重要という一般的な知識から誤って選択してしまう可能性があります。混同注意:呼吸筋力低下に伴う換気不全と、低酸素血症の有無。
国試ポイント
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行期の病態を理解し、その時期の患者の主な困難点(特に筋力低下によるADL障害)に対して、最も適切かつ段階的なリハビリテーション介入を選択できるかどうかが問われています。特に、症状のスクリーニングから、現状で困っていることに対する具体的な解決策を提案できる能力が重要です。
混同注意
筋ジストロフィーや重症筋無力症など、他の神経筋疾患の症状や進行段階。また、各医療介入(胃瘻、気管切開、酸素療法など)の適応基準やタイミング。
次に同じ論点が出たら
今後、嚥下障害が進行し体重減少が続くようであれば胃瘻造設を検討、呼吸機能が悪化し肺活量や血ガスデータに異常が見られれば呼吸補助(NIPPV)や気管切開術を検討するなど、病状の進行度に応じた段階的な介入を判断します。また、下肢筋力低下の進行に応じて移動手段の変更(例:車椅子導入)も考慮します。
関連知識
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが進行性に変性する疾患です。症状は、手足の筋力低下、筋萎縮、線維束性収縮、腱反射亢進などです。進行とともに構音障害、嚥下障害、呼吸筋力低下が出現します。治療は、リルゾールなどの薬物療法に加え、各症状に対する対症療法やリハビリテーションが重要となります。BFOは上肢近位筋力低下に対して、食事や整容動作の自立を助けるための有効な装具です。