Aさん(40歳、男性、会社員)は、うつ病と診断されていた。最近、仕事がうまくいかず、大きなミスを起こし、会社に損失を与えたことから自分を責め不眠となり、体重が減少した。ある朝、リビングの床で寝ているAさんを妻が発見し、大きな声で呼びかけたところ、Aさんは1度目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。ごみ箱に、からになった薬の袋が大量に捨ててあり、机には遺書があった。救急搬送後、意識が清明となり、身体的問題がないため精神科病院に入院となった。 入院後1か月、Aさんのうつ症状は改善を認めたが、同室患者とトラブルが続き、不眠や多弁傾向となった。また焦燥感が強く落ち着いて食事ができなくなった。そのため双極性障害と診断され、主治医から炭酸リチウムの内服の指示が出た。Aさんは炭酸リチウムを服用して1週後、手の震え、嘔気が出現した。Aさんの手の震え、嘔気の原因を判断するための検査で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第108回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
炭酸リチウムは、治療域と中毒域が狭い薬物(治療血中濃度範囲:0.6~1.2mEq/L)であり、過量になると中毒症状を引き起こします。手の震えや嘔気はリチウム中毒の初期症状として知られています。そのため、これらの症状が現れた場合には、血中リチウム濃度を測定し、中毒域に達していないかを確認することが最も適切な原因判断の方法となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 尿検査は、リチウムの血中濃度を直接的に評価するものではありません。薬物の排泄状態を間接的に見ることはできますが、直接的な毒性判断には不向きです。正しくは:尿検査は、リチウムの排泄機能や腎機能障害の有無を評価するために行われることはありますが、薬物血中濃度を直接測定するものではありません。選びやすい理由:腎機能が低下するとリチウムの排泄が遅れ血中濃度が上昇するため、腎機能の評価として尿検査が選択肢に上がるかもしれませんが、症状の直接的な原因特定には血中濃度測定が優先されます。混同注意:尿検査は薬物代謝に関わるため、一見関係があるように思えますが、リチウムの毒性症状の原因を特定するためには、その薬物が体内にどの程度存在しているかを直接確認する必要があります。
- 2. 髄液検査は、中枢神経系の炎症や感染症、一部の神経疾患の診断に用いられますが、炭酸リチウムの血中濃度や毒性を直接的に評価する検査ではありません。正しくは:髄液検査は、リチウムの血中濃度やその毒性症状の原因を特定する目的では通常行われません。中枢神経系の疾患を疑う場合に実施されます。選びやすい理由:手の震えが神経症状であることから、中枢神経系に異常があるかと考えるかもしれませんが、薬物による副作用であれば、まず薬物の血中濃度を確認します。混同注意:神経症状(手の震え)があるため、神経系の検査を連想するかもしれませんが、薬物による副作用の可能性が高い場合は、まず薬物の血中濃度を確認します。
- 3. 頭部MRI検査は脳の構造的な異常や病変を画像化する検査であり、脳腫瘍や脳梗塞などの診断に有用ですが、炭酸リチウムの血中濃度やそれに伴う毒性症状を直接判断するものではありません。正しくは:頭部MRI検査は、脳の器質的疾患を評価するものであり、炭酸リチウムの血中濃度や薬物中毒症状の直接的な原因特定には適していません。選びやすい理由:手の震えや嘔気が中枢神経系からの症状である可能性を考えて、頭部MRI検査を候補にするかもしれませんが、薬物治療中に発現した症状であれば、まず薬剤性の影響を疑います。混同注意:脳の検査であるMRIは、神経症状の原因を突き止めるために有効な手段ではありますが、薬物服用後の副作用が疑われる状況では、まず薬物自体の影響を評価することが重要です。
- 4. 正解。炭酸リチウムは治療域と中毒域が非常に近いため、薬物血中濃度をモニタリングすることが不可欠です。手の震えや嘔気はリチウム中毒の初期症状であり、血中濃度を測定することで、リチウムが過剰に体内に蓄積しているかを確認し、適切な対応を判断できます。正しくは:この選択肢は正しい。選びやすい理由:他の選択肢も神経症状に関連する検査であるため迷う可能性がありますが、薬物治療中の副作用を疑う場合、まずはその薬物の血中濃度を確認することが基本です。混同注意:他の検査も体の異常を探るものですが、具体的な薬剤(炭酸リチウム)の服用後に副作用が疑われる症状が出ているため、最も直接的に原因を特定できるのはその薬剤の血中濃度を調べる検査です。
国試ポイント
炭酸リチウムの薬物動態、治療域と中毒域、および初期の中毒症状を理解しているか、またそれらの症状が出現した際に取るべき検査として、薬物血中濃度測定の重要性を把握しているかが問われています。
混同注意
神経症状(手の震え)があるため、髄液検査や頭部MRI検査も選択肢として考えられますが、薬物治療中に発現した副作用の可能性が高い場合には、まず薬物の血中濃度測定が優先されます。尿検査は排泄機能の指標にはなりますが、直接的な血中濃度を測定するものではありません。
次に同じ論点が出たら
薬物血中濃度検査の結果、リチウム濃度が中毒域にあった場合、医師は投与量の減量や一時的な中止、またはリチウム排泄促進のための処置(例えば、生理食塩水点滴など)を検討します。看護師は、患者の症状の変化を継続的に観察し、水分摂取の促しやバイタルサインの管理を行います。
関連知識
炭酸リチウムは腎臓から排泄されるため、脱水や腎機能低下があると血中濃度が上昇しやすくなります。中毒症状としては、初期に手の震え、嘔気、下痢、倦怠感などが現れ、重症化すると意識障害、痙攣、不整脈などに至ることがあります。血中濃度測定は、服用開始時、増量時、および定期的なモニタリングが推奨されています。