63歳の男性。アルコール依存症。就職直後より毎晩大量に飲酒していた。40歳代で入院し診断を受けた。以後は定職に就かず、連続飲酒による入退院を繰り返している。最近、気分の変動や失見当識が出現し、羽ばたき振戦も認められるようになった。最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
肝性脳症は、重度の肝機能障害により、アンモニアなどの毒性物質が脳に到達し、脳機能不全を引き起こす状態である。設問の男性は長期間のアルコール依存症であり、連続飲酒による入退院を繰り返していることから、アルコール性肝疾患が進行している可能性が高い。気分の変動、失見当識といった認知機能障害、そして特に特徴的な症状である羽ばたき振戦(asterixis)は、肝性脳症の典型的な臨床症状である。他の選択肢は、設問の症状の組み合わせや既往歴とは合致しないか、より可能性が低い。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。長期にわたるアルコール摂取は肝臓に大きな負担をかけ、肝機能不全を引き起こします。肝臓がアンモニアなどの有害物質を適切に処理できなくなると、それらが血液脳関門を通過して脳に到達し、脳機能障害を引き起こします。これが肝性脳症であり、設問にある気分の変動、失見当識、羽ばたき振戦(asterixis)は典型的な症状です。
- 2. 進行麻痺は梅毒スピロヘータによる中枢神経系の慢性感染症であり、認知機能障害、精神症状、神経学的異常を呈しますが、アルコール依存症の直接的な合併症ではありません。正しくは:梅毒に罹患している患者で、数十年経過した後に認知機能障害や人格変化、けいれん、運動失調などの症状が見られる場合に考慮されます。選びやすい理由:認知機能障害や精神症状が見られるため、精神科領域の疾患と誤解しやすいかもしれませんが、梅毒の既往がなければ考えにくいです。混同注意:アルコール性認知症やその他の認知症性疾患と混同する可能性がありますが、原因が異なります。
- 3. 正常圧水頭症は、認知症、歩行障害、尿失禁の3主徴を特徴とする疾患であり、脳室拡大がみられるものの髄液圧は正常範囲であることが多いです。羽ばたき振戦は典型的ではありません。正しくは:高齢者で、認知機能低下、ふらつきやすい歩行、頻尿や失禁の症状が見られる場合に考慮されます。選びやすい理由:高齢者であることや認知機能障害が示唆される点から選択肢に入りやすいかもしれませんが、症状の組み合わせが異なります。混同注意:アルコール性認知症や他の認知症と混同する可能性がありますが、特徴的な歩行障害や尿失禁の有無が鑑別のポイントです。
- 4. 尿毒症性脳症は、慢性腎不全の進行により体内に蓄積した老廃物が脳機能に影響を及ぼす病態です。意識障害、認知機能障害、ミオクローヌスなどが生じますが、設問に腎不全を示唆する情報はありません。正しくは:慢性腎臓病患者で、腎機能の悪化に伴い意識レベルの低下やけいれん、不随意運動などが見られる場合に疑われます。選びやすい理由:肝性脳症と同様に、体内の老廃物蓄積が脳に影響を与えるという点で混同しやすいですが、原因臓器が異なります。混同注意:肝性脳症と症状が一部類似するため混同しやすいですが、原因が肝臓か腎臓かで鑑別します。
- 5. Cushing症候群は、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の過剰分泌によって引き起こされる内分泌疾患で、満月様顔貌、中心性肥満、高血圧、糖尿病、筋力低下、精神症状などが特徴です。羽ばたき振戦は典型的症状ではありません。正しくは:特徴的な身体所見(満月様顔貌、中心性肥満、皮膚線条など)があり、精神的な不安定さや身体合併症がみられる場合に疑われます。選びやすい理由:気分の変動という精神症状が含まれているため、精神疾患と誤解して選択する可能性もありますが、身体所見と組み合わせを考慮する必要があります。混同注意:アルコール依存症に伴う体重増加や精神症状と一部共通する面があるため、漠然とした知識では選んでしまうかもしれませんが、羽ばたき振戦などの神経症状は関連が薄いです。
国試ポイント
アルコール依存症の長期的な合併症とその特徴的な症状に関する知識が問われている。特に肝機能障害とそれに伴う神経精神症状である肝性脳症の診断能力が重要。症状(気分の変動、失見当識、羽ばたき振戦)と既往歴(アルコール依存症、連続飲酒、入退院)の結びつきを理解しているかが鍵となる。
混同注意
アルコール性認知症は長期的なアルコール摂取による認知機能障害ですが、羽ばたき振戦は典型的ではありません。ウェルニッケ・コルサコフ症候群はビタミンB1(チアミン)欠乏によるもので、眼球運動障害、運動失調、意識障害(ウェルニッケ脳症)や記銘力障害(コルサコフ症候群)が特徴ですが、羽ばたき振戦は必須症状ではありません。尿毒症性脳症は体内の有害物質が脳に影響を与えるという点で共通しますが、原因臓器(肝臓 vs 腎臓)が異なります。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出たら、以下の点に注目する。1. 既往歴:アルコール依存症の期間、飲酒量、入退院の有無、他の基礎疾患(肝疾患、腎疾患、糖尿病など)。2. 身体所見:黄疸、腹水、浮腫など肝機能障害を示唆する所見の有無。意識レベル、神経学的所見(特に羽ばたき振戦以外の不随意運動や局所神経症状)。3. 検査データ:肝機能検査(AST, ALT, ALP, γ-GTP)、血中アンモニア値、腎機能検査(BUN, Cr)、電解質、血糖値など。4. 症状の組み合わせ:気分の変動、認知機能障害(失見当識、記銘力障害)、不随意運動(羽ばたき振戦など)、意識レベルの変化。
関連知識
肝性脳症の病態生理:肝臓で代謝されるべきアンモニアなどの毒性物質が血中濃度を高め、血液脳関門を通過して脳細胞に影響を与える。肝性脳症の重症度分類:West Haven分類など。アルコール性肝疾患のスペクトラム:脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変、肝細胞癌。羽ばたき振戦(asterixis)のメカニズム:姿勢を保持する能力の障害で、主に肝性脳症、尿毒症、呼吸不全など代謝性脳症で出現する。