33歳の女性。統合失調症。半年ほど前から「誰かに見張られている」と言い、近隣でのトラブルが続いて再入院となった。入院後、生活リズムの改善を目的に本人が希望した手工芸の活動が開始された。作業療法開始3週で安定して活動に参加できるようになったが、依然として意欲低下があり、活動中に「見張られていて不安だから作業療法をやめたい」と申し出た。この時の作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
統合失調症患者の妄想は、薬物療法により症状が軽減するまで、完全に消失することは難しい。しかし、患者が妄想を抱えながらも現実社会に適応できるよう、作業療法士は安定した環境を提供し、継続的なサポートを行うことが重要である。本症例では、患者は手工芸活動に安定して参加できており、活動自体への適応は見られる。この状況で、妄想によって活動を中断したいと申し出た場合でも、すぐに活動を中止するのではなく、患者の不安に寄り添いつつ、活動を継続できるよう支援することが、生活リズムの改善や社会参加への意欲維持につながる。具体的な声かけとしては、「見張られていると感じて不安なのですね。でも、ここでは安全ですよ」「ここにいる間は、私たち作業療法士が一緒にいますから大丈夫ですよ」など、患者の不安を受け止めつつ、安心感を与える言葉を選ぶと良い。これは、病状が不安定な時期における作業療法介入の基本であり、活動を通して現実検討能力を少しずつ高めていくことを目指す。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者は手工芸活動に安定して参加できているため、活動自体に問題があるわけではない。妄想による不安が原因であるため、安易に作業種目を変更しても根本的な解決にはならず、むしろ活動への適応を阻害する可能性がある。患者が慣れて安定している活動を継続させる方が、治療的意義は大きい。正しくは:まずは現状の活動を継続できるような声かけを行い、それでも不安が強く活動が困難な場合や、他の要因で活動への不適応が見られる場合に限り、作業種目の変更を検討する。選びやすい理由:患者の不安を軽減するために、気分転換や環境変化を目的として作業種目変更を考えるかもしれない。しかし、この場合は不安の原因が妄想であり、活動そのものへの不適応ではない。混同注意:患者が活動自体に不満を訴えている場合や、活動がレベルに合っていない場合への対応。
- 2. 統合失調症患者の妄想は、病的な思考であり、詳細に聞き出すことは妄想を強化し、患者の不安を増大させる可能性がある。また、妄想の世界に作業療法士が踏み込むことで、現実との区別がつきにくくなり、病状を悪化させる危険性がある。妄想の内容を現実と関連付けて議論することは避けるべきである。正しくは:妄想の内容には深入りせず、患者の感情(「見張られていると感じて不安なのですね」)に寄り添いつつ、現実に基づいた安心感を与える声かけに留める。選びやすい理由:患者の訴えを傾聴することが、治療的関係を築く上で重要であると考えるから。しかし、妄想に関しては傾聴の仕方に注意が必要である。混同注意:妄想ではない現実的な不安や悩みに対する傾聴の姿勢。
- 3. 患者は半年間トラブルが続き再入院しており、生活リズムの改善が重要課題である。また、作業療法開始3週で活動に安定して参加できている状況であるため、妄想による不安から直ちに活動を中止することは、治療の中断を意味し、生活リズムの乱れや意欲低下の悪化につながる可能性がある。活動を継続し、安定した環境を提供することで、病状の改善を促すことが重要である。正しくは:患者の不安を軽減する声かけや環境調整を行い、可能な限り活動を継続するよう促す。選びやすい理由:患者が「やめたい」と訴えているため、その意向を尊重することが患者中心の治療であると考えるかもしれない。しかし、精神科リハビリテーションにおいては、病状に起因する訴えに対しては、治療目標を考慮した対応が必要である。混同注意:患者が身体的な苦痛や安全上の問題から活動中止を訴えている場合への対応。
- 4. 正解。患者は手工芸活動に安定して参加できており、生活リズムの改善という目的にも合致している。妄想による不安は存在するが、この段階で活動を中断することは望ましくない。作業療法士は、患者の「見張られている」という妄想の内容を否定せず、しかし現実的な安心感を伝えるような声かけを通じて、活動を継続できるよう支援することが最も適切である。例えば、「不安な気持ちはわかりますが、ここは安心できる場所ですよ」「作業に集中していれば大丈夫ですよ」といった声かけは、患者の不安に寄り添いつつ、現実世界に留まるよう促し、活動への再集中を促すことができる。
- 5. 統合失調症患者の妄想は、論理的な説明によって訂正されるものではない。事実がないことを説明することは、患者にとって自分の感覚や体験を否定されたと感じさせ、作業療法士への不信感を抱かせたり、かえって妄想を頑強にさせたりする可能性がある。治療的な関係性を損ない、患者を孤立させてしまう危険性があるため、このような対応は避けるべきである。正しくは:妄想を否定するのではなく、患者の感情に寄り添いつつ、安全な環境であることや、作業療法士が一緒にいることなどを伝え、不安軽減を図る。選びやすい理由:現実検討能力を促すために、現実を伝えるべきだと考えるから。しかし、妄想は病的なものであり、単なる誤解とは異なるため、直接的な事実説明は逆効果となる。混同注意:現実検討能力が比較的保たれている患者や、妄想ではない認知の歪みに対する現実的な情報提供。
国試ポイント
統合失調症患者の妄想に対する作業療法士の基本的な対応と、治療的関係を維持しながら活動を継続させる重要性について問われる。特に、妄想の内容に直接介入するのではなく、患者の感情に寄り添い、安全な環境を提供しつつ活動を促す視点が重要となる。
混同注意
妄想を否定することと、妄想を容認すること。妄想を尊重することと、活動の継続を促すこと。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合は、まず患者が現在の活動にどの程度適応しているか、そして妄想が活動の継続をどの程度妨げているかを判断する。また、妄想に直接介入することの適切性と、活動を通して不安軽減を図ることの優先順位を考慮する。
関連知識
統合失調症の症状(陽性症状、陰性症状、認知機能障害)、薬物療法、作業療法の原則(現実検討能力の向上、生活技能訓練、社会性回復、活動の構造化、患者中心のアプローチ)、治療的コミュニケーション。