63歳の男性。脊髄小脳変性症により在宅生活を送っている。重症度分類は下肢Ⅲ度(中等度)、上肢Ⅳ度(重度)である。日常生活で使用する福祉用具で誤っているのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
脊髄小脳変性症患者の福祉用具選択に関する問題です。患者は下肢Ⅲ度(中等度)、上肢Ⅳ度(重度)とされており、特に上肢機能の低下が著しいことがポイントです。ポータブルスプリングバランサーは、残存する上肢のわずかな運動能力を活用して、物を操作しやすくするための補助具ですが、上肢がⅣ度重度の場合、その残存機能は極めて乏しく、バランサーによる恩恵を受けることは困難であると判断されます。一方、キーボードカバー付きパソコン、シャワーチェアー、ポータブルトイレ、歩行器は、それぞれの機能障害レベル(特に下肢機能の中等度低下)を考慮すると、日常生活動作の支援として適切または検討の余地がある福祉用具です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。ポータブルスプリングバランサーは、上肢の運動機能が極度に低下している場合に、その残存機能を活用して物を操作するのを補助する目的で使用されます。しかし、この患者さんの上肢はⅣ度重度とされており、わずかな残存機能も期待しにくい状態です。そのため、スプリングバランサーを使用しても効果的な操作は困難であり、福祉用具として適切とは言えません。正しくは:上肢の機能低下がさらに軽度であるか(例:Ⅲ度中等度以下)、残存する関節可動域や筋力が、バランサーによって実際に操作可能なくらいある場合に検討されるべきです。選びやすい理由:上肢機能が重度であるため、何らかの補助が必要だと考え、バランサーがその補助具の一つであると誤解しやすいかもしれません。しかし、重度の場合は補助具の恩恵を受けにくい場合が多いです。混同注意:スプリングバランサーは、ある程度の残存機能がある場合に活用できる道具であり、完全に機能が失われている場合に効果があるわけではありません。上肢装具全般や、上肢の補助具と混同しやすいです。
- 2. 脊髄小脳変性症では、上肢の協調運動障害により、キーボードの誤打や指のブレが生じやすいです。キーボードカバー(キーガード)は、キーの間隔を埋めることで誤打を防止し、指の安定性を高める効果があります。上肢Ⅳ度重度の患者でも、残存する腕の動きや指の機能があれば、カバーを使用することでパソコン操作が可能になる場合があります。
- 3. 脊髄小脳変性症による下肢の協調運動障害や筋力低下(下肢Ⅲ度中等度)は、立ち上がりの不安定さや転倒リスクを高めます。シャワーチェアーを使用することで、座位での入浴が可能となり、転倒を予防し安全に身体を洗うことができます。
- 4. 下肢の運動機能障害(下肢Ⅲ度中等度)があるため、通常のトイレまでの移動や移乗が困難になる場合があります。特に夜間や緊急時に、ベッドサイドに設置できるポータブルトイレは、安全で自立した排泄を支援するために非常に有効です。
- 5. 下肢Ⅲ度中等度の機能障害がある場合、バランス能力の低下や歩行時のふらつきが見られます。歩行器は、体を支持し安定性を高めることで、転倒リスクを減らし安全な歩行を支援する福祉用具です。完全に歩行が不可能でない限り、有効な選択肢となります。
国試ポイント
脊髄小脳変性症患者の重症度分類を理解し、それぞれの機能レベルに合致する福祉用具の適切な選択・不適切な選択を判断する能力が問われています。特に、『重度』という言葉の解釈と、その状態での用具の有効性を評価できるかが重要です。
混同注意
上肢の機能が重度だからこそ、何らかの補助具が必要だと短絡的に考え、ポータブルスプリングバランサーを適切だと誤解する可能性があります。しかし、補助具は残存機能を引き出すものであり、全く機能がない状態では効果が薄いという点を理解する必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出た場合、身体機能レベル(特に重症度)と福祉用具の具体的な使用目的・効果を結び付けて考える力が問われるでしょう。単に『補助具=良い』ではなく、『補助具がその残存機能に合致するか』を判断する必要があります。
関連知識
脊髄小脳変性症の病態と進行、各ADLに対する障害の影響、上肢・下肢の重症度分類(改訂BARSなど)の理解、各種福祉用具の適応と禁忌、個別性のある用具選定の重要性。